【海外試乗】新型 ポルシェ 911 カレラ GTSシリーズ|カレラシリーズの頂点が大パワーNAのような滑らかなハイブリッドに進化!
カテゴリー: ポルシェの試乗レポート
タグ: ポルシェ / クーペ / カブリオレ / ハイブリッド / RR / 4WD / 911 / EDGEが効いている / 藤野太一
2024/07/30
パワーアップ分はハイブリッドでまかなう
2024年5月28日、ポルシェ 911初のハイブリッドモデルが世界初公開された。今回の新型モデルは2018年にデビューした現行911(992型)の後期型にあたるもので、通称992.2と呼ばれる。その国際試乗会が7月初頭スペイン・マラガで開催された。
ポルシェ911といえば、まずベースの「カレラ」や「カレラ S」が発表され、順を追って「GTS」や「ターボ」、「GT3」といった高性能版が追加されるのが通例だった。しかし、今回はベースのカレラとGTSを同時に投入するという異例の発表となった。
そして、カレラは従来型の3L 水平対向6気筒エンジンを搭載する内燃エンジン車であるのに対して、GTSのみがハイブリッド仕様になった。
ここであらためてGTSの歴史について振り返ってみる。実は「GTS(Gran Turismo Sport)」の名称は、初代911が発表された1963年に生産が始まったレースカーの「904 カレラ GTS」に端を発する。近年は2007年に発表されたカイエン GTS以来、その名が使われ続けている。2010年、911(997型)に初めてGTSの名が使われた。ベースとなるカレラやカレラ Sより高性能で、GT3などよりは日常的な使用に適したモデル、という位置づけだった。
GTSは世界的に好評を博し、カレラシリーズにおける頂点に立つモデルとして定着した。したがって、なぜGTSからハイブリッドにしたのかといえば、大前提として近い将来の排ガス規制をクリアするべく環境性能を高めつつも、高性能版としてのパワーアップ分をハイブリッドでまかなうという狙いがあるようだ。
カイエンやパナメーラではハイブリッドシステムを「e-hybrid」と呼ぶが、911においては名称を「T-hybrid」とした。「T」とはターボの意というから、エコであることよりパワーを付加するものという位置づけであることがわかる。ちなみに、この「T-hybrid」は電動走行はしない、いわゆるマイルドハイブリッドだ。
911にハイブリッドシステムを搭載するにあたり、最大の課題はやはり重量だったという。車両重量1600kgを切ることを目標に開発が進められ、新型カレラ GTS クーペのカタログ値の空車重量(DIN)は1595kgと従来モデルに対しての重量増は約50kgに抑えられている。
ハイブリッドシステムの中心を担うのは水平対向6気筒エンジン。従来型の3Lに対して、わざわざ3.6L 水平対向エンジンを新開発したという。単体で最高出力485ps、最大トルク570N・mを発生する。もちろん狙いは電動化を見越してのもので、高電圧システムの採用により、エアコンをベルト駆動ではなく電動駆動にすることでコンパクト化。エンジン搭載位置を110mm低めたことで、上部にパルスインバーターとDC-DCコンバーターなどのハイブリッド関連ユニットを収める空間を生み出した。
これに電動ターボチャージャーを組み合わせる。先代のツインターボからシングルターボ化することで軽量化を実現。さらに、タービンの軸部分に電気モーターが組み込まれた電動ターボチャージャーを採用しており、ラグタイムなしにブースト圧を高めることが可能となっている。この電気モーターはジェネレーターとしても機能し最大11kW(15ps)のパワーを発生する。
メインのモーターは、8速PDKのトランスミッションケースに組み込まれた永久磁石同期式のもの。アイドル回転数から最大150N・mを発揮し、エンジンをサポートする。400Vの電圧で作動し、最大1.9kWhの電力を蓄える駆動用のリチウムイオンバッテリーを、もともと12Vのバッテリーを搭載していたフロントトランク内に配置。12Vバッテリーは軽量化のため薄型タイプのリチウムイオンバッテリーに代替し、ボディ後部に搭載している。これらを組みあわせ、システムの合計出力は541ps、合計トルクは610N・mとなり、先代比で61psアップしている。
