▲2012年2月に「直感ハンドリングFR」のコンセプトのもと登場した86が、今年8月にマイナーチェンジを果たした。写真はGT“Limited”のAT仕様▲2012年2月に「直感ハンドリングFR」のコンセプトのもと登場した86が、今年8月にマイナーチェンジを果たした。写真はGT“Limited”のAT仕様

新旧含め様々なモデルの86に試乗

7月の上旬にショートサーキット試乗してからおよそ2ヵ月。ようやく公道試乗会が河口湖周辺で行われた。試乗ができたモデルはGT“Limited”のATとMT。それに“86 Kouki”の素性がわかるGTのMT仕様だ。その他にも、すでに生産は終了してしまっているが耐久レースからのフィードバックを詰め込んだ“86 GRMN”もドライブした。

GRMNは素性のポテンシャルが高いからこそ高度に楽しめる1台として作ることができたという。さらに、もう一つ飛び道具の説明があった。これはアルミテープを改良した空力ステッカーの威力を体感できるというものだ。よりわかりやすくするためにこちらは旧型モデルによる試乗であった。アルミテープの体感インプレッションは興味深いが、今回は86 MCモデル通称“Kouki 86”をメインにお届けしたい。
 

成熟した86は小型のグランツーリスモの領域まで昇華した

最初はGT“Limited”のAT仕様だ。※“SHOWA”制ダンパー

乗り込むとタイトなキャビンがスポーティさを感じさせる。86のATはスポーティさを欠くように思う人もいるかもしれないが、改良した86はエンジンの音色もガサつきなくスムーズで、小気味良いシフトアップダウンを実現しており心地良い。

しかし最も素晴らしいのはGT“Limited”に取り付けられた“SHOWA”製のダンパーとスプリングの調整が、剛性の向上した86にジャストフィットしている点である。これにより、微細な動きにボディがバイブレーションすることなく反応する。しかも細かな動きに対してもダンパーの最大の仕事である減衰力を発揮。これはスポーツカーとして疲れないサスペンションセッティングであって、高速時のうねる路面や雨天時なども神経質にならずにドライブできる。

86というと意のままに操る意識が高いことからハードな印象が強いかもしれないが、通常のGT“Limited”のAT仕様は成熟した小型グランツーリスモなのである。
 

▲キャビンの中は座っただけでスピード感を感じる仕様。シフトレバーを握る手にも気持ちが入る ▲キャビンの中は座っただけでスピード感を感じる仕様。シフトレバーを握る手にも気持ちが入る

もう1台のGT“Limited”MT仕様はいかがだろうか。※“SACHS”制ダンパー

MTの剛性がアップしておりシフトも決めやすい。やりすぎると違和感があることがあるがうまく調整されており改良の成果が見て取れる。

試乗したモデルの前後のダンパーにはオプション設定の “SACHS”社製のダンパーが装着されていた。SACHSといえば、F1をはじめとするインターナショナルなモータースポーツで絶大なる支持を得られているブランドだ。しなやかでスポーティなモデルに良いのはわかっているが、コストの関係で使うことができないという話をよく聞いた。そのダンパーが装着してあるのだ。

MTということもあって、意のままに操ってみる。ボディ剛性が向上しているので、もっとコーナリング速度を上げて抜けたくなる。そうさせたくするのは、SACHSのダンパーだからなのだろうか。ただし粗整地の路面だとハード気味のセッティングのこのモデルは下からのインフォメーションがダイレクトだ。そのため限界性能は高いだろうが、少し疲れるかもしれない。

SACHSのダンパーが良いのは言うまでもないが、公道を走る86という車を考えたとき、「とにかく地面を感じながら走るのが好き」という方でなければ、身の丈にあったSHOWAのダンパーが良いと思う。
 

▲6速MTのGT“Limited”。86といえば赤のイメージも強いが走っている姿が良く映える ▲6速MTのGT“Limited”。86いえば赤のイメージも強いが走っている姿が良く映える

私の理想を言えば、6速MTのGT“Limited”でSHOWAのダンパーを装着したモデルである。限界性能よりも楽しく意のままに操ることができ、しかも疲れにくいセッティング。どこでも行ける小型グランツーリスモなのだと思う。
 

弩級の本物志向と素敵な飛び道具アルミテープを体感

ごく簡単に86 GRMNの話をしよう。恐ろしく楽しく軽快で路面と吸い付いて走っている感じがした。BRZのSTIも確かに良いが、86 GRMNは全日本に出場のラリーカーにサーキットの足回りを組んだような別格の出来だった。弩級の本物志向であることに疑いの余地はない。
 

▲86 GRMN。カーセンサーnetには現在2台掲載されている(2016年10月5日) ▲86 GRMN。カーセンサーnetには現在2台掲載されている(2016年10月5日)

アルミテープの話も少し。
90年頃の話になるが、ダンパーに巻いて走っていたことがあった。アルミテープをストラットのダンパーに巻くと初期性の動きがスムーズになるからだ。しかし今回、空力として体感できるという。走行するとボディにはプラスの電気が帯電するそうで、空気中にもプラスが浮遊している、するとプラス同士でボディに流れる空気が剥離してしまうというのだ。剥離を改善して理想的な空気の流れを作り出すためにボディのプラスを放電させて剥離を減少させるというのが原理になる。まことしやかな印象だが、ダンパーでの性能向上は遠い昔に経験済みだったので、どのくらい変化があるのか楽しみであった。

▲ホームセンターに売っているようなただのアルミテープ ▲ホームセンターに売っているようなただのアルミテープ
▲ハンドルの下に貼るだけで、空力装置に早変わり。これだけでも違いが分かる ▲ハンドルの下に貼るだけで、空力装置に早変わり。これだけでも違いが分かる

結果はビックリである。時速40㎞の粗整地でふらついたステアリングがしっとりと安定感を作り出す。こんなに容易にスタビリティって? と、笑ってしまった。低速時不安定な自分のBMW 1Mにも早速貼って試してみた。やはり改善されている。外したり付けてみたりしてみたが、驚くばかりである。トヨタが勇気を持って発表しただけの効果は確実にあった。

【SPECIFICATIONS】
■グレード:GT "Limited" 6-Speed SPDS(6 Super ECT)■乗車定員:4名
■エンジン種類:水平対向4気筒 直噴DOHC ■総排気量:1998cc
■最高出力:147(200)/7000[kw(ps)/rpm]
■最大トルク:205(20.9)/6400~6600[N・m(kgf・m)]
■駆動方式:FR ■トランスミッション:6AT
■全長x全幅x全高:4240x1775x1320※ルーフ高は1285(mm) ■ホイールベース:2570mm

text/松本英雄
photo/尾形和美