島下泰久▲『間違いだらけのクルマ選び』を1976年の創刊から世に送り出し続けている草思社の久保田さん(左)と現在の著者の島下さん(中央)に、カーセンサー編集長の西村(右)が歴代の生みの楽しみを伺ってまいりました!

激動の車業界のイマ、と、その年に発売された車のことがよく分かる、でファンにはお馴染みの『間違いだらけのクルマ選び』。2022年版の読みどころについては別記事で紹介しております。


こちらの記事では「あれ、『間違いだらけのクルマ選び』って徳大寺さんが書いてなかった……?」と思われているみなさんにも、現著者である島下さんにどのようにバトンタッチされていったのか、また、日々どう進化しているのか、内容ではなく本の存在そのものについて伺ってきた話をまとめております!

島下泰久さん

『間違いだらけのクルマ選び』著者

島下泰久さん

走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論等々車を取り巻くあらゆる事象が守備範囲。『間違いだらけのクルマ選び』は、2011年から徳大寺有恒氏とともに、2016年版からは単独で執筆。YouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」主宰。

西村泰宏(にしむらやすひろ)

インタビュアー

カーセンサー編集長 西村泰宏

カーセンサーおよびCarSensor EDGE編集長 兼 リクルート自動車総研所長。自動車メディアを車好きだけでなく、車を購入するすべての人のエンターテインメントに変革すべく日々の仕事に従事。家の本棚には当然『間違いだらけのクルマ選び』が何冊も並んでいる。

そもそも島下さんはいつから書き始めたんですか?

西村
西村

そういえばなんですけど……、島下さんはいつからこの本を書くようになったんですか? 前は「徳大寺さんの本」というイメージでしたが。

島下さん
島下さん

はい、ご存じのとおり元々は徳大寺さんが書かれていました。1976年にスタートしたご長寿本なんですけど、初めて一緒に書かせてもらったのは2011年版でした。

西村
西村

やっぱり、徳大寺さんから島下さんに直接ご指名が入って?

島下さん
島下さん

いや(笑)。もちろん一緒にお仕事させてもらったことはあったんですけど、この仕事が始まるまでは逆にその程度でした。

西村
西村

えと、まだ理解できてないです(汗)。

島下さん
島下さん

実は全く別の人から推薦してもらったんですよね。

西村
西村

なんと!

島下さん
島下さん

で、実はその少し前にある雑誌でいろいろなジャーナリストが徳大寺さんに順番にインタビューをする企画があったんです。その時に自分の番で話が盛り上がったってこともあって、徳大寺さん側はすんなりと話が進んだようです。

西村
西村

さすがでございます!

島下さん
島下さん

でも、中学生くらいに読んだ時に好きな車のことが悪く書かれていた本だったので……。

西村
西村

そうだった(笑)!

島下さん
島下さん

なので、自分が一緒に書くとしても、無理に2人で意見を合わせることはしたくない。それぞれが好きに書きましょう、なんて生意気なオーダーはさせてもらいました。

西村
西村

す、すごいですね。

島下さん
島下さん

お互い、最後に本にするまで本当に自分以外の原稿は全く見ずに書いてました。

西村
西村

徹底!

島下泰久 ▲徳大寺さんの意見に合わせるくらいならこの仕事は受けたくない、と固い決意があったことを説明してくれているシリアスな島下さん
島下さん
島下さん

その代わり、月1回くらいのペースで一緒にランチなんかしながら話す機会は設けてたんですよ。わざわざ原稿については打ち合わせなくても、お互い車が好きなんでやっぱりあの車が良かった、あの技術はすごいぞなんて話は自然とはしてましたね。

西村
西村

毎月は結構な頻度ですね、急接近だ。島下さんは業界の様々な方とお仕事されてきていますが、徳大寺さんがスペシャルたるゆえんってどんなところなんでしょうか?

