シトロエン XMを溺愛するカメラマンが選んだ、1日でも長く乗るための“2台持ち”という作戦
2022/05/20
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
見た瞬間に電気が走った
何らかのデータに基づく事実ではなく、あくまで都市伝説レベルの話ではある。だが、「宇宙で一番壊れやすい」とされる車の東横綱がイタリアのランチア デルタ インテグラーレだとするならば、西横綱はフランスのシトロエン XMということになるだろうか。
1989年から2000年にかけてのシトロエン社のフラッグシップである。
そんなシトロエン XMに、なんと都合4台も乗り継いでいるのが、宇宙で一番遅刻が許されない職業とされている(?)フリーカメラマンの岡村智明さんだ。
駆け出しカメラマンだった26歳のとき、初めての愛車としてデーウのマティスという超小型車を買い、その後シトロエンのエグザンティアブレークというステーションワゴンに乗り替えた。
そして、エグザンティアブレークに撮影機材を積んで現場まで行く途中にたまたま見かけ、「なな、なんて美しい車なんだ!」と魂ごと持っていかれたのが、シトロエン XMだった。今から19年前、2003年のことである。
仕事道具としてのXM
さっそく中古で購入したXMでは、3年間で約11万kmを走った。1年あたりの走行距離は8000kmから1万kmほどが平均的だとされているが、岡村さんの当時の走行距離は1年あたり約3万7000km。
なぜそんなにも距離が延びたかといえば、撮影現場まで行く足として、常にシトロエン XMを使用していたからだ。
「XMのデザインも、乗り味も、とにかく僕にとってはドンピシャなんです。7時間から8時間ほどの長時間撮影をしてヘトヘトになっても、XMを運転して帰れば、いつの間にか疲れが取れてしまう」
「そして撮影現場も、遠ければ遠いほどうれしいんです。遠ければ、その分だけ長い時間XMを運転していられますから(笑)」
酷使というのか愛用というのか、とにかくそのように使っているうちに、最初に購入したXMは前述のとおり、たったの3年で約11万kmを走るに至った。
乗り継ぎ乗り継ぎで現在の3台目に
しかし、車というのは11万kmも走ればあちこちがお疲れになるのは当然のことで、岡村さんの初号機もあるとき、エアコンやドライブシャフトなどの“大物”が同時に壊れてしまった。
そのため京都の専門店で見つけた同型車に買い替え、途中1回のATオーバーホールを含みながらも約8年間、約32万kmの距離を「2台目のシトロエン XM」で走破した。
しかし、車というのは32万kmも走れば……(以下同文)なので、2014年に「3台目のXM」として買い替えたのが、現在乗っている1998年式のシトロエン XM エクスクルーシヴだ。
「で、トルクフルな3L V6エンジンを積んでいるXMエクスクルーシヴには大いに満足しているのですが……実はもう1台持ってるんですよね(笑)」
XMとの時間を長く
正規輸入モデルであるXMエクスクルーシヴと同時に所有しているのは、日本には導入されなかった2L直4エンジン+マニュアルトランスミッションという仕様であるという。
なるほどそれはめでたいことではあるが、しかしなぜ、シトロエン XMという“やっかいな車”を、2台も所有しているのか?
「なんといいますか……先ほども言ったとおり、撮影現場へも絶対にこの子で行きたいですし、それと同時に1日でも長く、XMという車に乗っていたいんですよね。そしてそのためには、“XMを複数台所有する”という方策がベストだと思ったんです」
定期的なメンテナンスを怠らない岡村さんゆえ、「宇宙で一番壊れる」とうわさされるモデルであっても、前述したとおり11万kmや32万kmという距離を無事に走りきれている。
とはいえ、それは「途中、何の問題もなかった」ということではなく、やはり様々なマイナートラブルは発生する。そして時には、ATなどの大物が逝ってしまうこともある。
事実、現在乗っている1998年式エクスクルーシヴもATが壊れ、その修理にはなんだかんだで1年間ほどかかってしまったという。
なくなる前に買っておく
「やっぱり壊れるは壊れるんですよ、XMに限らず、古い車というモノは。でもそんなときに“もう1台”があれば、常にXMに乗っていられるじゃないですか?」
「ハイドラクティブサスペンションがもたらす得も言われぬ乗り味と、素晴らしいデザインを堪能できるじゃないですか? だから、自分は“もう1台”を買うことにしたんです」
そしてもうひとつ。「修理期間中も乗っていたい」というシンプルな理由だけでなく「1日でも長く、この素晴らしい車に乗り続けていたいから」というのも、岡村さんがもう1台のシトロエン XMを購入した理由だ。
「いつまでも、それこそ死ぬまで乗っていたいという思いはあります。でも、実際は不可能だと思うんです。いつかきっと、あきらめなければならない日はやってくる。すでに今、僕が1台目や2台目を買った頃と比べれば、XMの流通量は激減してますしね。それゆえいつの日か、『乗り替えたくてもモノがない』ということになるはずなんです。でも……」
でも?
「2台のXMをそれぞれ整備しながら、そしてローテーションさせながら乗っていれば――それぞれの機械的な寿命は、例えばたった1日であっても延びると思うんです」
自分はその“1日”のために、2台を使い分けているのだと思います。まぁもちろん『常にXMに乗っていたいから!』というシンプルな理由が一番ではあるのですが(笑)」
決してピカピカなわけではないが、愛をもって使い込まれた機械特有の輝きを放っている2台のシトロエン XM。そんな2台を眺めながら、岡村さんはそう言った。
▼検索条件
シトロエン XM(初代) × 全国岡村さんのマイカーレビュー
シトロエン XM(初代・エクスクルーシヴ)
●購入金額/30万円
●走行距離/20万km
●マイカーの好きなところ/おおらかな乗り心地と疲れない布シート
●マイカーの愛すべきダメなところ/ATやサスマウントなど車の肝の部分が消耗品であること
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/XMがとにかく好きな人。ハートが強い人
岡村さんのマイカーレビュー
シトロエン XM(初代・ベースグレード)
●購入金額/150万円
●走行距離/14万km
●マイカーの好きなところ/MT、4発の2Lで軽快。トラブルが少ない
●マイカーの愛すべきダメなところ/見当たりません!
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/XMがとにかく好きな人。燃費もこだわりたい人
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。