フォルクスワーゲン ゴルフ▲ジウジアーロの代表作のひとつ、フォルクスワーゲンの初代ゴルフ。残念ながら現在は中古車市場で探すことは難しくなっている

絶滅寸前!? 乗れるうちに手に入れたいジウジアーロ作品

かつてスーパーカー少年たちの胸を熱くした、美しいフォルムのモデルのほとんどは、イタリアのカロッツェリアから生まれた。

例えば当時のフェラーリは、ピニンファリーナに依頼して512BBやディーノ246GTなど数々の美しい跳ね馬を、ランボルギーニはベルトーネとともに、近未来的なカウンタックや流麗なミウラを生んだ。

中でもベルトーネは、先述のランボルギーニやミウラをデザインしたマルチェロ・ガンディーニと、ここで紹介するジョルジェット・ジウジアーロという巨匠が活躍した名門カロッツェリアだ。

マセラティ ギブリ▲写真はギア時代にジウジアーロがデザインしたマセラティ ギブリ。マセラティが当時流行のスーパーカーマーケットに参入すべく投じたモデルだ

ベルトーネ時代のジウジアーロの作品は、アルファロメオ ジュリア スプリントGTやBMW 3200CS、マツダ ルーチェ(初代)などがある。

ベルトーネからギアに移籍してからは、いすゞ 117クーペやマセラティ ギブリなどを手がけた。

そして、1969年に自らの会社「イタルデザイン」を設立するとフォルクスワーゲン ゴルフ(初代)や、デロリアン、BMW M1、ロータス エスプリ、マセラティ ボーラ……と精力的に名車を描いてきた。

しかし21世紀に入ると、あれだけ蜜月だったフェラーリとピニンファリーナが関係を解消したことからもわかるように、カロッツェリアやフリーのカーデザイナーは冬の時代に突入している。

一方でBMWのキドニーグリルは年々大型になっているし、アウディは巨大なオクタゴン(八角形)グリルで広くブランドイメージを浸透させてきた。

けれど、パッと見のインパクト重視の車があふれてきた今だからこそ、見ているうちにどんどん引き込まれるような、エレガントな車が欲しくなる。

先述のように2000年代に入ると、ジウジアーロ作品はグッと減っている。

代表作である初代ゴルフをカーセンサーで探すことは極めて厳しいし、ギブリはコレクターズアイテム化している。

けれど多作な彼だけに、今ならまだ中古車で手に入れられるモデルもある。しかも支払総額100万円以下で。

今回はそんなモデルを5台紹介しよう。

「最低限のコストで最大限の機能」が一番美しい
フィアット パンダ(初代)

フィアット パンダ▲デビュー時はラジエターを冷やすためのスリットが片側に入る鉄板グリルだったが、1982年に追加されたグレードのスーパーから徐々に、写真のように斜めに5本のラインが入るグリルに変わっていった

ルパン三世で有名な500(ヌオーバ・チンクエチェント)の後継モデルに当たるフィアット パンダ。

庶民の足をどうするか? 当初フィアットは126を用意したが、デビュー時点で時代遅れの2気筒エンジンを500と同じリアに配置し、後輪を駆動させるモデルだった。

もっと根本的にベーシックカーを何とかしなくては。そこでジウジアーロを招き、コンセプト作りから参加してもらうことで生まれたのが、初代パンダだ。

フロントウインドウまですべて平面で構成することでコストを削減。安っぽいダッシュボードを備えるくらいなら、とインパネの左右いっぱいに横棒で布を張っただけの大きなポケットだけにした。

シートだって中身をギュギュッと詰めても無駄でしょ、とばかりにパイプフレームに布を張ったハンモックにした。

最低限のコストで最大限の機能。ジウジアーロの天才ぶりが内外に発揮されたこの1台は、1980年にデビューすると2003年に2代目が登場するまで20年以上も愛され続けたロングセラーとなった。

デビュー時は652ccの2気筒と903ccの4気筒が用意された。その後、幾度かのマイナーチェンジや一部改良を受け、4WDモデルやダブルサンルーフモデルが追加された他、搭載エンジンやトランスミッションも進化していった。

そりゃ20年以上も同じわけはないのだが、基本的なエクステリア・インテリアはファーストモデルと変わらない。それだけ秀逸なコンセプトであり、デザインだったということだ。

1981年時点での車両本体価格は144万5000円~。生産終了から20年近くたつが、原稿執筆時点(2020年8月20日)で40台以上とそこそこの台数が見つかる。そのうち支払総額100万円以下は約20台だ。

