▲一般的には「中古車を買うなら必ず現車の状態を自分の目で確認すること」と言われているが? ▲一般的には「中古車を買うなら必ず現車の状態を自分の目で確認すること」といわれているが?

いくつかのスクリーニングをすれば今や通販感覚でもノープロブレム?

「現物を見ずに中古車を買うのはご法度」といわれている。とはいえ、これだけネットで車が検索できるようになれば、遠方のショップから通販感覚で中古車を買うケースも多いだろう。そのような場合でも「最終的には現車の状態を自分の目で確認しましょう」的なアドバイスがなされることが多い。実際、筆者もそのとおりだとは思う。

しかし、オートオークションの普及で中古車の品質が標準化した今の時代であれば、現物を1回も見ずにマトモな中古車を手に入れることも決して不可能じゃないのでは? そう考えた筆者は、一つの実験をしてみることにした。ご法度とされる「現物を1回も見ずに中古車を買う」を、実際にやってみたのだ。車種は、その当時欲しいと思っていた初代M・ベンツSLKである。

▲1997年から2004年まで販売された初代M・ベンツSLK。基本となるエンジンは2.3L直4DOHC+スーパーチャージャーで、ボタン一発で開閉する「バリオルーフ」も当時は斬新でした ▲1997年から2004年まで販売された初代M・ベンツSLK。基本となるエンジンは2.3L直4DOHC+スーパーチャージャーで、ボタン一発で開閉する「バリオルーフ」も当時は斬新でした

まずはカーセンサーnetで初代SLKを一網打尽で検索し、「あまりにも安すぎるモノ」や「あまりにも多走行なモノ」を除外する。そのうえで、残った各車の写真とキャプション(写真に付いている説明文)を熟読する。具体的には、写真の絵面から現物のコンディションを推測するとともに、写真の撮り方やキャプションの有無、その内容の濃淡などから「商売熱心なお店か否か?」を推察するのだ。モノというのは「商売熱心な人」「自分のビジネスに熱意を持ち、創意工夫を怠らない人」から買えば大抵の場合、そう酷いことにはならない。それが、筆者がこれまでの買い物人生で学んだ経験則である。

お客目線で見やすい写真が撮られていて、キャプションも充実している物件以外を除外したら、次はそれらお店の公式ウェブサイトを見る。やたらと大きい文字で「お客様満足度日本一! ウルトラスーパー激安価格!!! 何から何まで当社にすべてお任せください!!!!!」みたいなデザインの店は除外する。「饒舌すぎる商売人からモノを買うと大抵の場合、酷いことになる」というのも、買い物人生で学んだ経験則だ。同時に、サイトが妙に汚い(素人の無料ブログのような)デザインのお店や、サイトの作りや文章などが非常にわかりにくい店も除外する。これは、要するに「訪れるお客の気持ちを全然わかってない、もしくはわかろうともしていない」ことの証左だと推測できるからだ。

以上のスクリーニングを経て残ったA店に筆者がちょうど望んでいた仕様の初代SLKがあったため、A店と商談を進めることに。まずはカーセンサーnetの問い合わせフォーム経由で質問をし、回答を待つ。店から迅速な回答がきた後、さらにいくつかの補足的質問をする。それに対して店側が答えるとともに、多数の(本当に多数の!)写真を送ってくれる。さらにいくつかの必要な質問をし、回答がくる。

その際に筆者が注視していたのは、実は送っていただいた写真ではなく、店側の「熱意」や「社会性の有無」「知力」のようなものだった。前述のとおり、モノというのは「商売熱心な人」「自分のビジネスに熱意を持ち、創意工夫を怠らない人」から買えば大抵の場合、そう酷いことにはならない。そういった人から常に最高の商品が届くとは限らないが、商売熱心でマトモな人間性のビジネスマンからは大抵「そこそこの商品」は届くものだ。なぜならば、ヘンなモノを売って評判を落とすより、そこそこ以上のモノを売ってそこそこ満足してもらったほうが(長期的に見て)儲かるからだ。愛と平和の精神ではなく、冷徹なビジネスの論理である。

