ルノー カングー ▲フルゴネットの乗用車「ルノー カングー」の2代目として2009年に発売され、2013年8月からこの顔つきに。写真はルノー所沢が販売していた走行5.3万kmの2015年式ルノー カングー ゼン 6MT。現在は売約済みだが、取材時点の車両価格は178.9万円

栄えある「格安名車」を探し出せ!

こちらは5月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 7月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「EDGE Second Line」の、担当編集者から見た別側面である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。

なお「EDGE Second Line」というのは、「車両価格が手頃=エラい! 賢い! おしゃれ! と定義したうえで、栄えある格安名車を探し出そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。

で、カーセンサーEDGE 7月号の同連載で取り上げた中古車は、2015年式のルノー カングー ゼン 6MT。走行5.3万kmで車両価格178.9万円という個体であった。

この個体に限らずマニュアルトランスミッション+ターボ付きエンジンの2代目ルノー カングーは、「車好き&運転好きな人間にとってはベストに近い“荷物グルマ”なのではないか?」というのが、B面担当者の結論だ。

そう結論づけた根拠について述べる前に、ルノー カングーという車についての概要をざっくりとご説明しておこう。
 

ルノー カングー▲雑誌「カーセンサーEDGE」7月号で取材した2015年式ルノー カングー ゼン 6MT。2014年5月に追加された、1.2L直噴ターボエンジンに6速タイプのマニュアルトランスミッションを組み合わせたグレードだ

「かわいいデザイン」のカングーとしては最後の世代?

ルノー カングーとは、「フルゴネット」というボディ形状を採用しているフランスの乗用車。郵便局やお花屋さんが配達車として使っているようなカタチであり、本国には商用バージョンもあるが、日本に輸入されているそれはれっきとした「乗用車」である。

初代カングーは2002年、まずは1.4Lエンジンを搭載したモデルが輸入開始となった。その気になれば3列のシートを押し込めなくもないボディ形状だが、シートは2列5人乗りで、その分だけ荷室を広く使うことができた。

翌2003年にはフロントマスクを変更するとともにエンジンを1.6Lに拡大。この世代が日本でもスマッシュヒットし、細かな改良を加えられつつ2009年8月まで販売が続けられた。

そして2009年9月にフルモデルチェンジを受けて登場したのが、今回ご紹介する2代目のルノー カングーである。

2代目カングーは、フルゴネットのボディ形状こそ変わらなかったが、時代の要請によりボディは初代よりもふた回りほど大きくなり、車重も200kg以上増加。それを初代とあまり変わらない1.6Lエンジンで動かすものだから、2代目カングーの動きはやや鈍重で、愛好家からの評判も決して高くはなかった。

しかし2013年にフロントマスクを刷新し、2014年には1.2Lターボエンジン+6MTのグレードを追加。このあたりから再び人気が高まり、ポップなカラーリングの特別仕様車を中心に(世の中の一部で)人気はかなり盛り上がっていった。

2016年7月には上級グレード「ゼン」に6速DCTが搭載され、さらに続々と登場したかわいらしい特別仕様車などが人気を集めた。

そして2021年7月に登場した最後の限定車「リミテッド ディーゼルMT」が(世の中の一部で)爆発的な人気となったわけだが、2022年後半に導入が予定されている次期型カングーのデザインがまったくかわいくない(?)マッチョ系になることが判明したことで、多くのカングー愛好家が肩を落としている――というのが、ルノー カングーという車の簡単な歴史および現在地である。

今回の取材車両は、前述した2014年の追加グレード「カングー ゼン 6MT」。すなわち、最高出力115psの1.2L直噴ターボエンジンに6MTを組み合わせたグレードだ。ボディカラーは、なんとも素敵な「マロンショコラM」である。
 

ルノー カングー▲2代目のデビュー当初はこれとはちょっと異なる顔つきだったが、2013年8月からこのデザインに変更
ルノー カングー▲2代目ルノー カングーの運転席まわりはおおむねこのようなデザイン

重くなった2代目だが、1.2Lターボ+6MTはよく走る!