▼検索条件

フィアット パンダ(初代)×総額100万円以内×全国

グラスキャノピーはスバル車だから採用されたデザイン
スバル アルシオーネSVX(初代)

スバル アルシオーネSVX▲複雑な形状のグラスキャノピーゆえ、窓の開口部は「全開」とはいかない。とはいえ前後とも下げると緊急時に体を出せるサイズになっている。インパネやシート形状もジウジアーロ案をベースに二人三脚で詰めていったそうだ

1981年登場のトヨタ ソアラから始まった、単なるスポーツカーではなく、グランドツーリングカーとしてのスペシャリティクーペは、バブル時代にさらに花開く。

スバルも1985年にアルシオーネで参入するものの、思うように台数を伸ばせず、2代目に「SVX(スバル・ビークル・X)」というサブネームを付けて1991年に改めて投入した。

サブネームだけでなく、デザインをジウジアーロに依頼したことからも「初代とは違う!」という同社の意思が表れている。

そのデザインの特徴としては、やはりグラスキャノピーだ。これは同社の出自が中島飛行機ということもあり、飛行機のキャノピーのようなイメージをリクエストすると、たまたま似たような構想を温めていたジウジアーロが快諾してくれたという。

ただ、この複雑なガラス形状は、唯一手を上げた日本板硝子の、並々ならぬ日本のモノづくり技術なしには実現できなかったようだ。

搭載されたエンジンは3.3Lの水平対向6気筒。これに4速ATが組み合わされた。もちろん4WDだが、前後トルク配分を36:64から直結4WDの間で可変するシステムを採用。さらに四輪操舵も備えるなど、フラッグシップらしく当時のスバルの技術の粋が集められた。

新車時の車両本体価格は333万3000円~。原稿執筆時点で20台以上見つかり、3台が支払総額100万円を切る。一方で600万、700万円以上する中古車もあるなど、いまだに人気がある車ゆえ、コンディションによって価格差が大きい。

▼検索条件

スバル アルシオーネSVX(初代)×総額100万円以内×全国

マセラティをほうふつさせるスタイリッシュなハッチバック
フィアット グランデプント(初代)

フィアット グランデプント▲本革シートや大型サンルーフもオプションで用意されていた。全長4050mm×全幅1685mm×全高1495mmというサイズは、当時のBセグメント(フォルクスワーゲン ポロやプジョー206など)の中では大きいが、今なら当たり前のサイズ感だ

初代プントは、上記パンダより車格が上のコンパクトカーとして1993年に登場。ちなみに初代のデザイン担当もジウジアーロだ。

1999年にデビューした社内デザインの2代目をはさみ、3代目は少しサイズが大きくなり、名前に「グランデ(大きな)」が付いて2005年(日本には2006年)に登場した。

2代目プントはグランデプントのデビュー後も本国では2010年まで併売されたから、差別化のためにもこのネーミングにしたのだろう。

グランデプントはジウジアーロとフィアットが共同でデザインしたが、先端に向かって絞り込まれるような造形のフロントまわりは、当時ジウジアーロが手がけて話題となっていたマセラティ クーペをほうふつさせるもの。

それだけで(グランデとはいえ)全長約4mのコンパクトハッチバックがちょっとスタイリッシュに見えてしまうから、あえて寄せたのかもしれない。

一方でリアは初代・2代目と同じく、ボディ上部にタテに配することで「プント」一族であることを示している。

搭載されたエンジンは1.4Lで、当初は3ドア×6速MTのグレード、スポーツのみだったが、後で5ドア×2ペダル5速MTのデュアロジックモデル(グレード名は標準/キロ/メガ/ギガ/テラ)が追加された。

デビュー時の車両本体価格は209万円(スポーツ)。原稿執筆時点で16台見つかるが、すべて支払総額100万円以下だ。支払総額30万円以下も4台あるなど、手頃な価格で手に入れやすい。

▼検索条件

フィアット グランデプント(初代)×総額100万円以内×全国

Cクラスや3シリーズにはないエレガントなフォルム
アルファロメオ アルファ159(初代)

アルファロメオ アルファ159▲3.2Lの4WDシステム(Q4システム)は前43:後57に駆動力を振り分ける。GMとの共同開発のおかげで、ボディ剛性が向上。アルフェスタ(アルファロメオの愛好家)の中にはやや物足りと感じる人もいるようだが、十分スポーティな走りが楽しめる

