プジョー 208

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

はじまりは軽トラから

新井大輝さんは2020年全日本ラリー選手権の最高峰クラスで年間王者を獲得。先日行われたWRC第13戦ラリージャパンにもプジョー 208ラリー4で参戦してクラス優勝、総合15位でフィニッシュするなど、世界での活躍が期待される日本人若手ラリードライバーの一人だ。

もっとも、幼少期からカートなどでドライビングの英才教育を受けていたわけではなく、19歳になって四輪免許を取得してから車に乗り始めた。最初の愛車は祖父が所有していた軽トラだという。

「学生でお金もなかったので祖父のスバル サンバートラックに乗ってましたけど、結果的にこれが大正解でした。MTでRRだったので運転が楽しく、コスパも抜群。一晩中走り回ってもガソリン代は3000円くらいで済みますからね。僕は群馬県出身なんですけど、雪の赤城山を走ったりしてウデを磨いてました(笑)」

運転を好きになったきっかけは山奥の秘境温泉巡りを趣味にしていたから。温泉に行くまでの道中では必然的にワインディングを多く走ることになるため、自然と速く、スムーズに走るための技術に興味を持つようになったのだ。そして四輪免許取得から約1年後にラリーも始める。

新井さんは工学部でエンジニアリングを学んでいたが、ホンダ NSXやS2000の開発主査を務めたこともある研究室の教授から「エンジニアを目指すなら、自分でもモータースポーツをやることが大切。車への理解がより深まる」とアドバイスされたからだという。だが、新井さんはラリーを始めて2年後にはトヨタの育成ドライバーとして欧州の選手権を転戦し、あっという間に国内トップクラスのラリーストへと上り詰めることになる。
 

プジョー 208▲山道をドライブしていると、気づいたらラリーで使うペースノートを記録するようにアクセル開度などを呟いてしまっていることがあるという

208はあらゆる面で理想的な1台

現在、プライベートの愛車はスバル インプレッサ(GC8、GDB)や三菱 コルトラリーアート、ダイハツ エッセ(軽耐久レース用)、ロータス エリーゼなど、複数台を所有するが、つい最近、プジョー 208GTもその仲間に加わった。

「このところキャンプ、とくにサウナテントにハマっているんです。だから、ある程度広い荷室があった方がいいんですけど、峠道を楽しく走れる走行性能はマスト。そうすると必然的にハッチバックタイプの車になるんです。それに僕は昔からフランス車特有のしなやかな“アシ”が好きなんです。208は競技でラリー4仕様をドライブしますし、あらゆる面で理想的な1台でした」
 

プジョー 208

フランス車との出会いは学生時代に所有したシトロエン C2から。海外のラリーを走るときのために左ハンドル&MTに慣れておこうと25万円で購入した車だ。安いという理由で選んだC2だったが、FFでありながらオーバーステア気味の特性でクルクル曲がるのがじつに面白かったのだとか。

「じつはプジョーは2台目なんです。208の少し前に308を買ったんですけど、納車から1ヵ月しかたっていないのに豪雨で水没してしまって……」

気丈にも新井さんは自宅の地下駐車場で水没している愛車の写真をリアルタイムでツイッターにアップ。この投稿は大いにバズったので目にした方もいるかもしれない。水中でけなげにヘッドライトをともし続ける308の姿……。オーナーならずとも涙せずにはいられない深い哀愁を感じさせた。いまも車両は手元にあり、いつか復活させるつもりでいるという。
 


プジョー 208

車を心から『楽しむ』ことは自分の原点

プロドライバーとして活躍するようになっても「車を心から『楽しむ』ことは自分の原点であり、忘れたくない志」と語る新井さん。ドライブでは、あえてナビや地図を使わず、下道だけで山奥の温泉まで行くこともある。

「下道を走ると風土や文化が良く分かりますし、思いもよらぬ道や景色との出会いがあるのもいいですよね。温泉で地元のおじいさんと会話するのもドライブの楽しみのひとつです」

そして現在でも、休日前の夜は元自動車部の仲間たちとガレージに集まり、学生時代のノリを懐かしみつつ車いじりに興じているという。
 

プジョー 208▲取材当日は、所属する「Ahead Motor Service」に集まってきた仲間とYouTubeの打合せをしていた
プジョー 208▲グレードはGT。選んだ理由のひとつは音質の良さだそう
プジョー 208▲プライベートでも、車を運転するときは常にレーシングシューズを履く
文/佐藤旅宇、写真/柳田由人

プジョー 208

新井大輝さんのマイカーレビュー

プジョー 208(2代目)

●年式/2022年式
●購入金額/約380万円
●年間走行距離/12,000km
●購入検討中に比較していた車/シトロエン C3
●マイカーの好きなところ/プジョー特有の乗り味
●マイカーの愛すべきダメなところ/リアシートが少し狭い!w
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/ATだけど走りを楽しめるので、ファミリー(奥さま)とドライビングを両立したい人にぜひ!

佐藤旅宇

ライター

佐藤旅宇

オートバイ専門誌や自転車専門誌の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。乗り物系の広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はボルボ C30とカスタムした日産ラルゴの他、トライアンフ スクランブラー(バイク)や、たくさんの自転車。