▲暗い道ではライトを点灯していても歩行者を認識することが難しいこともしばしば▲暗い道ではライトを点灯していても歩行者を認識することが難しいこともしばしば

トヨタの先進安全装備Toyota Safety Senseが第2世代に

トヨタ自動車は、「交通事故死傷者ゼロ」という目標を掲げて先進安全性能の開発を進めている。

「Toyota Safety Sense(TSS)」と呼ばれるパッケージ化した予防安全システムを車に搭載して販売しており、すでに世界累計で800万台に達している。これは、2種類のセンサーを組み合わせて認識性能と信頼性を両立させたシステムだ。

内容は車種によって異なる場合もあるが、主には前車とのプリクラッシュセーフティ(PCS)、歩行者とのPCS、レーンを逸脱したときのレーンディパーチャーアラート(LDA)、オートマチックハイビーム(AHB)にレーダークルーズコントロールなどがある。

ちなみに、上記機能の一部を採用した装置は20年近く前から搭載が始まっている。あくまでドライバーの補助的な役割がメインであるが、私自身も試乗を行う度にその性能の進化を感じていた。

一方、最近では他社の先進安全性能も著しく向上している。正直言ってしまうと、TSSの性能は他社と比べて飛び抜けて良いというものではない。

各社性能が年々向上するなか、トヨタ陣営が新たな一手として送り出したのが第2世代TSSである。

第2世代では、広角化したミリ波レーダーや動的な予測を含めた動きを捉えて衝突を回避する機能を取り付けた単眼カメラが採用された。また、見えにくい夜間にも対応するために高感度画素子を使って検知力を高めた。

これらの技術は昨年発売されたレクサス LSがすでに採用をしている(LSには2眼のカメラが搭載されており、他にもブレーキによる停止では間に合わない場合にステアリングにも介入して衝突を回避する機能などが搭載されている)。

今回は2018年よりすでに導入が始まっているこの第2世代のTSSを体験した。同時に、トヨタにてこの分野をけん引する自動運転・先進安全統括部の稲垣匠ニ部長と、先進安全性能開発部の深谷克己部長と意見交換を交わしている。

まずは論より証拠ということで、歩行者PCS体験を行なう。車両は真っ先に第2世代TSSを搭載したヴェルファイアだ。

助手席に座りテストドライバーからレクチャーを受ける。時速40kmをキープしてブレーキペダルには一切触れずに障害物がある見通しの悪い道路を想定した場所にヴェルファイアを走らせる。すると突然歩行者が飛び出してきて、自動的に急ブレーキがかかるという仕組みだ。

歩行者が飛び出してきて自動でブレーキがかかるとは分かってはいるものの、助手席で何もできない状況であると「ぶつかるー!」と心で叫んでしまう。3回体験し、そのうち1回はステアリングを握っていたが、ついブレーキペダルに足を載せそうになる。

しかし、我慢してなにもしなければ本当にしっかりと停止するということと、ヴェルファイアらしく乗員にも優しいブレーキングでしっかりと停止することを感じることができた。

安全テストなのでもちろん突発的なブレーキングになるが、我々が試乗したときはスキール音も出ないままジェントルに停止した。とても印象的だった。

しかも車の外からこの光景を見ていると、最後に停止する寸前のブレーキコントロールは余裕を持って停止しているかのようだ。

上手なドライバーがやってのけるブレーキコントロールなのだ。実に細かく制御されている。

急ブレーキしてノーズダイブする際にも、頭が前後に動くことを最小限に抑えられており、乗員にも気遣ったモデルなのだということが良く理解できる体験だった。
 

▲車の陰から歩行者が時速5kmで突然出てくるシチュエーションで体験 ▲車の陰から歩行者が時速5kmで突然出てくるシチュエーションで体験

続いて行ったのは対自転車運転者のPCSである。こんどはアルファードのエグゼクティブラウンジHVに乗って体験だ。

自動ハイビーム切り替え装置などを使うことで視認性を高めることもできるし、今回の体験のように単眼カメラとミリ波レーダーによる検知によって、ブレーキを踏まずに衝突を回避することもできるのだ。

これは突然に自転車が現れるのではなく、まっすぐに車を走らせると、右側前方から自転車が車両前方に徐々に近づいてくる。そして車の正面で衝突する寸前に自動的にブレーキングして停止するというものである。

自転車が車に近づくまではとても見通しは良いので、自転車はまさか衝突しないと思って油断していると急激に近づいてくる感じで衝突してしまうというものだ。

まずは2列目に座って体感した。時速30kmまで極めてスムーズに加速する。改めて思うことだが、ビックリするぐらい2列目の乗り心地が良い。

右手から自転車運転者がアルファードに近づいてくると、前方の視認性が運転席や助手席に比べると悪いために衝突してしまうのではないかという不安感がマキシマムに達する。

あっ! ぶつかる! と思いきやスキール音ひとつ出さずに停止した。

停止する瞬間の前のめりになる“G”を抜くブレーキコントロールをする芸当がアルファードらしい。

▲自転車が時速15kmで近づいてくるシチュエーションで体験。止まるはず…、と思っていても自転車は一気に近づいくる▲自転車が時速15kmで近づいてくるシチュエーションで体験。止まるはず……、と思っていても自転車は一気に近づいてくる

また、夜間での歩行者PCSの体験も行なった。最近のヘッドライトはレンズカットの関係で明暗がはっきりとしているので、暗闇での歩行者などの認知に時間がかかることがある。

自動ハイビーム切り替え装置などを使うことで視認性を高めることもできるし、今回の体験のように単眼カメラとミリ波レーダーによる検知によって、ブレーキを踏まずに衝突を回避することもできるのだ。

▲夜間の視界。ライトが当たらない部分は驚くほど暗くて見づらいことがよく分かる ▲夜間の視界。ライトが当たらない部分は驚くほど暗くて見づらいことがよく分かる

今回の体験で最も印象に残ったことはヴェルファイア、アルファードのゆとりあるフルブレーキングであった。もちろんPCSの性能を体験したのであるが、どんな状況でも乱れない両車の走行は、マナーを整えたモデルと言える。そして、第2世代TSSを搭載することで、マチュアな回避術を身につけたように感じた。

両車ともに人気の車種だけに、交通事故死傷者ゼロに向けた大きな貢献が期待される。

レクサスなどの高単価な車種だけでなく最も普及するようなモデルに、高性能な安全装備を搭載してこそトヨタの真骨頂だと思うのだ。今後にさらなる期待をしたいと思う。

text/松本英雄
photo/トヨタ