アルファ156の後継モデルとして2005年にデビューした159。

実は先代となる156のフェイスリフト(2003年)の時点で、すでにジウジアーロによる手が加えられていた。フロントグリルに備わるアルファロメオ伝統の盾は、前期型より大きくなり、ヘッドライトまわりがシャープに。

そう、この2年後に登場する159を先取る「ブレラ顔」系なのだ。

ブレラ顔とは何か? は下記のアルファブレラの項に譲るとして、ともかく1986年からフィアットの傘下にあったアルファロメオは、2000年にフィアットがGMと資本提携すると、156の後継モデルをGMと共同開発することになった。

メルセデス・ベンツ CクラスやBMW 3シリーズなどにガチンコ勝負をするため、全長は156より255mも長い4690mmに、全幅は+65mmの1830mmと大きくなった。

ところが2005年にGMはフィアットとの提携を解消。混乱の中、159はデビューした。

そんな事情はともかく、ジウジアーロは自らの仕事にまい進。アルファロメオのデザインセンターとともにライバルたちよりも精悍で美しいスタイルに仕上げた。

こうしてみるとブレラ顔は、156よりも大きくなった159の方がしっくりくる。

搭載されたエンジンは2.2Lの直列4気筒と、3.2LのV6で、当初は6速MTのみ。また3.2Lは4WD車となる。のちに2.2L車に2ペダルMTのセレスピードが、3.2L車に6速AT(アイシン製)が組み合わされる。

新車時の車両本体価格は399万円~。原稿執筆時点で50台以上見つかり、支払総額100万円以下は20台以上あるなど、選びやすい。

▼検索条件

アルファロメオ アルファ159(初代)×全国

ほぼコンセプトカーのまま市販化された意欲作
アルファロメオ アルファブレラ(初代)

アルファロメオ アルファブレラ▲大型のガラスルーフ(スカイウインドウ)は、レス仕様の市販車も用意されたが、2002年のコンセプトカー時代から提案されている装備。開閉はできないが、頭上に空が広がるのは気持ちいい

ジウジアーロ率いるイタルデザインが2002年のジュネーブショーで披露した、アルファロメオのためのコンセプトカー「ブレラ」。それがそのまま市販車として現れたのは2005年のことだ。

ランボルギーニ カウンタックのような跳ね上げ式ドアは通常のヒンジドアに改められたが、丸みを帯びた独特のリアエンド形状や、伝統の盾を挟んで鋭い眼光を放つ3連6眼ヘッドライトなどは、ほぼコンセプトカーのままだ。

この顔がいわゆる「ブレラ顔」で、2002年のコンセプトカー時点から採用されていた。

デビュー時期がブレラより少しだけ早い159にも「ブレラ顔」が採用された他、ブレラをベースとしたオープンカー・アルファスパイダーや、159のステーションワゴン(159スポーツワゴン)にも用いられた。

さてブレア。ベースは上記の159だが、ホイールベースは175mmも縮められている。セダンに対するスポーティクーペというわけで、足回りもスポーティなセッティングが施された。

2006年に日本に登場した際の搭載エンジン×トランスミッション×駆動方式は159と同じで、2.2L×6速MTまたは2ペダル6速MT×2WD(FF)、3.2L×6速MTまたは6速AT×4WDとなる。

新車時の車両本体価格は436万円~。原稿執筆時点で14台以上見つかり、支払総額100万円以下は3台。

なお、アルファスパイダーはブレラをもとにピニンファリーナが手がけた、いわば“スペシャルコラボ”モデル。いまだ人気が高く、原稿執筆時点で中古車の平均価格は約150万円するが、ブレラ同様そろそろ台数も少なくなっているので、欲しい1台があれば即アクセスすることをオススメする。

▼検索条件

アルファロメオ アルファブレラ(初代)×総額100万円以内×全国
文/ぴえいる、写真/フォルクスワーゲン、マセラティ、フィアット、スバル、アルファロメオ

ぴえいる

ライター

ぴえいる

『カーセンサー』編集部を経てフリーに。車関連の他、住宅系や人物・企業紹介など何でも書く雑食系ライター。現在の愛車はアウディA4オールロードクワトロと、フィアット パンダを電気自動車化した『でんきパンダ』。大学の5年生の時に「先輩ってなんとなくピエールって感じがする」と新入生に言われ、いつの間にかひらがなの『ぴえいる』に経年劣化した。