スバル WRX▲2019年末に惜しまれつつ販売終了となったスバル WRX STI。今回はモデルの特徴を振り返るとともに、中古車を狙うときのチェックポイントを、生粋のスバル系自動車ライターのマリオ高野氏が解説する

最後の「EJ20」搭載モデル

2019年末、スバルファンに30年愛された名機EJ20の退役とともに販売を終了したWRX STI(型式:VAB)。

インプレッサの名が外れたものの、シリーズの4代目として2014年8月に発売され、以降5年にわたって販売された。

高値安定傾向が強い高年式スバル車の中でも特に中古車相場は高め。最安値でも200万円以上と人気で、最終モデルでは新車以上の価格がつけられるものも。

さらにS207やS208、EJ20ファイナルエディションなどの、STIの希少な限定車は値下がる気配は皆無で入手は困難。

そんなWRX STIの概要を振り返ってみよう。

スバル WRX

昔からのWRXファンからも好評

歴代のインプレッサWRXと同様に、スバルのトップスポーツモデルに位置付けられ、モータースポーツ競技で使われることも想定して開発された。

ボディサイズは3代目のインプレッサWRXに比べて、全長は15mm、全高は5mm、ホイールベースは25mm拡大したものの、フェンダーのボリューム感を増しながら全幅は1795mmに抑えられた。

Aピラーの下端を約200mm前方へ移して傾斜角度を小さくしたなどの工夫により、実際よりも低く、よりワイドに見える。

リアのオーバーフェンダーが張り出していることも、四輪の踏ん張り感を強めることに貢献。

それでいて、車重はギリギリ1.5トン以下となっている。

何かと賛否が分かれた2代目、3代目と違って、エクステリアデザインは最初からおおむね好評だった。

Cd値(空気抵抗係数)は3代目より約10%も改善されている。

スバル WRX▲ウインカーをヘッドランプユニット内ではなくバンパー内部に設けたことで、初代WRXの面影が強くなったことも、旧来のWRXファンから歓迎されたポイントに

日常使いを犠牲にしていない

室内パッケージングは、ベースとなった初代 インプレッサG4(GJ型)と同じで、中型セダンとして優秀と評価できる。

3代目と比べて乗員の肩まわりや肘まわりに余裕が感じられ、ショルダールームは20mm拡大。

ロングホイールベース化の恩恵により、後席の足元スペースも拡大している。

硬派なスポーツモデルでありながら、大人5人が無理なく乗車できる居住空間を確保し、トランクルームも中型セダンとして十分な広さをもつ。

運転席からの視界の良さは、特筆に値するレベルだ。

三角窓的なフロントクオーターウインドウやドアマウント式のドアミラーなどにより、3代目よりも取り回し性は確実に良くなった。

日常的な運転時はもちろん、レースやラリーでも視界の良さは強い武器となっている。

スバル WRX▲スバルが1980年代から重視している「0次安全」思想は、ボディが拡幅されるたびに磨きがかかる
スバル WRX▲硬派なスポーツモデルでありながら、大人5人が無理なく乗車できる居住空間を確保。歴代WRXの伝統的な美点がさらに磨かれた
スバル WRX▲トランクルームも十分な容量を確保している

最大の美点はリアの安定性

4代目VAB型の走行性能面の最大の特徴は、限界領域におけるリアの安定性が今でも「高次元」と評価できるレベルにあるということ。

リアグリップを高めながらフロントの舵の利きを鋭敏にする、国際的な高性能車らしい走りが実現された。

開発をまとめた高津益夫氏(現STI)は、リアグリップの応答性の向上を最大の開発テーマとしていたと語っている。

また、ラリードライバーの新井敏弘選手をはじめ、歴代WRXでラリー競技に参戦してきたドライバーたちは「VAB型の最大の美点はリアの安定性」と口を揃える。

最高速度は260km/hを超え、24時間で3600km以上走るという過酷な状況下で戦うニュルブルクリンク24時間レース参戦によるフィードバックが生かされており、モータースポーツとの強い関わりが感じられる部分でもある。

