▲都市部にまとまった緑地や水面があると、水分の蒸発散により冷却効果がある。皇居と皇居外苑はまさに東京の「クールアイランド」になっている ▲都市部にまとまった緑地や水面があると、水分の蒸発散により冷却効果がある。皇居と皇居外苑はまさに東京の「クールアイランド」になっている

都会の暑さは舗装の多さや風通しの悪さが原因

今年の夏も暑かった。特に都心部は地表の被覆の人工物化、つまりは舗装や高い建物による風通しの悪化で、暑さに拍車がかかった。自動車ユーザーも舗装道路の上を走行している以上、原因の一端になっているといえるかもしれない。

だがコンクリートジャングル・東京にも、冷却効果をもたらす緑地や水面がところどころにある。中でも都心のど真ん中に位置するグリーンアイランドが、皇居と皇居外苑だ。2011年の環境省による調査では、皇居外苑の8月の気温は、周辺市街地よりも平均して約1度低いという結果が発表されている。

▲芝生と松林が広がる皇居前広場は、見た目にも涼しげ ▲芝生と松林が広がる皇居前広場は、見た目にも涼しげ

ヒートアイランドを抑えるための特殊な舗装になっている

そんな皇居周辺は、実は舗装にも工夫が凝らされていることをご存じだろうか。敷地の大部分が芝生や玉砂利に覆われる皇居前広場には、楠公駐車場(約1.3ha)と馬場先地区(約1.2ha)という2ヵ所のアスファルト舗装部分がある。アスファルトやコンクリートは熱をため込みやすい。そのため、遮熱性舗装という近赤外線をよく反射する材料を使い、路面温度の上昇を抑えているのだ。

遮熱性舗装は東京オリンピックのマラソンコースにも採用される見込みとなっている。環境省の担当者によると皇居外苑の遮熱性舗装は「あくまでもクールアイランドとしての効果は緑地や水面によるものがメインですが、舗装部分もその効果を邪魔しないように取り入れています」ということのようだ。

▲皇居前広場の馬場先地区の舗装。通常のアスファルトよりもちょっと白っぽい ▲皇居前広場の馬場先地区の舗装。通常のアスファルトよりもちょっと白っぽい
▲左が遮熱性舗装、右が通常の舗装。遮熱性舗装は遮熱コート層が、太陽光の赤外線域を特殊な顔料や微粒子によって反射させる ▲左が遮熱性舗装、右が通常の舗装。遮熱性舗装は遮熱コート層が、太陽光の赤外線域を特殊な顔料や微粒子によって反射させる

気温にも景観にも気を配られている行幸通り

さらに皇居と東京駅を結ぶ、道路延長約190mの「行幸通り」にも秘密が隠されている。2008~2009年にかけて整備された行幸通りは、関東大震災後に整備された4列イチョウ並木が復元され、中央部分には敷石に御影石が使用された馬車道空間(通常時は歩道として使用)が設けられるなど、落ち着いた雰囲気で統一されている。

▲東京駅を望む行幸通り。中央から馬車道、イチョウ並木、車道、歩道で構成されている ▲東京駅を望む行幸通り。中央から馬車道、イチョウ並木、車道、歩道で構成されている

この馬車道の両側にある車道部分は、保水性舗装で施工されている。「舗装の内部に水を蓄えることにできる保水材を詰めたもので、気温が上昇すると水が気化して周囲の熱を奪います。路面温度の上昇を最大で10度程度抑える効果があります」(東京都建設局)という。

ここに使用される水は、実はすぐ横に位置する丸ビルの店舗や厨房から出る排水や雨水などを再生処理して使用されている。行幸通りはビル群の間を抜ける風の通り道としても機能しているため、官民が協力してのヒートアイランド対策が実施されているのだ。

▲行幸通りは照明や防護柵も、落ち着いた雰囲気のあるデザイン ▲行幸通りは照明や防護柵も、落ち着いた雰囲気のあるデザイン

実は皇居周辺の道路は、舗装以外にもヒミツが隠されている。行幸通りと接続する日比谷通りや内堀通りなど、皇居周辺の道路は道路照明や防護柵などが統一感のあるデザインになっている。皇居前広場や東京駅などの東側だけでなく、北の丸公園や半蔵門など一周全てが統一されている。国道や都道など、管理区分をも超えて実施されている取り組みだ。

信号機の色にも注目してほしい。通常、東京都内の信号機は、支柱やフレームが濃い茶色で塗装されているものが一般的だ。一方で、皇居の周辺では道路照明や防護柵ともども、若干緑がかったグレーに統一されている。

▲左が皇居周辺の信号機(グレー)、右が通常の東京都心の信号機(濃茶)。微妙に色が違うのだ。 ▲左が皇居周辺の信号機(グレー)、右が通常の東京都心の信号機(濃茶)。微妙に色が違うのだ。

残暑厳しい季節には、ちょっと涼しい皇居周辺では車を降りて、こういった道路のヒミツを見つけてみてはいかがだろうか。

text&photo/渡瀬基樹