ケータハムスーパーセブン▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

同じ年齢の友人がスーパーセブンを購入!

今回は、「Coolman car」で出合ったケータハム スーパーセブンについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

実は最近、私の古い友人がケータハム スーパーセブンを購入しました。僕はビックリして「お前、すごいな! いったいどうしたんだ?」と訪ねました。

彼は若い頃からスーパーセブンに憧れていて、車に乗れなくなる前にどうしても所有しておきたかったのだそうです。

ケータハムスーパーセブン▲1957年にロータスが生み出したセブン。1973年に製造販売権などをケータハムに売却した

僕は30年ほど前にモーガンを購入して今も所有しているのですが、実はモーガンを手に入れるとき、スーパーセブンにするかかなり迷いました。最終的にモーガンを選んだのは、スーパーセブンに乗る勇気がなかったから。それもあって友人の選択に男気を感じたのだと思います。

モーガンもある意味オープンホイールスタイルなのでスーパーセブンと同じような立ち位置に感じるかもしれませんが、乗っている意味合いがまったく違います。スーパーセブンはスパルタンであり、ストイック。生半可な気持ちではすぐにへこたれてしまうでしょう。

最初にロータス セブンが登場したのは1950年代。その後製造販売権がケータハムに移り、バーキンなどからニアモデルが登場しても、セブンは立ち位置を一切変えずに人々の憧れであり続けています。

ケータハムスーパーセブン▲大きく張り出したサイドマフラー。かつては運転席に座ったドライバーがそのまま地面でタバコの火を消したりしていた。車高の低さを表すエピソードだ

設計はデビュー時から大きく変わっていないのに、クラシックカーとしては扱われない。これってすごいことです。世界の潮流を考えるとこういう車が新しく開発されることはないでしょう。車の電動化が進む中で、セブンEVの構想もあるようですね。でもEVになると少し意味合いが変わってくるかもしれません。

スーパーセブンと同じような立ち位置にいるのはハーレーダビッドソンでしょう。どちらも「一度は所有してみたい」と憧れる人はたくさんいても、嫌いという人はほとんどいません。

ケータハムスーパーセブン
ケータハムスーパーセブン▲取材車両はコスワースのエンジンを搭載していた

若い頃にスーパーセブンやハーレーに憧れた人は多いでしょう。でも実際に手に入れたという人は案外少ないと思います。とくにスーパーセブンはごくごく限られた人しか乗ったことがないはず。だからこそ、年を重ねてから「後悔しないためにも乗っておきたい」「最後にひと勝負しよう」と考えるのだと思います。

この感覚はギターなども近いかもしれないですね。学生時代にバンドをやっていたけれど、社会人になったら仕事に追われてすっかり音楽から離れてしまった。でも定年になって時間ができたから、再びギターを弾いてみようと考える人は多いでしょう。そのときに、フェンダーのストラトキャスターやテレキャスター、あるいはギブソンのレスポール、どっちで人生を楽しんでやろうかと考えるのは贅沢な悩みです。

ケータハムスーパーセブン▲「何歳になっても夢を諦めない。この気持ちが大切だよ」(テリーさん)

僕のまわりでも「死ぬ前にハーレーが欲しい」と話す人は多いですよ。ハーレーを選ぶなら、転ぶ心配がなくて多少なりとも荷物を運べるスーパーセブンの方がまだ楽でしょう。

テリー伊藤ならこう乗る!

ケータハムスーパーセブン▲ケータハム以外にもメーカーがセブンを世に送り出した

街中でこの車に乗っている人を見かけると「夢をかなえていてうらやましい」と思う反面、「友達、いなそうだなあ」とも感じます。これは悪口ではありませんよ。1人でストイックに趣味を楽しむことに対する敬意です。

考えてもみてください。僕と同じくらいの年齢の人だって、ワイワイとドライブを楽しみたいし、かなうなら素敵な女性とドライブしたい。でもスーパーセブンで迎えに行ったら間違いなく怒られますよ。風で髪の毛はぐちゃぐちゃになるし、顔も汚れてしまう。何より2人で乗るには狭すぎます。必然的に1人を強いられる車ですよね。

ケータハムスーパーセブン
ケータハムスーパーセブン▲走りに徹したタイトなコックピット。パートナーとゆったりドライブを楽しむのは難しい

でもそれでいいのです! 流行りのSUVが良妻賢母だとしたら、スーパーセブンは対極にいる『悪女』ですよ。お金はかかるし、なかなか言うことを聞いてくれない。

でも、悪女には良妻賢母にはない魅力があります。一緒にいたら何かと文句を言われたりして大変ですが、わずかな時間だけ一緒に過ごす夜は最高に素晴らしいのかもしれない。悪女に惹かれた男は、その時間のために残りのすべてを犠牲にするのです。そして一瞬の快楽に酔いしれる。まさにスーパーセブンじゃないですか!

ケータハムスーパーセブン▲少しでも憧れをもっているのであれば、年齢など気にせずこの車を手に入れることを目指してほしい。それだけの価値がある車ですよ

この車で箱根などのワインディングを走るのも気持ちいいでしょうが、僕なら頑張ってサーキットを走りたい。サーキットはスーパーセブンが最高に輝く場所でしょうから。今でもスーパーセブンのワンメイクレースが行われていますし、そこまで本気じゃなくても走行会などで十分に楽しめるはず。

多くの人が憧れるスーパーセブンですが、実際にステアリングを握るのはごくわずかの人だけ。でも少しでも憧れをもっているのであれば、傍観者にならずにスーパーセブンを手に入れてほしいですね。年を重ねてからでもこの車に乗ることで価値観や人生が大きく変わるはずですよ。

ケータハム スーパーセブン

イギリスのロータスが量産キットカーであるセブンをデビューさせたのは1957年。ロータスは1973年にセブンの製造販売権などをケータハムカーズに売却。ケータハムでは現在でもこのスタイルの車両を製造している。今回取材したのはレーシングエンジンビルダーであるコスワースが手がけたフォード製1700ccのBDRエンジンを搭載するスペシャルモデル。最高出力は170psだが車両重量が600kg程度と極めて軽いため、強烈な加速感を味わえる。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人
テリー伊藤

演出家

テリー伊藤(演出家)

1949年、東京・築地生まれ。早稲田実業高等部を経て日本大学経済学部を卒業。2023年3月、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」など数々のテレビ番組の企画・総合演出を手掛ける。現在は演出業のほか、タレント、コメンテーターとしてマルチに活躍している。テリーさんの半生を綴った「出禁の男 テリー伊藤伝」(イーストプレス)が発売中。TOKYO MXでテリーさんと土屋圭市さんが車のあれこれを語る「テリー土屋のくるまの話」(第1・3・5日曜日/12:30~12:55)が放送中。YouTube公式チャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』も配信中。