ジープ コマンダー▲スクエアなボディのコマンダーが今回の主人公です


~ カーセンサーEDGE.net連載「功労車のボヤき」 ~
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。

誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。

耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、スクエアなボディが原点回帰だと話題を呼んだジープ コマンダーが物申す!!

自分は他人とは違うと、みんなが思っている

都会の幹線道路沿いにあるSUV専門店……。

おいらが、このショップの片隅に展示されてから、ずいぶんと時が経った。

SUVブームとやらで、人気の四駆たちは次から次に売れていく。あぁ、それなのに、おいらときたら、まるでペットショップで売れ残って大きくなっちまったハスキー犬みたいな気分だぜ。

かつては、ジープ家のフラッグシップモデルとして君臨した、このおいらが……。

あぁ、またランクルが売れていった……。

おぉ、メルセデスのGクラスも売れていった……。

SUVや4WD車が人気なのは、誰もがアウトドアを満喫したい、道なき道をワイルドに駆け巡りたい、と願っているからではない。そうだろう?

オフロードを走り回ってボコボコになったSUVなんて、めったに見かけないじゃないか。

みんな「自分は他人とは違うのだ!」って自己アピールのために、フツーの人(=フツーのセダン)とは違う車としてSUVや4WD車を選んでいるにちがいないのだ。

だけどさ……。

「自分は他人とは違うのだ!」と、みんながそう思っているわけだから、結果的には 休日のサービスエリアはSUVだらけ。夜の六本木なんて、Gクラスだらけだぜ。

自分も他人も同じじゃねぇか!

かつてバブル華やかりし頃には、ビーエムが“六本木のカローラ”なんて呼ばれたらしいが、おいらは今どきのGクラスを“六本木のジムニー”と呼んでやろう、悔しいから。
 

ジープ コマンダー

ルーツはジープ好きなら誰もが憧れる、あの……

おっと、自己紹介が遅くなっちまった。ってか、自己紹介しないとわかってもらえない状況が、すでにトホホなわけだけど……。

おいらの名は、ジープ コマンダー

デビューは2006年。ジープ家初の3列シート7人乗りで、さっきも言ったけど一族のフラッグシップモデルだったんだぜ。

どうよ、この威風堂々とした立ち姿、そして面構え!

チェロキーやグランドチェロキーといった兄弟たちが、どんどん丸みのある洗練されたデザインになっていく中で、おいらだけは角張ったデザインにこだわった。
 

ジープ コマンダー▲こちらが2001年10月~2008年5月まで生産されていたチェロキー

実際のサイズはグランドチェロキーとたいして違わないのに、スクエアなボディのおかげでより大きな車に見えるだろう?

なんたって、おいらのデザインのルーツは、ジープ好きなら誰もが一度は憧れる、あのグランドワゴニアなのさ。

な、そう言われてみれば、「おぉ、たしかに四角くて大きくて、まさに往年のグランドワゴニアだ!」と思うだろ?
 

ジープ コマンダー▲角ばったボディなどコマンダーと通ずる部分があるグランドワゴニア

おいらの悲劇は、そう言われてみないと誰もそう思ってくれなかったこと……。

ジープ一族のプライドを背負って登場したおいらだったけど、なにもかもが丸くなっていく世の中で、四角四面の実直さはなかなか理解されなかった。

かくして、デビュー3年後の2009年には生産中止……。
 

余裕の走りに、見上げる空も広々

エンジンは、クライスラーのマッスルカーで名をはせた5.7LのV8 「HEMI」を搭載(4.7Lエンジンの弟もいる)。

車両重量が2300kgもあるマッチョなおいらだけど、ハイパフォーマンスを誇るHEMIエンジンのおかげで、一般道でも高速道でもアメ車らしい余裕のクルージングを楽しむことができる。
 

ジープ コマンダー▲5.7L HEMIエンジンは最高出力326ps、最大トルク500nN・mを発生

もちろんジープだもの、オフロードが得意だってことは言うまでもない。もしも、キミが六本木だけでなく道なき道もワイルドに駆け巡りたい、と願うなら、どこまでもお供するぜ。

おいらがジープ家のフラッグシップたるゆえんは、力強い走りだけじゃない。

セカンドシート上部に設けられたグラスルーフは、その名も「コマンドビュー」。フロントにはスライディングルーフもある。四角いルーフだからこそ、見上げる空も広々ってわけさ。
 

ジープ コマンダー▲通常のサンルーフに加え後席部分にもグラスルーフが備わる

3列シートも自慢のひとつではあるけど、正直、大人が座るには、ちと狭い。その代わりと言っちゃなんだが、サードシートは荷室のフロアに完全に収納できるから、5人乗車なら荷物をたっぷり積め込める。
 

ジープ コマンダー▲シートがフラットになるため積載性能は高い

走りがよくて、雰囲気がよくて、使い勝手だっていい。

あぁ、それなのに販売期間は、わずか3年余り……。フラッグシップとはいえ、700万円近い新車価格が強気すぎたのか?
 

ジープ コマンダー▲インテリアにはレザーや木目調のパネルなどが使用されている

フツーではないSUVを探している貴兄へ

おいらが、このショップの片隅に展示されてから、ずいぶんと時が経った。

が、最近はおいらのことを興味深そうに見つめる連中が増えてきた。どうやら、フツーではないSUVを探しているらしい。

700万円もしたジープ家の最上級モデルが、今や軽自動車並みの値段で手に入る。そして同じ車と街ですれ違うことは、ほとんどない。ましてや、六本木のジムニーだなんて呼ばれることもない。

個性を主張したいなら、最高の選択のはずさ。誰よりも、おいら自身が「自分は他人とは違うのだ!」と主張し続けてきたわけだから。

おいらの名は、ジープ コマンダー。

丸~い時代の今こそ、四角い主張を。もしも貴方が、他人と一緒の車じゃなきゃイヤだ! とおっしゃるなら……どうぞ、新車のGクラスでも。
 

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ジープ コマンダー(初代)×全国
文/夢野忠則 写真/ジープ
夢野忠則

ライター

夢野忠則

自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。