house ▲ガレージの右側奥に見えるシルバーのドアが玄関。この玄関ドアを含む、ガレージより右側が増築された部分だ。ガレージを覆うコンクリート壁も、増築前とはデザインが異なる
 

白いコンクリート壁が印象的なガレージハウス。実は一度完成した後に、増築して今のカタチになった。そう言われなければわからないほど現在の姿に増築感はないが、最初から計画されていたわけではない。しかも施主が建築家に注文したのは「水盤が欲しい」とだけ。以前はどのような家だったのだろうか。
 

かつてのガレージには、ゲストを迎える役目があった

このガレージハウスは2度完成している。1度目は2009年に、2度目は2021年だ。最初は建物正面から見て、ガレージのある左側のみだった。

「奥に細長く延びた敷地でした」と施主のMさん。そこは実家の庭だった場所。母親から一人では庭の手入れも行き届かないから、ここに家を建てないかと誘われたそうだ。

ただでさえ親の一人暮らしが心配だったMさんは、それなら安心だと考え、建築家を探した。しかし、彼が暮らす愛媛県内ではピンとくる人がいない。そこでもう少しエリアを広げてみると、主に山口県で活躍している建築家の窪田勝文さんを見つけた。

窪田さんの手掛けた家へ何度か訪れるにつれて、ますます窪田作品に魅了されていった。しかしMさんは、そうやって自分の希望する家のイメージを固めたわけではなかった。「私からは何も注文しませんでした。自分から要望を出すようでは、自分の想像力を超えるものは出てこないと考えていましたから」とMさん。

唯一リクエストしたのは「水盤が欲しい」ということ。なぜか昔から池や水辺が好きだったという。窪田作品には数々の名水盤が備わることが多いが、それを見てさらに欲しくなったのかもしれない。一方の窪田さんも施主に何も聞かない。会うたびに家とは関係のない話をする。それが窪田流。

そんなやりとりから、施主に合う家のイメージを探っていく。果たして出来上がった最初のガレージハウスは、施主の希望どおり「想像をはるかに超える」ものだった。
 

house ▲ガレージ右脇に残る、かつての玄関越しにガレージをのぞいた景色。増築前はここから出入りしたため、必然的にガレージ内を通ることに
house ▲増築前は照明のないガレージを通って写真のシルバーの引き戸から中に入った。現在の玄関からでもゲストは、この引き戸を開けて中へ入る
house ▲施主が初めて買ったのはFD型のRX-7。次いでサーブ 900、アルファ 155、アバルト 695と乗り継ぎ、現在はステルヴィオとミニ
house ▲正面に見えるのが現在の玄関。左のドアノブが見えるドア部分が以前の玄関。左のガレージ側の壁には、電気やガスのメーターが隠れている

玄関のドアはガレージ脇にちょこんと付いている。ゲストはおのずと暗がりのガレージを進む。奥から差し込む唯一の明かりに誘われるようにさらに進むと、次第に周囲が明るくなり、ついに頭上に空が広がり、足元には水盤がきらめく空間が現れる。その先の大きなガラス越しに白いLDKが見えて......という具合。

まるで木々の生い茂る暗い森を進んでいくと、空の抜けた水辺があった、そんなイメージだ。最初のガレージハウスは窪田さんと施主にとって、100%の完成形だった。それから月日が経ち、母親が亡くなり、実家部分を相続したMさん。今度は窪田さんに増築を依頼する。

しかし当初、窪田さんは「増築しても、とってつけたようにしかならない」と渋い顔をしたという。それだけ完結していたガレージハウスだったということだ。

それでも施主の熱意から、何か方法はないかとあれこれ探ってみた。するとガレージ脇に玄関通路を備えることをイメージをしたあたりから徐々に、それこそ暗い森の先に明るい水辺が出現したごとく「完成形が次第に見えてきた」という。

こうして2021年、ガレージハウスは再び完成した。「まるで最初から増築を想定していたように、いろいろなことが上手くいった」と窪田さん。もちろん今回もまた施主の「想像をはるかに超えたガレージハウス」となった。
 

house ▲12年のうちには窪田さんの中でもデザインに対する微妙な変化はある。今回の増築ではそうした細かなデザイン修正も合わせて行われた
house ▲玄関から左右に延びる廊下。増築側はすりガラス越しに柔らかな光が差し込む、照明のないシンプルな空間で、まるで美術館の廊下のよう
house ▲大きなガラスの引き戸を開け放つと、外とLDKが一体化する。テラスで水盤を流れる水の音を聞いていると、街中にいるとは思えない
house ▲LDKとテラスを囲むように水盤がある。照明は見えないが、夜でも十分明るいのが窪田作品の特徴。特に月が明るい夜は心地よいそう
house ▲薄暗いガレージから明かりを頼りに進むと、大きな水盤のあるこの景色が広がる。廊下やLDK、バスルームとはガラスで仕切られている

■主要用途:専用住宅
■所在地:愛媛県松山市
■構造:RC造
■敷地面積:533.83m²
■建築面積:272.02m²
■延床面積:278.01m²
■設計・監理:窪田勝文(窪田建築アトリエ)
■TEL:0827-22-0092

※カーセンサーEDGE 2022年4月号(2022年2月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

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文/籠島康弘、写真/尾形和美