このリアの安定性の高さをもたらしたのは、高度なボディ作りによるものだ。対3代目比でねじり剛性は40%以上、曲げ剛性は30%以上と剛性の数値は大幅に向上。

ただ硬く強くしたのではなく、車体全体で路面からの入力をいなす設計思想が強められたからこそ、高度なコントロール性が実現された。

また、4代目WRX STIは高度な運動性能のみならず、動的な質感やコンフォート性についても重視され、400万円の車に相応しい車格感を追求。

サスペンションのバネレートは相当高められているので、絶対的にはハードな乗り心地となっているにも関わらず、乗り心地は上質感を増した。

コーナーでフルロールしたときなど、サスペンションストローク量は意外に大きくないことを実感させられるが、たとえサスペンションが底突きをしても、そこから先はボディが入力をいなすような感触が伝わる。

スバル WRX▲サーフィンやスキーのように、後ろ足を重心の軸としながら自在に向きを変えるスポーツのイメージを追求したという

熟成に熟成を重ねたEJ20の完成度は非常に高い

パワートレインは3代目モデルからのキャリーオーバーながら、細部にはかなり改良の手が入った。

まず、エンジンはスペックこそ変わらないものの、ECU制御の緻密化により、アクセル踏み込み量25%で3代目での50%を超える加速度を発揮。

SIドライブの制御も変更され、最もおとなしい「I」モードでもアクセルを踏み込んだときに力強い加速感が得られるようになった。

その反面、電子スロットルの反応にはピーキーさを感じさせるところもあり、ドライバーによっては日常域で少し気にさわることがある。

3代目まではシャシーよりエンジンの性能が勝っていたので、意図的に穏やかなスロットルレスポンスにしつける必要があった。

しかし、4代目VAB型では前述したリアの高度な安定性の実現により、エンジンの制御をより大胆な方向性へ仕立てられるようになったのだ。

さらに細かいところでは、3代目と比べてインタークーラーの冷却効率が向上。

圧力損失は大幅に減少し、理論的にはタービンの大型化と同様の効果が得られた。

スバル WRX▲ECUの学習機能も新世代エンジンのFA/FB型に近いレベルになっており、走るほどに最適な状態を探るイマドキ仕様となっているところにも注目したい

また、性能の個体差バラツキや、熱ダレによる出力の低下幅が少なくなったのも印象的だ。

EJ20型エンジンは20数年作り続けただけあって、品質は非常に高いレベルに達した。

TY85と呼ばれる6速ミッションについても、3代目の仕様そのままではない。

TY85はタフなコンペティション向けギアボックスとのイメージが強いが、車格向上の一環として、シフト操作時のフィーリングを改善。

メインロッドにディテントと呼ばれる戻り止めパーツを追加することにより、シフト操作の節度感がアップ。特に各ギアからニュートラルに戻した際の手応えが秀逸だ。

DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)についても、リアグリップの限界性能の向上に伴い制御を変更した。

4代目VAB型での「AUTO」は3代目での「AUTO-」に相当し、回頭性重視の方向に修正。ステアリングレスポンスの向上に貢献している。

ただし、2017年10月25日から発売のアプライドD型以降は、DCCD内部の機械式LSDを廃止。より回頭性重視のセッティングとなった。

スバル WRX▲DCCDはプラス/マイナス/ロック状態など任意で変更が可能で、サイドブレーキを引くと瞬時にフリーとなる

中古車で購入するときのポイントは前期型か後期型か

それでは、4代目WRX STI(VAB型)の中古車を選ぶにあたってのポイントを挙げてみよう。

4代目WRX STI(VAB型)は、歴代WRXと比較すると、年次アプライド(スバル車における年次改良の呼称)ごとの改良や仕様変更が極めて少なかったことが特徴として挙げられる。

初代~3代目までは年次アプライドごとに仕様が激変することが当たり前だったが、VAB型はアプライドA~Cを「前期型」、D~Fを「後期型」とした2種類だと考えていい。

D型以降の後期型は、フロントマスクの意匠が変わり、フロントブレーキはモノブロック対向6ポットを採用。

「STI Type S」は245/35R19タイヤ&アルミホイールにサイズアップ、DCCD内部の機械式LSD廃止、サスペンションセッティングをしなやか路線に修正など、前期型の仕様とは大きく異なる部分が多く、選ぶ際に注目してほしいところだ。

スバル WRX▲こちらは2017年のアプライドD型。フロントマスクのデザインが変更されている
スバル WRX▲イエローに塗装されたモノブロック対向6ポットブレーキキャリパーを採用

