【功労車のボヤき】ホンダ CR-Xデルソル「中途半端な存在感こそが、今となっては新鮮で貴重じゃおまへんか?」
2022/12/06
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、特殊なルーフ機構をもつの2シーターオープンスポーツのCR-Xデルソルが物申す!!
メキシコの覆面レスラーちゃうで
おいらの名は、デルソル。
メキシコの覆面レスラーちゃうで。
誰それ? やないわい。ホンダのCR-Xデルソル様や。
デルソル(delsol)とは、スペイン語で「太陽の」ちゅう意味や。その名のとおり太陽の日差しを浴びながら楽しく走れる、(当時としては)画期的なオープンルーフを採用した2シーターモデルやで。
CR-Xといえば、スペシャリティクーペとして走り好きな若者に人気を博した「バラードスポーツ」だろって?
それは1983年にデビューした初代のCR-Xやないか。
CR-Xといえば、リアエンドの「エクストラウインドウ」がオシャレだった「サイバー・スポーツ」だろって?
そうそう、MTのSiRには憧れましたな……。
って、おい! それは87年登場の2代目CR-Xやないかい。その次や、3代目や3代目!
その次は……。2010年に誕生したハイブリッド車のCR-Z?
な、なんでやねん。
「FFライトウエイトスポーツ」という新ジャンル
1992年に3代目として登場した、CR-Xデルソル様が忘れ去られるのも無理はない。たいして売れへんかったからな。
バブル景気が崩壊しつつあり、スペシャリティクーペの人気も冷めて、先代の2モデルとは時代背景が違ったんやな。
もちろん、社会や市場の変化はお見とおしやった。だからこそ3代目では、そのコンセプトを変えて大きくイメージチェンジを図ったわけや。
そもそもCR-Xは、シビックの兄弟車であるバラードの派生車種として、「FFライトウエイトスポーツ」という新ジャンルを切り開くべく投入されたモデルなんや。
シビックより150mmもホイールベースを切り詰め、リアをスパッと切り落とした独特のファストバッククーペのボディをまとった初代(バラードスポーツCR-X)は、その切れ味鋭いハンドリングで多くの走り屋を熱狂させたもんよ。
2代目は、車名からバラードが外され「ホンダ CR-X」になった。キャッチフレーズは「サイバー・スポーツ」。
時代は、まさにバブル景気の始まりや。初代のコンセプトを引き継ぎながら、デザインはより洗練されたものとなって、走り好きだけでなくオシャレな若者たちのハートも射止めたんや。
が、時代は変わりつつあった。
まさに時代が求める明るく楽しい車
1989年に登場して世界的な大ヒットとなった「ユーノス ロードスター」の影響も大きかったと、おいらは思うてる。
時代は、明るく楽しい車を求めるようになってたんやな。カッコいいファストバッククーペよりも、もっと気軽にドライブを楽しめる、文字どおりオープンな車を。
1991年に発売されたビートも人気を集めてたしな。
そやけど、ビートは軽自動車や。ほんなら普通車でも一発かましたろかいな、と考えたかどうかは知らんけど、ともかく新たに市場に投入されたのが、フルモデルチェンジした太陽のように明るい「CR-Xデルソル」だったちゅうわけや。
おいらの最大のセールスポイントは、「トランストップ」と名付けられた電動オープントップ。
先代でもサンルーフが外側に開く「アウタースライドサンルーフ」が人気やったけど、「トランストップ」は、スイッチ操作でスチール製のルーフごとトランクルームに格納することができたんや。
ようするに、今で言う電動オープントップのはしりやな。当時は画期的やったんやで(アルミ製のトップを手動で取り外す仕様もあった)。
快適なオープンドライブを手軽に楽しめて、さらにVTECエンジンで走りもOK。まさに、時代が求める明るく楽しい車、それがおいら、だったはずなのに……。
今こそ、まったく新しい車として
あぁ、それなのに……。デビューから5年後の1998年には生産中止や。5年間で、たったの1万5千台しか売れへんかった。
理由は、いろいろ考えられる。結局のところ、中途半端だったんやろな。
画期的なオープントップとはいえ完全なオープンカーとは呼べず、走りがいいとはいえトランストップのおかげで車重は100kg増し……。
硬派なスポーツモデルとしてのそれまでのイメージと、軟派なスペシャリティモデルとしての新たなイメージを上手く結びつけることができんかったのかもしれんな。
ここだけの話し、なによりも、おいらは「デルソル」というメキシコの覆面レスラーみたいな、ようわからんネーミングが良くなかったんやないかと思うてる。
いっそのことCR-Xの3代目ではなく、まったく新しい車種としてデビューさせてもろたらよかったのかもしれん。ユーノス ロードスターみたいに、単純明快なネーミングで。
しかし、やで。その中途半端な存在感こそが、今となっては新鮮で貴重じゃおまへんか? 何にも似ていない、まったく新しい車として。
170馬力のVTECエンジンを搭載した、オープントップのスポーツカー。重たくなったと言っても、車重は1000kgちょいしかない。しかも5MTだって選べまっせ。
誰それ? と言われる車なら、きっと他の人とかぶることもありまへんしな。
▼検索条件
ホンダ CR-Xデルソル×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。