島下さん
島下さん

車について話すときって本当は乗り心地がどうだって話だけじゃないんですよね。なんでこういう乗り心地にしてるんだろう? って背景までセットになっているべきだったりします。そのために、技術的な話だけじゃなくって文化的なところまで掘り下げているんです。

西村
西村

文化的? どういう意味ですか?

島下さん
島下さん

例えば、徳大寺さんはファッションや人付き合いにも相当なお金や時間を使われてました。だから、その時代の中でどんなものがどういうふうに求められているのか、そういう社会と車の開発とをちゃんとリンクさせて良いも悪いも論評してたんですよ。

西村
西村

日々新しくなる車のことをしっかり頭に入れるだけでも自分には相当大変ですけど……。

島下さん
島下さん

そうなんです。だから徳大寺さんと時間を過ごすようになってからは、自分も新しいことをすっごく勉強するようになりました。

西村
西村

島下さんの広い視野は徳大寺イズムでもあったんですね!

島下さん
島下さん

この本の執筆でご一緒したのは5年間くらいでしたが、感化された部分は本当に大きいと思います。

島下泰久 ▲島下さんが書いたのは今まで全12冊。2011年版から徳大寺さんと島下さんの共著となり、2016年からは島下さん単独での執筆となっています
西村
西村

今では完全に島下さんお1人で書かれているわけですが、当時と異なる部分はありますか?

島下さん
島下さん

一緒に書いていた時もほぼそうだったと思いますが、あえて創刊時と比べると、もう買ったら危ないような車が世の中には出てこないんですよ。

西村
西村

分かります、最近の車は試乗するとどれもこれいいな! って思いますから。とくにちょっと古いマイカーなんかと比べちゃうと(涙)。

島下さん
島下さん

そうですよね。逆に、みんなが納得するホームランみたいな車もそう簡単には出てこない時代にはなってます。

西村
西村

「だらけ」だったはずの「間違えるクルマ」がもう世の中にほとんど「ない」ってことですね。逆に「正解」もない時代か、難しい。

島下さん
島下さん

だからこそ、やっぱり自分の視点で1冊語り切るってことが改めて大事だと思うんです。カーセンサーの特集でも同じだと思いますが。スペックや断片的な情報はwebやYouTubeなんかで瞬時にたくさん拾えるようになっているので。

西村
西村

この本を命を削って一気に書き上げる意味、ですね(笑)!

島下さん
島下さん

はい、甲子園で完投する投手のように、ヘロヘロな姿も含めて感動を与えられるものになるかと(笑)!!!

島下泰久 ▲書き終えた後にも、読みやすように順番の入れ替えなど修正作業は続きます(写真は実際に朱字が入った本になる前の原稿)
西村
西村

最新の状態で総括する、なんか歌手がベストアルバムを出すときに過去のヒット曲を今の声で再度レコーディングする感じと似てますね。

島下さん
島下さん

シングルを集めていくのと全体の構成含めて味わってもらうのだとまた違う発見があるでしょ?

西村
西村

本づくりにおいてどんな順番で読んでほしいかって、作り手の意図が反映される大きな要素ですよね。

島下さん
島下さん

YouTubeみたいに好きなものつまんだり、リコメンドされてどんどんクリックされていくのはちょっと違いますよね。

西村
西村

つまり、この本は買いですね(笑)!

島下さん
島下さん

はい、ぜひ読んでほしいです(笑)!!! 去年読んでいただいた方にも、今年は違う発見があるように、そんな気概で毎年書いてますので。自分の中のチャレンジです。

西村
西村

つまり、毎年買いです、みなさん(笑)!

島下さん
島下さん

ぜひよろしくお願いします!

島下泰久 ▲YouTubeでの発信も積極的に行なっていますが、本にするためにモデルを選定したり書く内容、紹介する順番を吟味する作業は大変で楽しい! と目を輝かせながら教えてくれた島下さん。今回はいろいろと教えて下さりありがとうございました!

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文/西村泰宏、写真/稲葉 真