Honda Racing Gallery▲常設展示エリアのメインホールにはホンダ F1マシンを展示。中央には1965年メキシコGPでF1初勝利を飾った「Honda RA272」と、2021年にフェルスタッペン選手がドライバーズチャンピオンを獲得した「Red Bull Racing Honda RB16B」が展示される

F1を戦った歴代のマシンやエンジンが目の前に

日の丸が描かれた葉巻型の白いマシン「Honda RA271」によるホンダのF1初出走から 60年目の春となる2024年4月5日、鈴鹿サーキット敷地内に「Honda RACING Gallery」がオープンした。

例年9~10月頃に開催されてきたF1日本グランプリが、今年は初めて春開催となったこともあり、そのタイミングに合わせての開館となった。「Honda RACING Gallery」は2023年11月に営業を終了した鈴鹿レーシングシアターに代わる新たな展示施設。鈴鹿サーキットは1987年にF1を初開催して以来、いまに続く世界のF1ファンにとっての聖地であり、そしてホンダのモータースポーツ活動においての重要拠点。この地にギャラリーを開設することは歴史的必然といえるものだ。
 

Honda RACING Gallery▲館内に合わせてギャラリーの外観もブラックを基調となる
Honda RACING Gallery▲エントランスにはF1第2期を戦った「McLaren Honda MP4/5」が展示される

「Honda Racing Gallery」の1Fの常設展示「Honda F1勝利の系譜」では、「Honda RA272」をはじめ、「McLaren Honda MP4/5」や「Red Bull Racing Honda RB16B」など、黎明期から日本でF1ブームを巻き起こした1980年代、そして技術革新が環境性能へと転換した 2010年代以降の、数々のホンダのF1マシンやエンジンなどを展示している。

B1Fでは2024年6月中旬まで、オープン&F1日本グランプリ開催記念企画展「Honda F1 日本人ドライバーたち」を開催中だ。日本人で初めて F1フル参戦を果たした中嶋悟を先駆けとして、これまで多くの日本人ドライバーがF1へと挑んだ。そんな彼らがステアリングを握ってきたホンダ F1マシンが展示されている。
 

Honda RACING Gallery ▲企画展示エリアでは、2024年6月中旬まで「F1日本グランプリ企画展示」を開催。ホンダとともに戦った歴代の日本人F1ドライバーに焦点を当てた展示となる

ホンダは日本の自動車メーカーにおいて、唯一F1に挑戦を続けている企業だ。しかし、これまでの歴史は決して順風満帆というわけでない。どちらかといえば波乱万丈だ。

1964~1968年を第1期とすると第2期は1983~1992年となり、「McLaren Honda MP4/4」に乗るアラン・プロストとアイルトン・セナの2人によって16戦中15勝を挙げるという快挙を成し遂げた。まさにホンダの黄金期とも呼ばれる時代だった。そして第3期(2000~2008年)は、エンジンサプライヤーとしてではなくホンダのフルワークスチーム、「B・A・R Honda」として挑みジェンソン・バトンや佐藤琢磨が活躍。また、日本人選手として初めてF1の表彰台に立った経歴をもつ鈴木亜久里が立ち上げた「SUPER AGURI F1 TEAM」へエンジン供給も行っていた。第4期(2015~2021年)は、マクラーレンとふたたびタッグを組んだことで黄金期の再来を期待されるも、結果を残せずに提携を解消。ところが2018年からはトロロッソ、その翌年からはレッドブルともタッグを組み、チャンピオン争いを演じるまでに成長した。

ところがホンダは、2021年限りでPU(パワーユニット)を供給するF1参戦活動は終了すると発表。2022年からレッドブルとアルファタウリ(現RB)には、レッドブル・パワートレインズという新会社がPUの供給する体制となった。しかし両チームからの要請もあり、ホンダは技術支援という名目で提携を継続することになる。現在もPUはホンダのHRC Sakura研究所で開発、製造されており、実質的にはホンダがPUを供給しているのだ。PUに関するレギュレーションが維持される2025年シーズンまでは、この「ホンダ F1 第4.5期」などと呼ばれる少しばかり中途半端な体制が続くとみられている。

そして、2026年はPUの新レギュレーション導入にともないF1の勢力図が一新されるかもしれない。現ザウバーを買収したアウディがF1に正式参入を開始。ホンダはアストンマーティンとPU供給契約を結んでおり、晴れて「ホンダ F1 第5期」がスタートとなる。

RBに所属する日本人ドライバーの角田裕毅選手の活躍もあって、史上初の春開催となった今年のF1日本GPには、3日間で22万9000人が訪れたという。F1が大きな盛り上がりを見せる中で、あらためて「Honda RACING Gallery」を訪れてみると、いろんな発見があるはずだ。ちなみに、写真映えすることを計算のうえで照明設計されているという。鈴鹿サーキットを訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてほしい。

Honda RACING Gallery
〒510-0295 三重県鈴鹿市稲生町7992(鈴鹿サーキット内)
入館は無料(鈴鹿サーキット入場料が別途必要)
*レース開催日は観戦券も必要 *F1日本GPの開催期間中など混雑期は事前予約が必要
 

Honda RACING Gallery ▲エントランスからメインホールへは“スピード感と期待感を高める”スピードトンネルを通って行く
Honda RACING Gallery▲常設展示エリアには歴代のエンジンやパワーユニットも展示されている
文/藤野太一 写真/Honda