▲6月26日に発売を開始したクラウンの公道試乗を行った ▲6月26日に発売を開始したクラウンの公道試乗を行った

プロトタイプのサーキット試乗から1ヵ月半、ついにクラウンの公道試乗

前回のサーキットコースでは、アスファルトの目が細かくわだちもなく整っており、公道特有の路面からの突き上げを体感することができなかった。

そして何よりも、クラウンの真骨頂である快適性と扱いやすさをサーキットコースでは体験できないのだ。

狭い道から駐車場、障害物の多い市街地から高速までどのようなところでも満足させるのがクラウンである。 この黄金比のパッケージングは長年日本専用に開発がなされた結果、割り出したものであろう。

特に最近感じられるのが、他社の同クラスと比べてフロントの見切りと車庫入れの良好性だ。

FRであるが、ドライビングポジションから前方がとても見やすい。AピラーからCピラーまで直線的な造形にこだわっているので車庫入れなどのミラーを通して車体を見たときに基準が定まりやすい。

クラウンのHVは、モーターによるクリープとアクセルの配分がちょうどよく駐車の際にも便利だ。

また、 微速での調整が容易なことは狭い道のすれ違いなどに効果があって、しかも前方の見切りが良好だ。今回の試乗を通してクラウンの真骨頂は乗りやすさにあるとあらためて実感した。

公道試乗会では3台のクラウンに試乗することができた。 シックスライトのデザインはスポーティさを与えており、運転中の後方確認時の視界も優れている。 広々としたグラスエリアが光をキャビンに入れて視認性が良好だ。

2.0Lターボ、2.5L HV、3.5L HVの3台を試乗

▲ドライブモードをセレクトするのは中央部分のタッチパネル。先代モデルよりも大きいタッチパネルへと進化▲ドライブモードをセレクトするのは中央部分のタッチパネル。先代モデルよりも大きいタッチパネルへと進化

最初に試乗したモデルは、プロトタイプのときも軽快でスポーツサルーンらしい印象であった2.0Lターボ RS Advanceだ。標準でドライブモードセレクトが装備されている。

まず、デフォルトのセッティングを知るために“NORMAL”で試乗する。8速ATとのマッチングはスムーズで、発進や加速時のトルクが必要な場面では変速している様子が小気味よく理解しやすい。

時速60キロくらいで速度のアップダウンを試したが、変速がほとんどわからないほど滑らかだった。このモードはゆったりと乗るサルーンにはちょうどよい。乗り心地も十分よく、デフォルトのセッティングで高速や軽いワインディングロードでもとても安定感があった。

次に、カーブが続く山間部でドライブモードセレクトを“SPORT S”にした。このモードはアクセルやブレーキング、ステアリング操作などイメージどおりに車が動いてくれるので、ドライビングが上手に感じるかもしれない。

このモードではサウンドエフェクトもしており、エンジン音からもスポーツドライビングを楽しめるようになっている。

さらに運動性能を高めた“SPORT S +”というモードもある。シフトパターン以外は欧州車のスポティセダン風に味付けされており、さらに路面状況を感じられる。コーナでの安定感が増して個人的には好きなドライブモードだ。

これらのモード変更はすべてタッチパネルからセレクトするのだが、走行中は操作しにくいと感じた。ただ、デザインとしては程よい高級感が心地よい空間を演出している。
 

▲3.5L HVはレクサスに採用されているマルチステージハイブリッドシステムを搭載▲3.5L HVはレクサスに採用されているマルチステージハイブリッドシステムを搭載
 

続いて、クラウンの中で最もラグジュアリーなモデルである3.5L HV “G Executive”の試乗だ。

3.5L+ハイブリッド仕様はゆとりを持った走りへと誘う。とにかく無理しないで懐の深い気持ちで運転できるエッセンスがある。

シックスライトのボディ形状にした結果、空気の流れが後部ガラスに沿って流れるため風切り音がリアのガラスに伝わりやすい。そのため、静粛性を確保すべく、防音性を高めている。

インテリアの質感もすべての作りとのバランスが取れている。

肌が触れる部分はしっとりとした表皮を使い、冬でも冷たい印象を与えない素材となっている。シートベンチレーションシステムはモーターの音も静かで上級のクラウンらしさも備わる。

ハンドリングうんぬんというモデルではないが、高速時の安定感はとてもいい。

後部席の人へもできる限り体が揺れないような運転が可能だ。

「排気量に勝るチューニングはなし」という言葉がふた昔前にはあったが、それに変わる動力が電機モーターであることにあらためて気がつくモデルと言える。とにかく優雅に走らせる仕様だ。

最後は2.5L HV “G”グレードである。2.5L HVは静粛性がとてもよく、高速での走行安定性も抜群だ。高速のつなぎ目などの衝撃もしっかりと吸収し、“トンットンッ”といういい音で乗り心地のよさを伝える。

ジャンクションのカーブも無理なく走行できた。カーブで発生するロールをサスペンションでしっかり吸収しているからだ。

急にステアリングを切り増ししても唐突な動きにならないような配慮もある。これらはすべて剛性感のあるプラットフォームとそれをさらに高める新らしいデザインのボディがあるからなのだ。

また、2.5Lエンジンとモーターの組み合わせは高速でも必要にして十分すぎるパワーだ。追い越し時の加速でも安定感があり、不安は一切感じない。

このようなエンジン高負荷時に表れるエンジンンの嫌な振動も軽減されている。国産車のセダンで唯一燃費も気にせずに遠くに行きたくなる。

最後に次世代トヨタセーフティセンスも試してみた。レーントレーシングアシストはちゃんと中央を走行でき、横風の影響も受けにくい。ACC(アダプティブクルーズコントロール)のコントロール性も新たなシステムで一気に高まり、夜間の高速道路でも疲れが軽減できる。

クラウンは大きなゆとりある優雅な空間でありながらも、運転してみると狭いところでも安心感がある。

我が家の車庫は左いっぱいに寄せて入れるが、ミラーと実際のボディの位置との感覚に乖離がある。しかし、クラウンではそれがない。黄金パッケージかつミラーとボディの位置の感覚も良いため、本当に運転がしやすい。

ちょっと高級で老若男女が運転しやすいモデルはありそうで意外にない。新たな装いになっても日本の心がクラウンには凝縮されていると感じる。

text/松本英雄
photo/尾形和美