ポルシェ 911 ダカール▲2022年のロサンゼルスショーでお披露目された、高いオフロード性能を備えた911の2500台限定モデル。車高アップや専用の足回り、軽量化などにより“ラリーカー”らしい仕立てとなっている

伝説のオフロードカー風味の“デイリー911”

RRという“歪なレイアウト”をもつポルシェ 911にとって4WD化は悲願のひとつだった。その開発は1980年代に始まっている。4×4のコンセプトカーを発表すると、1984年にはパリ・ダカールラリーに911 カレラ 3.2 4×4で参戦。ポルシェ初のパリダカ総合優勝を果たした。車高を上げた“タバコカラー”のその勇姿はポルシェファンのみならず多くの車好きを魅了したものだ。その中身はというと1986年に誕生する伝説の四駆ポルシェ、959の先行開発システムだった。1988年からは964型において初の量産四駆シリーズとなるカレラ4を設定。その歴史はシステムを変え進化させつつ現代へと続いている。

伝説の勝利からちょうど40年。今、車好きたちは信じられない光景を街中で目撃している。砂漠を疾走した“背の高い911”にそっくりな992型のポルシェが街中で頻繁に見かけるようになったのだから。世界限定2500台。911ダカールだ。
 

ポルシェ 911 ダカール▲1984年のパリ・ダカールラリーで総合優勝を果たした911 カレラ3.2 4×4 パリ・ダカール(953)の“後継モデル”として2500台のみを販売。車両本体価格は3099万円
ポルシェ 911 ダカール▲車高は911 カレラのスポーツサスペンション装着車を50mm上回る高さ(最低地上高161mm)に設定

撮影車両もまた、栄光の姿をほうふつとさせる有名なタバコブランドのボディカラーをまとっていた。ブルーとホワイトのツートーンボディカラーにレッドとゴールドのストライプを加えている。特徴的なロゴはタバコ名ではなく“ラフロード”。希望ゼッケンの“953”は冒頭のパリダカ優勝車、911 カレラ 3.2 4×4の開発コード。シャレがて利いている。

911ダカールのフラット6は480psを発揮する3Lツインターボで、8速PDKを組み合わせた。パワートレインのスペックそのものはカレラ GTS系となんら変わらない。

車高そのものはスタンダードのスポーツサス仕様に比べて50mmの上昇(前後のリフトアップシステムによってさらに30mm上げることが可能)にすぎないが、それでもこの911は異様な迫力でもって見る者に迫る。

広げられた前後のホイールアーチに、まるでデューンバギー用のような深いトレッドを刻んだとても大きなピレリタイヤ(前19インチ、後20インチ)の収まる様子が、そう思わせる最大の要因だ。このタイヤは専用に開発されたスコーピオン・オールテレインプラスで、特殊なカーカス構造を採用することによりオフロードのみならずオンロードでの性能も担保するという。白いホイールもこのカラーリングによく似合っている。

0→100km/h加速は3.4秒でカレラ4 GTSから“たった”0.1秒落ち。それもそのはず、重量的には+10kgの増に収まっているのだ。リアシートを取っ払い、ガラスやフードなどを軽量品に換装している。

最高速度こそ240km/hに制限されているが、車高を上げたハイレベルモードでも170km/hまで出せるというのだから、スタンダードな911では到底走れない、走ろうなどとはそもそも思わないようなラフロードではたまらないパフォーマンスの持ち主になる。オフロードでの速さはカイエンを上回るという。
 

ポルシェ 911 ダカール▲オプションのラリーデザインパッケージを選ぶと、ホワイト/ジェンシャンブルーメタリックのツートーンカラーが基本ボディカラーに。撮影車両は1984年のパリ・ダカールラリー優勝車の外観を再現した仕様
ポルシェ 911 ダカール▲フロント、リア、サイドシルにはステンレススチール製の保護エレメントが備わる。サイド飛石などからフロントエアインテークを保護するグリルも装備した

911のドライブは車好きの憧れのひとつ。それは仕事とはいえ何度も乗ってきた筆者でも同じ。乗るたびに気分が高ぶる。そんな911が見たこともないような特別な仕様で、昔憧れたかの有名なカラーリングを施してあるとなれば、ワクワクするなという方が無理な注文だ。

運転席に座ってドアミラーを見るなり唸った。リアフェンダーの膨らみは憧れのカラーリングで、その向こうにこれまた小さい頃に憧れた“ポルシェターボ”のようなウイングが見えていた。

もっとも、転がす程度のドライブならスタンダードの911となんら変わるところがない。だから余計な緊張をせずとも、この歴史的なカラーリングの特別な911を転がすことはできる。そしてその走りもまた期待どおりの“911”だ。

最大の魅力は車高を上げたことによる街中での運転のしやすさ。視点が高くなって見晴らしが良いというだけじゃない。911のようなスポーツカーを運転しながらも最低地上高の心配がまるでないということの爽快感と言ったら! まるでSUVのように凸凹や段差を気にすることなく転がせる。見知らぬ道や初めてのコンビニも何ら気兼ねなく入っていけた。駐車場の輪止めを気にする必要もないのだ!
 

ポルシェ 911 ダカール▲運転席まわりのデザインはベーシックな911と同様。シェイドグリーンのステッチをあしらったRace-Texトリムで個性を高めている
ポルシェ 911 ダカール▲フルバケットシートを標準装備。リアシートはレス仕様、軽量ガラスと軽量バッテリーを採用し車両重量を1605kgに抑えている

911ダカールは究極のデイリー911。そう確信しつつ、ワインディングロード(残念ながら舗装路面だったが)にノーズを向ければ、それはそれで楽しい911だった。見た目からは想像もできない剛性のあるタイヤのおかげで、オフロードカーのカテゴリーを超えたハンドリング性能を見せる。

さすがにGT3系とは対極のドライブフィールだが、スタンダードのそれと大して変わらない。GTSのフラット6は相変わらずパワフルで、その速さには見た目とのギャップと相まって飽きることがなかった。

ロードカーとして蘇った伝説風味の911。手に入れることのできた人がうらやましい。オフロードなんて走らなくていい。これは理想のデイリー911なのだから。
 

ポルシェ 911 ダカール▲CFRP製の固定式軽量リアスポイラーを装着。フロントとリアにはアルミ製けん引バーまで備わる
文/西川淳 写真/タナカヒデヒロ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

ベースモデルとなるポルシェ 911(992型)の中古車市場は?

ポルシェ 911

初代登場から60年以上にわたりRRレイアウトを採用してきたポルシェを代表するスポーツカー。近年は走行性能だけでなく快適性も向上しており、ボディサイズの拡大と相まってGTカーとしての優れた資質を有する。ベーシックモデルからレーシングモデルまでバリエーションは豊富だ。8世代目となる現行の992型は2019年に登場。2024年にはカレラ/カレラ GTSが大幅改良を受け、カレラ GTSは公道走行可能な911初のハイブリッドモデルへと進化している。

2024年6月前半時点で中古車市場には230台ほどが流通。モデルバリエーションが多く、登場から4年以上が経過しているため、価格帯は1500万~6900万円と幅広い。4WDモデルは60台ほどが流通、その中でカレラ系は数台のカレラ4 GTSを含め20台ほどが流通している。ちなみに、タルガ系の4WDモデルも20台ほど探せる。
 

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文/編集部、写真/阿部昌也