プジョー▲プジョーは長年にわたって車名の真ん中の文字を「0」とし、その前後の数字を変えることでモデル名を表してきたが、2012年にそのネーミング手法を改め、末尾を「8」とすることにした(新興国向け車両は「1」)。その時を前後として、プジョーの車作りにおける質感が大きく変わった

プジョーの車はドイツ車のような堅牢な作りだった?

最近のフランス車のクオリティには目を見張るものがある。個人的には、ここ10年弱のプジョーの質感の良さには、ジャーマンスリーに近づかんとばかりの勢いを感じている。

しかし、プジョーの質感の向上について「最近」という表現を使うのは、やや語弊があるかも知れない。かつて私が乗って、触れたことのあるプジョー 504はとても質感に優れた車だった。中流層を意識した504は、名門カロッツェリアであるピニンファリーナの助けも借りて、長きにわたり強靭なプラットフォームを使ってセダンやコンバーチブル、そしてトラックまで、幅広いバリエーションを揃えた車だった。
 

プジョー▲1968年から1983年という長きにわたって製造されていたプジョーの中型モデルである504。写真のセダンの他に、クーペやカブリオレ、そしてワゴン(ブレーク)、トラック(ピックアップ)など多様なボディを揃えていた

茄子紺(なすこん)の何とも言えない上品な佇まいのセダンは、ピニンファリーナのデザイナーの中でも、フェラーリの黄金期を支えたエレガントなモデルの生みの親である巨匠アルド・ブレバローネのデザインだ。プジョーはこの時からすでのドイツ車の堅牢的なエッセンスを取り込んだモデルを作っていた。

もっとも、その後、傘下に収めたシトロエンのDSの作りがとてもいいのは言うまでもない。フランス車=ちゃちで壊れやすい、というイメージは、合理的な作りであるが故にそういった固定観念が植えついたのだろうか。

504をはじめとするプジョーの車が、世界中の様々な国でライセンス生産を行っていたことを考えると、そもそも生産に対するマネージメントは優れているのだろう。

話が横道に逸れてしまったが、なぜプジョーというフランスのメーカーにドイツ車らしい一面があって今でもその流れが続いているかが、私は気になっていたのである。解決への糸口かどうかは定かではないが、歴史的にこういうことがあった。

1945年以前に、プジョーはポルシェととてもいい関係にあった。その理由は、ポルシェ設計事務所とプジョーの面々は、生産設備や部品関連で深いやりとりがあったからである。プジョーはその恩恵でかなりの富を蓄えたという。

すなわち、プジョーは名門ポルシェの「モノ」をよく知っていたのだ。そういった経緯もあって、プジョーに堅牢な作りが可能だったのではないかと想像がつくのである。ただ、このようなDNAは時代とともに薄らいでいくもの。良質であることよりもコストを重視する時代になると、必ずしも堅牢さが美徳でなくなるのは仕方ないことであろう。変化なくして革新は生まれない、ということなのであろうか。
 

車作りの軸が質感へ変わった2000年代。プジョーは……

ところが、2000年代に近づくにつれ、コストもさることながらクオリティが企業の一つのイノベーションであるという、VWのCEOおよび監査役会会長を務めたDr.ピエヒの考えから一気に“質”の重要性がクローズアップしたのである。

プジョーにもその考えはあったのだろう。2013年に登場した2代目のプジョー 308からそういったエッセンスが急激に高まったように思える。
 

プジョー▲2013年に登場した2代目となるプジョー 308。デビュー当時、フランス車では最高峰の軽量で強固なプラットフォームを採用し、世界戦略車としてドイツ車に対抗していく意気込みを感じたほどだった

同時期に、最高のビジネスセンスをもったエンジニアが日産を離れた。PSAグループを今日のステランティス社として大きく羽ばたかせたカルロス・タバレス、その人だ。彼がキーマンであることをご存じだろうか。

ルノーから日産の経営トップとして君臨したカルロス・ゴーンの軍師だった人物で、日産復活への道筋をつけたカルロス・タバレスであるが、そんな彼がゴーンを見限ったのである。

タバレスは生粋のエンジニアであった。その証拠に、ゴーンにこれからの大衆車にはクオリティが明確にわかるマテリアルやフォルムが必要だと訴えていた。しかし、コストカッターの異名をとるゴーンはその言葉を聞かず、また、タバレス以外の上層部はゴーンの指示をのむだけの人間が多かったのではないだろうか。あくまでもこれは私のフィクションとノンフィクションの創造である。しかし、日産時代のタバレスは、クオリティの大切さを理解している人には、「とにかく質を高めろ」と話していた、ということを聞いたことがある。
 

プジョー▲それまでカルロス・ゴーンの片腕としてルノーのCOOを務めていたカルロス・タバレスがプジョーシトロエングループ(PSA)のCEOに就任することが2013年に突如発表された。2021年からはフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)と合併したステランティス社のCEOを務める

タバレスが日産を去った2013年から、プジョーは破竹の勢いでバリューフォーマネーに優れた商品展開をするのである。とくにプジョーはFFでありながら細かな制御でトラクションをコントロールさせ、滑りやすい路面でのスタビリティを向上させた。製造コストを上げなくても合理的な方法で中身の質を向上させたのだ。

それだけでなく、エクステリアとインテリアの質感も高まった。横置きユニットのFFはリアのスタイリングが弱くなりがちだ。それはFFのプラットフォームとクオーターパネルによる設計がそうさせているのだが、FFながらプジョーは早くからロバスト性(強靱性)をスタイリングで表現した。
 

プジョー▲プジョーの車作りが大きく変化したのは2代目の308から。走行性能だけでなく、内外装デザインの質感も高まった。新しいアーキテクチャーの再構築することで、とくにリアのスタイリングに張りがあるスタイルとなっている

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プジョー 308(2代目)× 全国

具体的な一例としては、タイヤとフェンダーの位置をぎりぎりまで外に出せる設計である。日本車でもここ半年ほどで見られるようになったデザインだ。プジョーは2013年に登場した2代目308の設計をベースに、最新の3代目308ではサイドからみたリアのスタイリングに強さを表している。

弟分の2代目208もそのようなアーキテクチャーによって作られていることは理解できる。ルノー、日産と歩いたタバレスが表したかった、大衆モデルであっても質の高さが大切だという志を、PSAグループで開花させたのである。

日産も遅ればせながら、タバレスが訴えていた質を高めたモデルが昨年から次々とアナウンスされ、話題を集めているのはご存じのとおり。技術や志を持った本人が組織から去っても、継承してゆく人はいるのである。
 

プジョー▲2代目308の質感の高さを踏襲した3代目308。デザイン上の質感はさらに向上しており、サイドからみたリアまわりのスタイリングに力強さがある
プジョー▲308の弟分にあたる208も、高い質感は統一されている。大衆車にこそ高い質感が必要であるという哲学はプジョー全車にわたって共通する

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プジョー 208(2代目)× 全国
文/松本英雄、写真/ステランティス