さて。本稿の冒頭付近で筆者が「2代目カングーの1.2Lターボ+6MTは、車好き&運転好きな人間にとってはベストに近い“荷物グルマ”なのではないか?」と述べた理由。それは、まず第一に「よく走るから」ということだ。

初代の頃から「見た目はファンシーなのに、実はびっくりするほど走りがいい」というのがルノー カングーという車の特徴で、それは2代目になっても基本的には変わらなかった。

だがそれは「基本的には」でしかなかった。

大きく重くなったボディを、初代のエンジンに毛が生えた程度の1.6L自然吸気エンジンで走らせるのは若干無理があり、どうしても「鈍重になった」「デブになった」「モデルチェンジなんかしてほしくなかった」というダークな思いに駆られてしまうのが、正直なところだったのだ。

だが2014年に「1.2L直噴ターボ+6MT」という仕様が追加されたことで、状況はガラリと変わった。
 

ルノー カングー▲カングーのシフトレバーはインパネ式を採用している
 

そこそこの重量になった2代目カングーであっても、変速機が6MTであれば「かったるさ」を感じずに走らせることができる。現在流通している2代目カングーの約35%がマニュアルトランスミッションだ。

それでも、「小カングー」と俗称されることになった初代のような軽快感は望むべくもなかったわけだが、「ぜんぜん許せる!」というレベルにはなったのだ。

そしてカングーのような車の本懐は「ひらひら軽快に走ること」ではなく「人や荷物を載せて、安全かつ快適にどこか楽しい場所まで移動し、楽しい行為をする」という部分にこそある。そう考えると、決してひらひらとは走らない2代目カングーであっても、心の底から「このぐらいで十分!」と思えるのだ。
 

ルノー カングー▲初代から続くルノー カングーのおしゃれポイントが、このダブルバックドア。いわゆる観音開きのリアゲートだが、これが妙におしゃれに見える

相場がなかなか下がらないのも、車としての魅力が大だからこそ

そして2代目カングーは、その気になれば3列目シートも配置できるほどのボディサイズではあるが、あえてそれをしなかったことで、1列目と2列目の居住空間は十分以上に広い。そして荷室には3列目シートも、3列目シートを格納するための空間もないため、ラゲージルームは存分に広く使うことができる。

まぁ世の中には「家族構成の関係でどうしても3列目シートが必要」という方もいらっしゃるので、そういった方にはまるで向かない車ではある。だが多くの箱型車ユーザーは、3列目シートを常時格納した状態で走っているというのが現実に近い。であるならば、多くの人にとっては「シートが2列でも、よく考えれば特に問題はない」という結論になるだろう。
 

ルノー カングー▲荷室を覆うボードの設置位置は高低2ヵ所から選ぶことができる。荷室長は通常時が611mmで、後席を倒すと1803mmまで広がる
 

そしてさらに言えば、2代目ルノー カングーは内外装デザインが素晴らしい。かわいいのだが、決して「かわいすぎるベタベタの甘口」ではなく、性別や年齢を問わず愛用できそうな、ポップでありながらシックな造形なのだ。

つまり「走りが良くて、人と荷物をガンガン載せられて、なおかつデザインもよろしい」というのが1.2Lターボエンジン+6MTの2代目ルノー カングーなのである。
 

ルノー カングー▲シート表皮のデザインはシンプルなのだが、それでも妙にしゃれているのが「フランス車ならでは」といったところ。また座り心地が妙にいいというのも、カングーを含むフランス車全般の特徴だ
ルノー カングー▲後部ドアはスライド式。お子さんを乗せる場合にはヒンジドアよりも安心できるはず
 

まぁそのように魅力的な分だけ、中古車価格は決してお安くはない。2代目全体の平均価格はいまだ166万円であり、この個体のプライスも178.9万円(※現在は売約済み)。新車価格が240万円ぐらいだったことを考えると、「ある意味ほとんど下がってない!」とすら形容できなくもない相場状況なのだ。

だがそれでも、「これだけ走りもカタチも良好な荷物グルマ」というのは、世の中にそうそうあるものではない。

それを考えれば、こちらの個体の178.9万円というプライスは妥当というか「むしろ安いかも?」と言うべきものであろう。

そして今年後半に導入される次期型のデザイン的な方向性が思いっきり変わってしまうことを考えても――2代目ルノー カングーの1.2Lターボ+6MTの中古車は「どう考えても“買い”でしょ!」としか、筆者には思えないのである。
 

文/伊達軍曹、写真/阿部昌也

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伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。