ポルシェ 911 ▲ターボやGT3、GT3 RSなどのスペシャルなポルシェ 911のことを世間では「役付き911」と呼ぶのですが、そういった役付きは通常かなり高額で、普通の人が簡単に買えるものではありません。しかし、中には「頑張れば買えないこともない」という役付き911も一部に存在しているものです。そんな「現実的な役付き911」について、その直近の相場等々を含めて考えてみます

コロナ禍にあっても役付き911の相場はほとんど下がらず

8月27日発売の雑誌「カーセンサーEDGE」では、「人生一度は911。」と題したポルシェ911の大特集を展開している。

ここでは、同特集内に掲載された「ポルシェ 911マーケット事情」をweb用に再構成した特別バージョンをお届けしながら、いわゆる役付き911(通常の911よりもエンジンなどがさらにいろいろすごい、スペシャルなポルシェ 911)の中古車相場について考えてみたい。
 

ポルシェ 911▲こちらの写真は「役付きポルシェ 911」のひとつである991型(1世代前の911)のGT3。極限まで研ぎ澄まされた自然吸気エンジンを搭載する、「公道も走れるレーシングマシン」とでも言うべき1台

まだまだ予断を許さぬ状況ではあるものの、少なくともCOVID-19の第1波が明らかにしたのは、輸入各車の「リアルな商品力」だった。

値段やブランドイメージの高低にかかわらず、人々から強く求められるモデルは、それが趣味性の高い車種であろうと実用車であろうと、第1波の渦中でも基本的には中古車相場をキープした。

だがそうでないモデル――すなわち「……よく考えたら特に買う必要なくね? 」的に思われてしまった車種は期間中、その相場を大きく崩したのだ。

そして歴代ポルシェ 911とは、仮に実用車として見るならば「不要不急の1台」だとも言えるだろう。

しかし人間の心というのは「実用の精神」だけで出来上がっているわけでなく、「夢」「憧れ」「自己実現」などによっても構成されているため、人の心のそういった部分を常に刺激してやまないポルシェ 911の相場は、COVID-19第1波の最中にも特に大きく崩れることはなかった。

そして、ポルシェ 911の中でも「役付き」と呼ばれるスペシャルモデルの相場は特に崩れず、崩れないどころか、直近では上昇傾向にある。

これは、こういう言い方もどうかとは思うが、取材に基づく実際の話として、新型コロナウイルス関連の補助金や据え置き融資等々で懐が潤った人が、「多額の法人税を払うぐらいなら、いっそ……」的なノリで、役付き911を買いに走ったケースも多かったゆえの現象であるようだ。
 

ポルシェ 911▲様々な事情と背景により、どんな世相であっても「買う人は買う」というのが、役付きポルシェ 911に代表される「スペシャルな人気輸入車」の特徴と言えるのかも

4ケタ万円が中心だが、中には3ケタ万円でイケる役付きも?

具体的には、991世代(1つ前の世代)のGT3はその大半が車両価格2000万円超となっており、GT3 RSの低走行物件にいたっては2500万円超。

997世代(2世代前の911)であっても、GT3 RSは1500万円超が当たり前というのが現在の相場だ。

それでも、そういった役付き911というのは何かとバリューが高い車ゆえ、もしもあなたが富裕層に属する人でありならば、今、それらの中から気になる1台をお買い求めになればいい。

長く所有するにせよ早めに手放すにせよ、そのリセールバリューを考えれば「大損」をすることはまずないはずだからである。

問題は、決して富裕層ではないフツーの庶民(筆者を含む)が「どうしても役付きの911を買いたい! 」と思ったケースであろう。

しかしその場合でも、いちおう解決策はある。

996世代(3世代前の911)のターボか、あるいは997世代の前期型ターボ(ティプトロニックS世代)に着目すればいいのだ!
 

ポルシェ 911▲こちらがタイプ996(3世代前のポルシェ 911)の「ターボ」
ポルシェ 911▲こちらはタイプ997(2世代前のポルシェ 911)の、前期型「ターボ」
 

これらであれば、好条件な物件であっても支払総額は650万から800万円ほど。

多くはローンで購入することになると思うが、過去の実例から考える数年後の平均売価は、現在とそう大きくは変わっていないと予想されるため、リセールまでを含めて考える「実質的な支払総額」は、決してバカ高いわけでもない。

1200万円以上の支払総額でもOKとするならば、もちろん他にもいろいろと選択肢はある。

だがそうでないのであれば、これが現状唯一の「一般庶民が役付きポルシェ 911に乗るための手法」だと言えるはずだ。

「頑張れば買えなくもない役付き911」はこの4モデル!

