▲国際福祉機器展に行ってきた ▲国際福祉機器展に行ってきた

85kgのてんちょ~をラクラクと運べる電動ウェルチェア

10月10日(水)から12日(金)までの3日間、東京ビッグサイトで開かれた第45回 国際福祉機器展。国内外から約550社もの企業が福祉に関する機器を展示したこのイベント。

編集部のてんちょ~と横山さん、そして私の3人は最新の福祉車両をリポートするために訪れた。

「85kgとかふざけんなよ、痩せろよ!」という言葉を飲み込む私をしり目に、横山さんはにっこりと編集部の先輩であるてんちょ~が収まる車いすの後ろに回った。

きっと、横山さんは笑顔の裏で、腹の内にいろんなものを隠しているのだろう。

介護の必要な夫役がてんちょ~で、それをかいがいしく世話をする妻役が横山さん。そんな安直な設定を決めたてんちょ~にイラッとしつつも、笑顔で「わかりやすくていいですね!」と返していた横山さん。

車いすのグリップを握ったそのとき、トヨタのスタッフが声をかけてくれた。

トヨタのスタッフさん:右手グリップにコントロールパネルがありますよね? そこの「進む」の矢印を押してから、車いすを押してください

おお! 電動車いすか。これならラクショーだ。手を添えて車内へ誘導するだけ。しかも車内での固定は、所定の位置まで運べば車いすがカチッとロックされて、はいおしまい。

いちいちしゃがみ込んで車いすに固定フックをかけるとか、そういった面倒な作業は一切不要だ。

てんちょ~:座り心地もいいなー

トヨタのスタッフさん:お尻が沈み込む姿勢になって、体重を背中からお尻までの広い面積で支えますし、重心が下がることで乗車中の上半身の揺れを軽減できるので長時間のドライブも快適です


▲トヨタのヴォクシー/ノア/エスクァイア車いす仕様車タイプIII。専用の電動車いす「電動ウェルチェア」が備わる▲トヨタのヴォクシー/ノア/エスクァイア車いす仕様車タイプIII。専用の電動車いす「電動ウェルチェア」が備わる
▲てんちょ~が座っているのが「電動ウェルチェア」。ちなみにモーターはヤマハの電動車いすと同じもので、1回の充電で約16km走行できる。家の中や近所へのお出かけなど、普通の電動車いすとしても使える▲てんちょ~が座っているのが「電動ウェルチェア」。ちなみにモーターはヤマハの電動車いすと同じもので、1回の充電で約16km走行できる。家の中や近所へのお出かけなど、普通の電動車いすとしても使える
▲2列目の助手席側に電動ウェルチェアを乗せる。車いす仕様車というと3列目に1人ポツンと乗せるタイプが多いが、ここなら同乗者との会話を楽しみやすい。また電動ウェルチェアはお尻が沈み込むため、通常の車いすよりも視線が同乗者と同じ目線まで下がり、会話もしやすくなるる▲2列目の助手席側に電動ウェルチェアを乗せる。車いす仕様車というと3列目に1人ポツンと乗せるタイプが多いが、ここなら同乗者との会話を楽しみやすい。また電動ウェルチェアはお尻が沈み込むため、通常の車いすよりも視線が同乗者と同じ目線まで下がり、会話もしやすくなる
▲写真の白い2本のフックに電動ウェルチェアの専用バーが引っかかると、あとは自然にバーがグイグイと食い込んで、電動ウェルチェアが固定される仕組み▲写真の白い2本のフックに電動ウェルチェアの専用バーが引っかかると、あとは自然にバーがグイグイと食い込んで、電動ウェルチェアが固定される仕組み

駐車スペースが狭くても使える、電動の回転&昇降シート

てんちょ~:あ、こっちは回転&昇降シートだ! どれどれ座ってみよっと

記事からは読み取れないかもしれないが、さっきから取材が行き当たりばったりだ。きっと、てんちょ~は普段から何も考えずに、目の前にあるものすべてに手を伸ばして口に運んでいるタイプだ。「だから85kgなんだ……」なんていうことは、決して口にも顔にも出さす腹にしまい込む。

きっと同じことを思っているであろう横山さんが何かに気づいた。

横山:それにしてもこのシート、他の回転&昇降シートとは何かちょっと違うような?

トヨタのスタッフ:サイドリフトアップチルトシートといって、普通の回転&昇降シートより車外への出っ張りが少ないから、隣りに車が止まっていても乗降しやすいんです


▲シートを最大に出してもこのようにシート座面はわずか24cmしか車外へ出っ張らない。回転&昇降は電動。写真はヴェルファイアだが他にアルファード、ヴォクシー/ノア/エスクァイアに設定されている▲シートを最大に出してもこのようにシート座面はわずか24cmしか車外へ出っ張らない。回転&昇降は電動。写真はヴェルファイアだが他にアルファード、ヴォクシー/ノア/エスクァイアに設定されている

てんちょ~:座るのも簡単だよ。いつもならお尻をドン! って落とさないといけないけれど、これならお尻の位置が高いから、少しかがむ程度で座れる!