初期のアプライドA型には先進安全装備「アドバンスドセイフティパッケージ」が未設定、サンルーフが選べるようになったのは2018年7月19日からのアプライドE型以降の「STI Type S」のみ、アクセスキーなしでもトランクが開けられるのは最終アプライドF型のみである……など、人によっては重要な変更箇所も少なくない。

しかし、WRX STIという車に求める走りの質においては、前期型or後期型の2つに絞れるので、選び方はシンプルとなる。

また、標準仕様の「WRX STI」と「WRX STI Type S」を比較すると、装備面以外の差はないように思えるが、ダンパーの違いにより、走行フィーリング面は大きく異なる。

スプリングレートは同じながら「WRX STI」はカヤバ製、「WRX STI Type S」はビルシュタイン製となる。

好みにもよるが、簡単にいえばより硬派でスポーツ性が高いのは「WRX STI Type S」の方だ。

乗り比べると、誰でもすぐに違いがわかるほどで、「WRX STI Type S」のビルシュタイン足が硬すぎると感じたならば、標準仕様のカヤバ足を選ぶとよいだろう。

ただ、流通台数は「WRX STI Type S」の方がずっと多い。

両者とも、アプライドD型以降の後期型では“しなやか路線”に修正されているが、WRX S4と比べるといずれもハード路線にあり、差別化が明確だ。

前期型と後期型の走りの違いを整理しよう。

【前期】アプライドA~C型(2014年8月~2017年10月25日生産モデル)

スバル WRX

・足回りはより硬派でロールも少ない
・旧DCCDは駆動拘束力が強く、昔ながらの「WRXらしさ」がある
・旧DCCDは低μ路では扱いやすい面もある
・「四駆に乗ってる感」がより濃い
・街乗りや峠では十分なブレーキ


▼検索条件

スバル WRX STI (VAB型)×アプライドA~C型(2014年8月~2017年10月25日生産モデル)×全国

【後期】アプライドD~F型(2017年10月25日~)

スバル WRX

・足はしなやかで比較的ロールを許す
・しなやかになった分、より扱いやすい
・新DCCDは駆動拘束力が弱まり「FRっぽさ」が増した
・走りの軽快感が増した分、低μ路では比較的ピーキー
・ラジエター冷却効率アップ(サーキットでより安心)
・サーキットで頼もしさ炸裂のフロント6ポッドブレーキキャリパー


▼検索条件

スバル WRX STI (VAB型)×アプライドD~F型(2017年10月25日~モデル)×全国

マニアにとっては付加価値となる「桐生工業」製のエンジン

より多くの人に受け入れられやすいのは後期型となるが、足も駆動力もガチッとした感覚がより濃い前期型の方が好きだという意見もあるので、悩ましいところ。

「昔ながらのWRX」が好きな人は前期型でも十分満足できるし、四駆のスポーツモデルが初めてという人は、後期型の方が違和感を抱く可能性はより低くなる。

車としての本質的な部分は変わらないし、チューニングすることが前提なら、前期型と後期型の違いはあまり気にしないでよいと言える。

ちなみに、後期型はEJ20エンジンの組み立て工場が異なる。

前期型まではSUBARU本体の大泉工場製、後期型はSUBARUの関連企業であり特装車の生産受託で知られる桐生工業製だ。

基本的には同じように組み立てられるので、性能や品質に優劣を付けられるものではない。

しかし、桐生工業では補器類の取り付け工程がすべて一人の担当者が手作業で行うなど、いわゆる「手組み」工程が多く、マニアにとってはクラフトマンシップをイメージしやすいことが付加価値になっている。

なお、STIの限定車の「S207」「S208」「RA-R」「EJ20ファイナルエディション」については、中古車市場ではさらなる高騰はあっても値下がることはないと予想され、相場、流通台数の両面で入手困難だ。

高値で手放せることを思えば無理をする価値もあるが、中古車としてオススメできる物件ではなくなっているのが現状だ。

▼検索条件

スバル WRX STI(VAB型)×全国
文/マリオ高野、写真/スバル
マリオ高野

ライター

マリオ高野

1973年大阪生まれ。スバル ヴィヴィオを買ったことにより運転の楽しさに目覚め、インプレッサWRXも立て続けに新車で購入(弱冠ハタチ)。新車セールスマン、車両回送員、ダイハツ期間工、自動車雑誌の編集部などを経てフリーライターとなる。27年目のWRXと、GJ3型インプレッサG4 1.6i(5速MT)の2台が愛車の生粋のスバリスト。