メールのやりとりで「このお店がいわゆる“いい店”かどうかは知らないが、少なくとも“マトモなビジネスマン”である可能性は高い」と判断した筆者は、最終的にそのお店に電話をかけ、責任者である代表取締役氏と少々の会話をした。電話会談を経て確信はさらに増強されたため、代表取締役氏に申し上げた。「わかりました。では契約させていただきますので、書類モロモロを東京の自宅にお送りください」と。

10日ほどたって関西から到着した走行5.3万kmの98年式M・ベンツSLK230コンプレッサー、支払総額94万円。それは下の写真のとおり、まずまずの美車で、カーセンサーnetに掲載されていた写真やメールでいただいた情報との乖離がほとんどない、ステキな1台であった。とりあえずあちこちへと乗り回してみても機械的な不具合は一切ないように思われた。大勝利である。

▲見ず知らずの関西のお店から筆者自宅に陸送された直後の98年式M・ベンツSLK230コンプレッサー ▲見ず知らずの関西のお店から筆者自宅に陸送された直後の98年式M・ベンツSLK230コンプレッサー
▲レザーシートや内装各部のコンディションはカーセンサーnetの写真で見ていた感じとほぼ同じ ▲レザーシートや内装各部のコンディションはカーセンサーnetの写真で見ていた感じとほぼ同じ
▲カセットテープというところに時代を感じますが、インテリア自体はなかなか美しい状態 ▲カセットテープというところに時代を感じますが、インテリア自体はなかなか美しい状態
▲バリオルーフの開閉もまったく問題なし! ▲バリオルーフの開閉もまったく問題なし!

しかし筆者の素人目ではわからない何か恐ろしい病巣のようなものが、エンジン内部や足回りなどに潜んでいる可能性もゼロではない。ということで、昔から懇意にしているメルセデスの専門工場で各部をみっちり点検してもらうことにした。

▲ちょっと古いメルセデスの専門工場である埼玉県八潮市の「セントラルオート」に徹底点検を依頼 ▲ちょっと古いメルセデスの専門工場である埼玉県八潮市の「セントラルオート」に徹底点検を依頼
▲リフトアップして下回りをチェックした後はコンピュータ診断も ▲リフトアップして下回りをチェックした後はコンピュータ診断も

結果は「基本的に異常なし。正直、なかなか状態の良い中古車だと思う。ただ、前輪のロアアームブッシュとATマウントはそろそろ要交換で、この形のメルセデスでは絶対に替えておいたほうが良い燃料ポンプ&フィルターとクランクセンサーは替えられていない」との所見。このあたりは、販売店に問題があるというよりも「業態の問題」だろう。事前に徹底的な部品交換を行い、そこそこの高値で売るのか? それとも、厳密に言えば要交換だろうが、保安基準的には問題ない状態の車を、そこそこの安値で売るのか? そういった経営哲学というかマーケティングの問題であり、明らかに後者の経営スタイルを取っていると思われた店で買ったのだから、ここに関しての不満はない。「基本的に異常なし。正直、なかなか状態の良い中古車だと思う」という専門家の所見を得られただけで大勝利である。

専門工場で指摘を受けた部分を新品部品に交換し、現物を1回も見ずに買った我が98年式M・ベンツSLK230コンプレッサーは、その後まったく問題なくフル稼働してくれた。今の時代、以上のようなスクリーニングを行えば「現物を見ずに中古車を買うのも決してご法度ではない」と証明できたわけだが、これは、「筆者が長年にわたり多数の中古車店を取材し続けたからこそ可能だった荒業」ということもできるだろう。筆者は本当に数多くの中古車店を取材してきた結果、それこそ公式ウェブサイトをちょこっと見ただけでそのお店の良し悪しをほぼ正確に推測できるという、特異体質になってしまったのだ。

それゆえ、やはり一般的には「通販感覚で買うにしても、1回は現物を確認したほうがいい」というお約束の結論を、筆者も推奨したい。ただ、ここで開陳したスクリーニング術は通販的か否かにかかわらず、中古車を選ぶ際のなにがしかの参考にはなるだろうとは確信している。ぜひ、パクってください。

text/伊達軍曹