ということで以下、「フツーの庶民であっても決して買えなくはない役付きポルシェ 911」の概要と、その中古車相場を記す。

購入検討における「まずは手始め」としてご参考にしていただけるなら幸いだ。

●ポルシェ 911ターボ(タイプ996)
注目相場:580万~780万円

ポルシェ 911▲2000年から2004年まで製造販売された996型ターボ。最高出力420ps、最大トルク57.1kg-mの3.6Lツインターボを搭載。トランスミッションは6MTまたは5速ティプトロニックS

これこそが、現実的な予算で狙える「役付き911」の最右翼。

3世代前のポルシェ 911である「タイプ996」のターボで、エンジンは最高出力420psを発生する3.6Lツインターボエンジン。

多走行車でもOKなら車両400万円台から探せるが、何かと好条件で、なおかつ比較的手頃な中古車のプライスは、おおむね上記ぐらいの範囲となる場合が多いはず。

6MTのターボを上記の注目相場(580万~780万円)で見つけることもできなくはないが、流通の中心は5速AT版である「ターボ ティプトロニックS」。

ただし911ターボは超極太トルクゆえ、オートマのティプトロニックSでも運転は十分楽しい。

より正確に言うなら、超極太トルクゆえ、せっかくMTを選んでも「変速させる機会があまりない=どんなシーンでも4速とか5速に入れっぱなしで運転できてしまう」という感じか。

それゆえ、ATのティプトロニックSでも「十分楽しい!」ということになるのだ。

▼検索条件

ポルシェ 911×タイプ996×ターボ×全国

●ポルシェ 911 GT3(タイプ996)
注目相場:800万~900万円

ポルシェ 911▲こちらが996型の後期GT3。まずは約1900台が限定発売された自然吸気のスペシャルエンジンを搭載するモデルで、あまりにも人気が出たため後期型からカタログモデルに。後期3.6Lエンジンの最高出力は381ps

人気の「996後期GT3」も、いちおう3ケタ万円の総額で検討可能だ。

当時最高の切れ味を誇った自然吸気のフラットシックスを搭載するのが「GT3」で、1999年に発売された前期型は約1900台の限定車だったが、2003年モデルから後期型としてカタログモデルに。

後期型の3.6L水平対向6気筒エンジンは最高出力381ps。軽量フライホイール等による吹き上がりの鋭さは格別と言える。

マーケットには上記の注目相場(800万~900万円)より安い物件もあるが、好条件な個体はだいたい上記ぐらいのニュアンスになるはず。

決して安くはないが(というか、庶民からすれば鬼のように高い)、しかし丁寧に扱いながら走行距離をさほど延ばさないよう心がければ、数年後のリセール価格もかなり高めであることはほぼ間違いない。

もしもそれを見越したうえでローンを組むことができるのであれば、GT3であっても一応は入手可能なのだ。

▼検索条件

ポルシェ 911×タイプ996×GT3×全国

●ポルシェ 911 ターボ(タイプ997)
注目相場:750万~900万円

ポルシェ 911▲997型(2世代前のポルシェ 911)の「ターボ」。写真は前期型で、3.6Lのツインターボエンジンは最高出力480psで最大トルク63.2kg-m。「スポーツクロノパッケージ」にはオーバーブースト機能も

ティプトロニックSで良しとするなら、タイプ997の911ターボも狙うことができる。

こちらは、2004年から2011年まで販売された2世代前のポルシェ 911である「タイプ997」のターボ。

前期型は最高出力480psの3.6Lツインターボ+6MTまたは5速AT(ティプトロニックS)で、後期型は最高出力530psの3.8Lツインターボ+7速PDKに変更された。

後期PDKはまだまだ車両価格1100万円以上が中心であり、前期でも6MTは希少価値が高いため1000万円超となる場合がほとんど。

しかし前期のティプトロニックSであれば、比較的好条件な1台でも車両価格750万円前後から見つけることができる。

こちらもタイプ996のターボ同様に極太トルクであるため、MT車を買っても「変速させる機会」はさほど多くはない。

まぁ考え方と好み次第ではあるのだが、普通に考えれば「ティプトロニックSでもぜんぜん十分」と言えるはず。

▼検索条件

ポルシェ 911×タイプ997×ターボ ティプトロニックS×全国

▼検索条件

ポルシェ 911×タイプ997×ターボ×全国

●ポルシェ 911 ターボ(タイプ930)
注目相場:1200万~1500万円

ポルシェ 911▲1975年に発売された930型ポルシェ 911ターボ。最高出力は、年代によって異なるが260psから288ps。大パワーに対応するための極太タイヤを収めるためのリアフェンダーに、多くのちびっこや自動車ファンが憧れた

空冷エンジン世代の高まり続けている今、1980年代に製造販売された「930ターボ」の中古車相場は当然ながらバカ高い。

普通に考えれば、筆者を含むフツーの庶民がそう簡単に手を出せる金額ではない。

だが「一生モノ」として考えるならば、もしくは「リセール価格の長期的な高騰」を見越すのであれば、80’sを代表する役付き911である「タイプ930のターボ」を狙うのも無い話ではない。

もちろん高額ではあるのだが、一時期の超絶高騰状態はいくぶん落ち着いたため、上記「注目相場」の範囲ぐらいで、かなり好条件な1台が見つかるはず。

一般庶民の場合は「120回ローン」などで購入するケースも多いと思うが、低金利でさえあれば、数年後の売却時にはトントンで売り抜けるか、下手すれば「売却益」が出る可能性すらあるだろう。
 

▼検索条件

ポルシェ 911×タイプ930×ターボ×全国
文/伊達軍曹、写真/ポルシェ
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。