▲新築マンショションの完成予想図に描かれている車はなぜか大半がアウディで、次点はBMW。レクサスはごくたまに登場するが、それ以外の日本車はまず出てこない ▲新築マンショションの完成予想図に描かれている車はなぜか大半がアウディで、次点はBMW。レクサスはごくたまに登場するが、それ以外の日本車はまず出てこない

東京23区東部の「輸入車率」は73%。そのうち9割以上がアウディ!

皆さんすでにご存じかとは思うが、分譲マンションのパース(完成予想イラスト)の中にCGで描かれている車は、ほとんどが輸入車である。日本のマンションなのに、なぜか日本車はほとんど描かれない。それについて常々「けしからん!」と思い、隙あらばばどこかの関係機関に苦情を申し立てようと考えていた筆者は、苦情を申し立てる前に正確な事実関係を調べてみることにした。すなわち「ほとんどが輸入車である」とはいうが、「ほとんど」って具体的にどのくらいなのか? そして「輸入車」の中でもどのブランドが多いのか? ということだ。

リクルートが運営する住宅情報サイト「SUUMO」に掲載されている全国のパースをひたすらチェックしまくった結果わかったのは、マンション業界における異様なほどのアウディ人気と、その対極にあるレクサスの苦戦、そしてさらに根本的な一つの問題点であった。以下、順を追ってご説明しよう。

まず調べてみたのが、日本でもっとも輸入車が多く生息しているであろう「東京都心部」にある新築マンションのパース。……が、都心部は土地面積に余裕がないせいか、そもそもパース内に車がまったく登場しない物件がほとんど。ということでここはサクッと飛ばし、近年進捗著しい東京の右半分、すなわち「23区東部」のパースから精査してみよう。

調査日の時点でSUUMOに掲載されていた新築分譲マンションのうち、23区東部の物件は130件で、そのうちパースが掲載されていたのは約90件(※筆者が見落としている可能性もゼロではないので、以下の数字はすべて“約”と考えていただきたい)。90件のうち、パース内に何らかの形で車が登場していたのは38件であった。

で、結論から言うと輸入車率は73%に上り、輸入車の中での「アウディ率」は90.1%に達した。要するに「描かれてる車の7割方が輸入車で、そのほとんどがアウディ」ということだ。具体的には1位がアウディの20台で、2位は曖昧な造形の「なんだかよくわかんないCG車種」の10台。3位には、わずか3台ではあるがトヨタ プリウスが登場して日本車の面目を保った。しかし、その他の日本車勢はほぼ全滅で、レクサスのIS Fと日産スカイライン、そしてスバルレガシィがそれぞれ1台ずつ描かれるのみだった。

アウディが(図面上で)躍進する半面、日本のレクサスは大苦戦

「マンション業界における圧倒的なアウディ人気」は他のエリアでもほぼ同様で、各地区のパースにおける輸入車率と、その中での「アウディ率」は以下のとおりであった。

●23区南部(目黒区、世田谷区など):輸入車率75% うちアウディ率50%
輸入車率は23区東部とほぼ同様だが、ポルシェやアルファロメオ、プジョーなど多種多様な輸入車が少数ずつだが登場する分だけ、アウディ率は下がっている。日本車はレクサス1台のみ。

●埼玉県:輸入車率56% うちアウディ率71%
輸入車率は56%にとどまったが、決して日本車が多いわけではなく「CGならではの車種不明車」が多いからこの数字になっただけ。日本車はレクサスが2台と、トヨタbBらしき車が1台あったのみだ。

●名古屋市:輸入車率83% うちアウディ率56%
パースがあった45件のうち41件に車が描かれていて、そもそも自動車熱が高いエリアであることが窺われる。圧倒的に多いのはやはりアウディ(19台)だが、プジョーやミニ、ポルシェなどもバランスよく登場。レクサスも比較的健闘し、BMWとポルシェの各3台を上回る4台が登場した。

●大阪府(大阪市と堺市以外):輸入車率53% うちアウディ率50%
やはり第1位はここでもアウディ(5台)だが、レクサスも4台で見事2位に。また日産リーフやトヨタ ヴェルファイアなど、他のエリアでは見られない車種が描かれているのも大阪府の特徴であった。

その他、「持ち家率日本一」であり「ザ・保守王国」と言われる富山県は「(みんな一戸建てを建てたがるので)新築マンションの情報が2件しかなく、描かれている車も伝統の日産スカイラインだけ」という、期待をまったく裏切らない調査結果となった。

富山県はさておき、今回の調査で全般的に見えてきたのは「とにかく輸入車、それもアウディ出しときゃ何となくオッケーなんだろ?」という、ディベロッパー側の自動車観と、「BMWでもメルセデスでもなく、とにかくアウディ」という意味不明なアウディ人気。そして、本来は「高級、上質」のアイコンになるはずのレクサスが、それになれていないという厳しい現実であった。

▲「アウディが多い」といってもほとんどがA4風やA6風、あるいはTT風などで、写真のA1やA3スポーツバックなどのコンパクト系はほぼ皆無。とにかく「わかりやすい高級感」だけが求められているようだ ▲「アウディが多い」といってもほとんどがA4風やA6風、あるいはTT風などで、写真のA1やA3スポーツバックなどのコンパクト系はほぼ皆無。とにかく「わかりやすい高級感」だけが求められているようだ

▲「高級で上質なライフスタイル」といえばレクサスが思い当たるが、新築マンション業界では思いのほか不人気。マンション完成予想図のイラストがレクサスだらけになる日は来るのだろうか? ▲「高級で上質なライフスタイル」といえばレクサスが思い当たるが、新築マンション業界では思いのほか不人気。マンション完成予想図のイラストがレクサスだらけになる日は来るのだろうか?

また、「本当の第1位はアウディではない」という問題もある。車が描かれているパースの中では確かにアウディの数がもっとも多かったのだが、すべてのパースの中で一番多かったのは、実は「車がまったく描かれていないパース」だったのだ。

車がもはや「ステキでリッチな生活」を喚起させる圧倒的な存在ではなくなっている現状を、自動車業界は今後どう打開するのか? あるいは世の中の流れにどう寄り添っていくのか? 新聞の折り込みチラシを熟読しつつ、見守っていきたい。

text/谷山 雪