平田の家 アルファGTV

コンクリートとガラスに囲まれた愛車とともに過ごすための家

ダークトーンのコンクリートで構成された住宅のなかに一歩足を踏み入れると、ガラスに囲まれた不思議な空間が現れる浮遊感のある居住スペースは、まさに愛車と暮らすために創造されたものといえる。

計算し尽くすことで生まれた設計の美しさ

正面の引き戸を開けると、アルファレッドに彩られたアルファGTVが姿を現した。やや距離を置いてリビングルームのテーブル、そしてキッチン。そう、ガレージスペースが、そのまま住空間となっている。見上げると、3方向のガラスエリアから明るい自然光がたっぷりと注ぎ込む。まるで、上質なショールームか、洒落たカフェのようだ。

布施さんと施主であるTさんとの出会いは、住宅関連の雑誌がきっかけ。布施さんの作品を見たT夫妻はひと目で気に入り、迷わずコンタクトを取ってアトリエを訪ねた。さらに、お互いの愛車がアルファロメオであることがわかるとクルマ談義にも花が咲き、布施さんに対する信頼度は一気に増していったのである。

「ビルトインガレージであること」がTさんの最優先条件だったが、ここはガレージと呼べるものではない。GTVは明らかに家族の一員として捉えられ、邸内の一等地が与えられている。まさに、クルマ好きだからこそ理解できる愛車への思い入れを布施さんが具現化したといえる。

中2階は、建物の中心を貫くブリッジのような存在。そこから2階へ続く半透明の階段は、眼下にガレージを見下ろせる。上下左右たっぷりとした空間をもっているから、不思議な浮遊感が特徴だ。周囲に目を配ると、階段からはすべての部屋が見渡せる。同時に、邸内のどこからでもGTVを見ることができ、ガラスに囲まれたクールな空間に身を置くと、視界に必ずアルファレッドが映る。

中2階に戻り、当初から気になっていた3方向を囲むガラスエリアを内側から観察してみた。すると、驚くべきことに3方向には柱がない。これにより「抜け感」(布施さん談)が実現でき、より開放感を強調している。もちろん、技術的に難しいことは素人目にもわかる。このあたりも、美術館などを多く手掛ける布施さんの真骨頂といえる造形だろう。

私は、邸内に入った瞬間から、クルマでいう「剛性」に近いものを感じていた。しかし、カチッとした印象でありながら緊張感を強いるものでもないという、不思議な感覚だ。「(その感覚は)寸法を決めるときに計算し尽くし、時間をかけてデザインをしているからかもしれません。空間の抑揚やリズムについては慎重に考え、抑えるところは抑え、大きくするところは大きくするというように意識的に抑揚をつけました」と布施さん。

「昔から書道をやっているのですが、書道では余白美が重要です。それをデザインするときに意識しました。それらによる完成度や精度が、空間を引き締めているのだと思います」

そう語る布施さんの横で、しきりに頷くTさん。竣工から2年を過ぎた今でも、新築直後の状態を維持していることは、家に対する愛着と布施さんに対する尊敬の表れだろう。「今晩も酒が進みそうですよ」Tさんは、満足そうに笑った。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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2階にある寝室スペース。隣に位置する書斎とは、壁による視覚的な仕切りはされていないが、中2階から続く階段によって、足元の空間が明確に分けられている

寝室と同じ空間にある書斎。目の前は、中2階のテラスが位置するため開けた空間となっている。その先には、座った位置で目線と同じ高さのルーフテラスが存在する

平田の家 建築家・布施 茂
一級建築士事務所 fuse-atelier
tel.043-296-1828
http://www.fuse-a.com

所在地:千葉県市川市 主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦 構造:RC造 規模:2階建
敷地面積:86.32㎡ 延床面積:95.70㎡
設計・監理:一級建築士事務所
fuse-atelier/布施 茂