VW ビートル

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
 

子供の頃からの夢はビートルに乗ること。憧れの車を入手するまでの情熱と挑戦

「子供の頃に伯父が乗っていたビートルを見せてもらったんですよ。それ以来、ずっとビートルに乗りたくて」そう話すのは、歯科医の伊藤壽人さん。彼が初めて憧れた車は、親戚の伯父さんが載っていた赤いビートルだった。あの独特なフォルムと低いエンジン音、そしてその走りに一目ぼれした。

VW ビートル▲伊藤さんのビートルは1959年式
VW ビートル▲1958年から採用された「スモールスクエアウインドウ」が特徴的。年式によってリアのウインドウ面積が小さなスクエアタイプと大きなラージスクエアタイプと分かれている

免許を取ったのも、ビートルに乗るためだった。18歳でバイクの免許を取った後、すぐに車の免許を取得。「ビートルに乗るためにマニュアル免許を取ったんです」と、とにかく必死だった。

ほどなくして、人生で最初に手に入れた車がビートルとなった。20代だった当時は当然お金がなく、貯めたバイト代を工面したが、半分は両親に援助してもらった。「77年式の白いビートルで、当時150万円ぐらいでした」と伊藤さん。少しずつ市場価格が値上がりし始めていたが、それでも夢の車だった。

手に入れた頃は、よくキャンプに行ったそう。「天井にキャリアを付けて、キャンプ道具を積んで」と、ビートルと自然の中で過ごすアウトドアライフを満喫していた。

VW ビートル▲以前所有していたビートルでキャンプに訪れた際の様子(写真は伊藤さんご本人撮影)

ビートル改造大作戦! 仲間たちとともに作り上げてきたビートルライフ

ビートルは人との出会いももたらしてくれた。あるライブハウスに出かけた際、ビートルに乗っていた人に話しかけたら、地元・山梨のビートル好きが集まる“空冷イベント”に誘われたのだ。そして、そこで多くの仲間たちと出会うことになった。「ワーゲンに乗っていると自然と仲間が増えるんです」と伊藤さん。彼にとってビートルは、憧れていた車でもあり、人とのつながりを作ってくれる存在となっていた。

VW ビートル▲空冷仲間とともにカーイベントに度々参加している(写真は伊藤さんご本人ご提供)

ビートルへの愛は、ひょんなことから新たなステージに進んだ。ある日、空冷イベントのメンバーの中でより古いビートルを手放す人が現れたのだ。写真を見せてもらうと、なんと探し求めていた貴重な59年のUSモデルの黒いビートル。これが現在の愛車だ。58年に製造され、翌59年にサンフランシスコに輸出された、正当なキャルルック仕様だった。

VW ビートル
VW ビートル

「ここで手に入れておかねば」と、すぐに購入を決意。2年間ともに過ごした白いビートルを後輩に売却して、即行動に移った。

ガレージに59年モデルの黒いビートルを迎え入れ、すぐに車いじりを始めた。ドア下の足を掛けるサイドステップが錆で腐食していたので、同じ年式の新品にリプロのゴムを貼って付け直したり、純正ではないバンパーが装着されていたので、ネットオークションで純正を落札して装着し直した。

VW ビートル▲仲間たちの手を借りつつ自分でリペアを行ったそう(写真は伊藤さんご本人撮影)

さらに塗装も傷だらけでズタボロだったので、友人とポリッシャーをかけて研磨。ホイールはポルシェ911のホイールを履かせ、ジャーマンルックな外見に様変わりした。また、心臓部のエンジンは、「ちょっと素性がわからないエンジンで……」と、この車の年式と異なるエンジンが搭載されていたそう。

アメリカで相当いじられてきた車なので、オリジナルのパーツに戻しながら、自分が思うかっこいい車に仕上げることにしたという。見た目はキャルルックの優等生ルックだが、エンジンをよりパワフルなものに換装し直しチューニングを施して、車高も低くした。「低くければ低いほど、かっけえんです」と伊藤さん。不思議と山梨にはシャコタンが多いのだとか。

VW ビートル
VW ビートル

こうして59年モデルの黒いビートルは、“羊の皮をかぶった狼”のようなビートルに生まれ変わった。

どこまでカスタムする?と尋ねてみると、「まるで1/1ミニカーなんですよね」と伊藤さん。最終的にたどり着きたいところが、 いつまでも更新されていく感じだという。カスタム費用がトータル100万円ちょっとに抑えられているのは、できることは自分たちの手でやったからなのだ。

さらに伊藤さんのビートルには、仲間から譲り受けたパーツが多いのも理由のひとつ。例えばシフターは、子供の頃に憧れた伯父さんの赤いビートルのものを使わせてもらっているという。ホイールはミシュランのXWXを履いたままの状態で4本セット10万円。マフラーもお世話になっているお店で格安で譲ってもらったそう。「とにかくいろんな人の協力があってできた車って感じです」と、周りに感謝する気持ちは忘れない。

VW ビートル
VW ビートル

直近の目標は、やんちゃな中身になった黒いビートルでVW Drag Inというドラッグレースに出ること。「直線で思いっきりスピードを出して、ビートルの力を試したい」と語る。現在は、換装したエンジンの慣らし運転中。来年の出場を目指してギアも調整する予定だ。

エンジン音もロック! ドカドカうるさいビートルで楽しむ縦ノリなドライブ

そこまでカスタムすると、ドライブ中のエンジン音は「はちゃめちゃにうるさい」とのこと。デート中も大声での会話になるし、さらにエアコンが付いていないので夏場は飲み物も必須だという。それだけ過酷な車内空間だが、バンドやDJ活動もしている伊藤さんにとっては、音楽は切っても切れない関係。

VW ビートル
VW ビートル

友人に手伝ってもらいながらステレオも装着。リアのラゲージスペースに実家で使わなくなったコンポのスピーカーを入れ、フロントの下にもスピーカーを設置。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYといったバンドの、エンジン音に負けないロックアンセムに包まれながら、縦ノリのドライブを楽しんでいる。でも、バンドメンバーからは、狭い・うるさい・ガソリン臭いと不評のようだ。

それでも、黒いボディがロックな雰囲気にもマッチしていて、バンドの移動にはピッタリ。運転している伊藤さんだけ気分よく移動できている。むしろ「ドカドカうるさくて、ガソリン臭いところがたまらないんです」とビートルへの偏愛は止まらない。

VW ビートル

黒いビートルの魅力はそれだけではない。エンジンを換装したことで、思ったよりもよく走ってくれるようになった。下道でリッター7~8kmくらい。高速で15kmと燃費もまずまず。「割とエコでしょ」と、ニンマリほほ笑む伊藤さん。

「この車に出会ったおかげで、人生が変わりましたね。たくさんの仲間ができたし、車との時間が本当に楽しい」ビートルとの日々は、伊藤さんにとってかけがえのない時間。ビートルに対する情熱は、時間が経つほどに深まっていく。

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フォルクスワーゲン タイプⅠ × 全国
文/北村康行、写真/阿部昌也
フォルクスワーゲン・タイプ1 ビートル

伊藤さんのマイカーレビュー

フォルクスワーゲン・タイプ1 ビートル

●購入金額/約150万円
●年間走行距離/購入してから約3万km
●マイカーの好きなところ/うるさくて、ガソリン臭いところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/便利な車じゃないところ。おもちゃみたいなワイパーで、雨の日は大変
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/凝り性で、飽き性な人