▲横幅7mの巨大スクリーンと本物をベースに作られたポルシェが都会の真ん中で非日常を演出する ▲横幅7mの巨大スクリーンと本物をベースに作られたポルシェが都会の真ん中で非日常を演出する

都会の真ん中で「サーキットの狼」になる!

車好きのオトコならば、一度は憧れる「サーキット走行」。非日常のスピードで、自分の手足のように愛車を操り、ホームストレートを駆け抜ける。想像しただけでアドレナリンが溢れます。とはいえ、現実には、サーキットデビューを果たそうとすると、走行会やワンメイクレースへの参加がおもなところ。参加費以外にも、車をサーキット仕様に仕上げたり、サーキットまで移動したりすることを考えると、お金も手間もかかります。結局、庶民は、グランツーリスモやゲームセンターでコースを攻めるしかありません。

と言いたいところですが、あるんです。手軽にサーキット走行が楽しめる場所。しかも、東京のど真ん中、赤坂に。それが、「東京バーチャルサーキット」(以下TVC)。日本で初めて、最新のシミュレーターを導入し、2012年のオープン以来、車好きやレースゲーム好きの間で話題になっている施設です。なんとこちら、自動車業界の関係者にはおなじみ、筑波サーキットでメディア各社が競い合うレース「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」出場チームなら、無料でレッスンが可能という応援企画を実施中。これは、一度おじゃませねばということで、実際に行って参りました。

赤坂駅から徒歩5分。出迎えてくれたのは、レース好きにはお馴染み、元トップレーシングドライバーの砂子塾長です。まずは、システムから説明してもらいます。

▲砂子塾長は、1985年、富士フレッシュマンレースでデビュー。その後、全日本F3選手権やスーパーGT、スーパー耐久など様々なレースカテゴリーに参戦。TVCでは、塾長から直接レッスンが受けられる ▲砂子塾長は、1985年、富士フレッシュマンレースでデビュー。その後、全日本F3選手権やスーパーGT、スーパー耐久など様々なレースカテゴリーに参戦。TVCでは、塾長から直接レッスンが受けられる

TVCには3種類のコースがあり、ひとつめは1万円/30分の“通常トレーニングコース”。本格的なドライビングレッスンで、プロドライバーやプロドライバーを目指している方も利用しています。走行するサーキットを選ぶことができ、海外の有名サーキットを走ることもできます。ドライビングデータは記録され、それを分析もしてくれます。さらにUSBメモリを準備していれば、データを持ち帰って、自分の走りをサイトにアップすることもできます。

ふたつめは5000円/1名の“体験トレーニングコース”。こちらは、富士スピードウェイを5週するタイムアタック。あくまで体験レッスンですが、データロガーで自分の走りを確認することができます。

最後は、2000円/1名の“TVCチャレンジ”。こちらも、富士スピードウェイを5周するタイムアタックですが、ロガー解析やインストラクターのデモンストレーションなどはありません。ゲーム感覚で楽しめます。

ちなみに、コースの選択は、レース未経験者でも“通常トレーニング”を選ぶ人が意外に多いとのこと。なんか意外です。

「自分のドライビングスキルを知りたいという人もいれば、車好き彼氏の誕生日に彼女がプレゼントというケースもあります。東京観光の一環で訪れる人もいますね」

もちろん、ゲーム好き感覚で“TVCチャレンジ”を体験する人も多いそうですが、ゲームに自信がある人は、肩をうなだれる結果になるといいます…。

「正直、ゲームとは全く違います。そして、このシミュレーターを体験したら、みんな、とにかく楽しい、と虜になります。ちなみに、僕はドライビングゲームは苦手です(笑)」

砂子塾長がゲームが得意かどうかは置いておいて、気になるのは、ゲームと全く違う、という一言。だって、スクリーンにフロントガラスからの映像が映るドライビングゲームは、ゲームセンターでも珍しくないしな~。最近のゲーム、結構リアルですよ。

「じゃあ、まずは乗ってみましょうか」

上等じゃないですか。こうみえても私、サーキット経験あるんです。ゲームも得意だし。じゃあ、通常トレーニングコースでお願いします。あ、体験する際には、できればレーシンググローブとレーシングシューズ。持っていなければ、滑り止めのついたグローブとスニーカーなどの持参を推奨していますので、お忘れなく。

「フォーミュラシミュレーターかポルシェシミュレーターを選べるんですが、初めてなのでポルシェにしておきましょう。サーキットは…」

サーキットは、世界各地の名コース100ヵ所以上から選択できる。F1開催サーキットはもちろんのこと、ニュルブルクリンクや、フェラーリ工場内のテストコース、フェオラノまで収録されているのだとか。

個人的には、ベルギーGPのスパ・フランコルシャンでオールージュを駆け上がってみたいけど、うーん、モナコでお願いします。自称、セナの魂を受け継ぐ、モナコマイスターなんで。

「えー、走りやすい富士スピードウェイにしておきましょう。じゃあ、乗り込んでください」(もちろん、一般でレッスンを受けるときは、お客さん希望でサーキットも車も選べるのであしからず)

いざ実車してみると、そのリアル感に驚愕!!