85kgをドン! と受け止めるシートがかわいそうだ。

でもこのシートならてんちょ~のお尻に破壊される心配をしなくていい。

横山:足腰が弱い人にとって、あまりかがまなくていいのは足腰の負担が少ないし、脇で介助する側もラクですねー

▲外に向いたときにお尻の位置が高いから、座るのも、立ち上がるのも足腰の負担も少ない▲外に向いたときにお尻の位置が高いから、座るのも、立ち上がるのも足腰の負担も少ない
▲座ったらリモコンかシート脇のスイッチで操作して、電動で車内へ。降りるときはその逆▲座ったらリモコンかシート脇のスイッチで操作して、電動で車内へ。降りるときはその逆

運転にあまり自信のない人に安心の軽自動車の福祉車両

ホンダでは昨年フルモデルチェンジしたN-BOXに注目。今年追加された「スロープ仕様」をチェック。旧型にもN-BOX+車いす仕様車があったけれど、それと何が変わったのだろうか。

ホンダのスタッフさん:スロープをしまってもフラットになるので、旧型のようにフラットにするためのボードをスロープの上に備える必要がなくなりました

▲ホンダ N-BOXフラット仕様で、スロープをしまった状態▲ホンダ N-BOXフラット仕様で、スロープをしまった状態
▲スロープは旧型と比べ約2.5kg軽量化され、力の弱い人でも簡単に引き出したり、しまいやすくなった▲スロープは旧型と比べ約2.5kg軽量化され、力の弱い人でも簡単に引き出したり、しまいやすくなった
▲電動ウインチを備えているので、車いすを押すのもラクラク▲電動ウインチを備えているので、車いすを押すのもラクラク
▲車いすを乗せないときは後席が使える。後席は背もたれのリクライニング操作も可能。その際、車いすの人が乗車時に握るバー(ブルーのバー)は、旧型では取り外したが、新型ではクルッと後ろ向きにするだけでOK▲車いすを乗せないときは後席が使える。後席は背もたれのリクライニング操作も可能。その際、車いすの人が乗車時に握るバー(ブルーのバー)は、旧型では取り外したが、新型ではクルッと後ろ向きにするだけでOK

横山:軽自動車なら、私でも安心して運転できるから、将来介護するときには便利そう

てんちょ~:やだなぁ、まだまだオレはゲンキだぜ!?


本気なのか冗談なのか、そーいうセンスのない発言がうっとうしい。横山さんは自分の両親の話をしてるんだっつーの。

もちろん口にも顔にも出さず、横山さんは笑顔で返していた。

横山さんのお腹がこの短時間で黒々としてきたように見えた。

輸入車にも車いすを乗せるなどの介助仕様を備えられる!?

軽自動車、国産車、輸入車。将来の両親のことを考えれば、もっと自由に福祉車両を選びたいものだ。というわけで訪れたのは「オフィス清水」のブース。

オフィス清水のスタッフさん:日本は自動車メーカー自らが福祉車両を開発しますが、欧米では自分の車をカスタマイズするのが当たり前。ですから後付けできる装備がたくさんあるんです

同社はヤナセとも提携しているので、全国のヤナセからもカスタマイズを申し込むことができる。

そんな中、まず注目したのは車いすリフトだ。

▲イタリア製の車いすリフトは見た目もスッキリとオシャレ▲イタリア製の車いすリフトは見た目もスッキリとオシャレ
▲最大積載量は360kg(てんちょ~が約4.2人)。操作はスイッチを押すだけと簡単▲最大積載量は360kg(てんちょ~が約4.2人)。操作はスイッチを押すだけと簡単
▲装着されたデモカーはメルセデス・ベンツのVクラス。日本車だとトヨタ ハイエースも可能だそう。本当は海外には対応する車がもっとあるのだけれど、例えばフォルクスワーゲン T6など正規輸入されていない車が多い▲装着されたデモカーはメルセデス・ベンツのVクラス。日本車だとトヨタ ハイエースも可能だそう。本当は海外には対応する車がもっとあるのだけれど、例えばフォルクスワーゲン T6など正規輸入されていない車が多い

てんちょ~:ねぇねぇ横山、押して(にっこり)

ふと気づくと勝手に車いすに座ってスタンバっているてんちょ~。思わずイラッとした様子の横山さんだが、もちろんにっこりと笑顔で応え、言われたとおり車に乗せてあげていた。

▲スウェーデン製の車いす回転シートシステム。簡単にいうと、車のシートと取り外し可能な車輪部分の2つのパーツに分かれている▲スウェーデン製の車いす回転シートシステム。簡単にいうと、車のシートと取り外し可能な車輪部分の2つのパーツに分かれている
▲車内の装置にセッティングすると、乗員を乗せたままシート部分のみ車内へスライドすることができる。85kgもあるてんちょ~だが、「ラクにスライドさせられますー」と横山さん▲車内の装置にセッティングすると、乗員を乗せたままシート部分のみ車内へスライドすることができる。85kgもあるてんちょ~だが、「ラクにスライドさせられますー」と横山さん
▲あとは車輪部分だけはずし、車のシートを回転させて車内に収めるだけ。デモカーはメルセデス・ベンツ Sクラス(旧型)のためAピラーが寝ているため、てんちょ~は首を曲げているが、Aピラーが立った車ならもっとラクな姿勢で乗降できそうだ▲あとは車輪部分だけはずし、車のシートを回転させて車内に収めるだけ。デモカーはメルセデス・ベンツ Sクラス(旧型)のためAピラーが寝ているため、てんちょ~は首を曲げているが、Aピラーが立った車ならもっとラクな姿勢で乗降できそうだ
▲外した車輪部分はたいていの男性なら持ち上げてトランクにしまうことができるが、車いすを吊り上げる装置を備えれば誰でもラクにしまえる▲外した車輪部分はたいていの男性なら持ち上げてトランクにしまうことができるが、車いすを吊り上げる装置を備えれば誰でもラクにしまえる

それにしても、85kgもあるてんちょ~を介護する役なんて、横山さんには拷問のような仕事だと思っていたが、最新の福祉車両だと思いのほか簡単なようだった。

text/ぴえいる
photo/稲葉真