試乗のスタート地点であるホテルに用意されたGTSのエクステリアをじっくりと眺めてみる。フロントバンパーの左右に5本ずつ配された縦長のフラップが最大の特徴だ。内側にも別のフラップが備わっており、ブレーキまわりやアンダーフロアへの整流、またウエットモード時の雨水の流れなどを統合制御するという。高速巡航時など必要なパワーが最小限の場合は、フラップを閉めてエアロダイナミクスを最適化し燃費を低減。サーキット走行など冷却効果を高める必要があるシーンではフラップを開きラジエターに空気を送り込むなど走行状況に応じて自動で作動する。
また、何かがないことに気づいた。これまでエアインテーク上部にあったドライビングライトがない。その機能は新しくなったマトリクスLEDヘッドライトに集約された。リアまわりでは、リアグリルにあるフィンの数を左右に5枚、計10枚と従来モデルよりも大幅に減らし、リアウインドウとの一体感を増している。テールランプはポルシェのロゴを囲い込むようなデザインになった。これ以外にもエグゾーストパイプやナンバープレートの位置が変更されている。
インテリアは基本的に従来モデルを踏襲する。大きく変わったのは、ドライバーの眼前に最後まで残されていた中央のアナログメーターがなくなり、12.6インチの曲面フルデジタルディスプレイになったこと。従来モデルでは5連メーターの左右の端がステアリングにけられて見えないことがあったが、解消され視認性が高まった。また、これまでキー(キーレスが導入されてからはノブ)をひねってエンジンを始動するポルシェ伝統の所作が受け継がれてきたが、一般的なエンジンスタート/ストップボタンタイプになった。電動化そしてデジタル化への転換期なのだ。
公道では、「タルガ 4 GTS」に試乗した。アクセルペダルをゆっくりと踏みこむと低速域から息継ぎすることなく加速する。さり気なく、でもしっかりとモーターがアシストしているようだ。中央のメーターをよくみると回生時には左側にグリーンの、アシスト時には右側にブルーのバーの表示が伸びる仕組みになっている。一般道を走行している場面は2000~3000回転まではアシストするも、それ以上の回転域では駆動は内燃エンジンにまかせて主に回生を行う。したがって、メーター表示ではグリーンとブルーのバーが左右にひっきりなしに伸縮している。
ナビゲーションの目的地は、マラガ郊外にある会員制サーキットとして名高いアスカリレースリゾート。全長約5.5kmの本格コースだ。ここではクーペボディの「カレラ GTS」と、「カレラ 4 GTS」を比較する。GTSには、車高を10mm下げたスポーツサスペンションと可変ダンパーシステム(PASM)、そしてこの新型からリアアクスルステアが標準装備になっている。そしてオプションのアンチロールスタビリティシステムであるポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)は、ハイブリッドの高電圧システムに統合されており、システムの柔軟性と精度が高められている。
スポーツプラスモードでアクセルを全開にすると、一切のラグタイムがなく、7000回転まで加速していく。電動化の恩恵はアクセルレスポンスに表れている。ペダル操作に瞬時に反応してくれる。そして回頭性は極めて高く、PDCCをオンにしておけばロールも少なくわずかにステアリングを切り込むだけで向きが変わる。2WDと4WDとの挙動の違いは少なく、いずれもニュートラルに旋回する。違いとしては立ち上がりの際に4WDではフロントタイヤを通して手のひらに力強い駆動力が伝わってくることくらい。
ポルシェの本社広報によると、ハイブリッド化に関して顧客やファンから懸念する声が多く上がっていたという。しかし、500万kmにも及ぶテストをこなした自信作だという言葉のとおり、事前にハイブリッドだと言われなければ気づかないくらいの、大パワーの自然吸気エンジンをも思わせる出来栄えだった。
ポルシェ 911(992型)の中古車市場は?
初代登場から60年を超える、ポルシェを代表するRRのスポーツカー。近年は走行性能だけでなく快適性も向上しており、ボディサイズの拡大と相まってGTカーとしての優れた資質を見せる。8世代目となる現行の992型は2019年に登場している。ベーシックモデルからレーシングモデルまでバリエーションは豊富だ。
2024年7月下旬時点で、中古車市場には260台程度が流通。価格帯は1500万~7000万円となる。カレラ GTSは20台程度が流通している。