早速、シミュレーターのある部屋に入ってみると、壁には横幅7mの弓なり状の巨大スクリーンが。そして、後部がカットされたポルシェ996 GT3が鎮座しているじゃないですか。リアルだな~。

▲プロジェクターは3台使用。車体とスクリーンは2m以上離れており、この距離が没入感を作り出す ▲プロジェクターは3台使用。車体とスクリーンは2m以上離れており、この距離が没入感を作り出す

「あ、これ、本物をぶった切ってます。パドルシフトは997 GT3のもので、ブレーキには実車と同じ6POTのブレーキキャリパーを使用。これを油圧モーターで制御しているので、ブレーキの感覚も全く同じですよ」

切り取られた後部から中を覗くと、シートの裏には成田山のお守り。これなら事故ることはない? 切り取られた後部から中を覗くと、シートの裏には成田山のお守り。これなら事故ることはない?

実際に乗り込んでエンジンをかけると、大音量のエキゾーストノートが耳をつんざきます。2m先に設置されたスクリーンには、サーキットの映像が投影されているのですが、視界をすべて覆っているので、没入感がハンパじゃありません。なんか緊張してきたぞ。

「第一コーナーでは、十分にスピードを落としてくださいね」とのアドバイスを受けて、いざスタート。ピットレーンを抜けて、パドルシフトをアップ。って、ハンドルの揺れがスゴいっす。第一コーナーの200m手前でフルブレーキング…あれ、スピードが落ちない、曲がれない、やばい~、と思ったら、すごい衝撃とともに、コースアウト。やばい、心拍数が上がってます。

運転中は別室にいる砂子塾長のアドバイスが、マイクを通じて聞こえてくることもある 運転中は別室にいる砂子塾長のアドバイスが、マイクを通じて聞こえてくることもある

「ブレーキが全く踏めていませんね。踏力40%くらいかな。思い切り踏んでみてください」

はい。おりゃ。

「80%くらいですね。シートに体を押しつけて、体全体で踏む感じで」

ふぁい。おりゃー。あ、腰が…。

「はい、100%です。これくらい踏み込んでください」

運転中の情報は、全て別室にいる砂子塾長が、リアルタイムでモニタリング。スピードやエンジン回転数、ブレーキの踏力やポイント、重力加速度など、自分の運転が可視化されています。

レース用ECUのトップブランドであるMoTeCのデータロガーで、細かく情報が取られる レース用ECUのトップブランドであるMoTeCのデータロガーで、細かく情報が取られる

「シミュレーターの最大のメリットは、運転中にリアルタイムにアドバイスができること。サーキットでこれをやろうとすると、レースチームが使う無線のような、本格的な設備が必要になります」

正直、最初は散々。一般車の感覚でステアリングを切るので車体はフラフラ。立て直そうとすると急ハンドルになりコースアウト。ステアリングからは、強烈なキックバックが伝わります。この感触、スゴいな…。現実ではないので、コースアウトしてもどうってことはないとわかっているのに、その度に恐怖を感じて、息が止まってしまいます。いや、汗びっしょり。リアルにもほどがあるだろう…。

「このシミュレーターを監修したのは、SUPER GT GT300クラスのドライバーである峰尾恭輔選手。実際に各コースで運転してもらい、アクセルやブレーキの感覚だけでなく、荷重やサスペンションの微妙な感触なども再現しました。峰尾選手が乗っていた、ENDLESS Porsche 997と同じフィーリングですよ」

実は、TVC創設のきっかけは、運営会社の社長で、WTCC(世界ツーリングカー選手権)に参戦するレーシングドライバーでもある谷口行規氏が、ヨーロッパで「レーシングシミュレーター」でのトレーニングに出会ったこと。プロドライバーのスキル向上に欠かせないと感じた谷口氏が、日本のレース界のレベルアップに貢献したいと導入したのだとか。なるほど、だからこそのこだわりなのか。プロドライバーが足を運ぶわけです。

その後は、徐々にGTカーにも慣れてきて、なんとかコースを走行。こうなってくるとスゲー楽しい。ただ、5周するころには、左足や腕が疲れてきて震えてきます。あと、臨場感がスゴいので、ふと横を向いたときに、編集担当者が立っていると、走行中の車とのギャップにスゲー違和感でした。

運転終了後は、砂子塾長による愛の説教部屋、もとい、カウンセリングの開始です。ブレーキを踏むタイミング、シフトの選び方など、速く走るために必要なポイントをアドバイスしてくれます。プロドライバーにアドバイスを受けられる機会なんて滅多にないので、貴重な体験です。

フォーミュラシミュレーターにも乗りたかったのですが、時間の都合で今回は座らせてもらっただけ。あまりの着座位置の低さにビックリ。スーパー銭湯の寝湯に入っている雰囲気です。ステアリングは、フォーミュラカーで使用している本物。これに触れただけでも大満足でした。

ボディは2008年のレッドブルRB4と同じ寸法。ダウンフォースも忠実に再現している ボディは2008年のレッドブルRB4と同じ寸法。ダウンフォースも忠実に再現している

TVCは、東京のほかに大阪にも店があります。都会の真ん中で手軽に、しかもリアルにサーキット走行を体験できる施設。車好きのアナタ、一度体験してみてはいかがですか?

text/コージー林田