【功労車のボヤき】なんなんだ? と訊かれたらこう言ってやれ! 「セルシオだよ、バカヤロー!」トヨタ セルシオ(初代)
2022/02/05
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、国産高級車として世界に一石を投じた初代トヨタ セルシオが物申す!!
驚くメルセデスの向こうでビーエムが腰を抜かした
時は1989年、冬……。
ニューヨーク・マンハッタンの流行りのナイトクラブの周りには、着飾ったセレブたちが乗り付けたメルセデスやらビーエムやら、ドイツ製の高級車がずらりと並んでいる。
その真ん中に、これまで誰も見たことのない端正なフィルムのセダンが静かに止まっていた。
その車から放たれるただならぬオーラに、思わずお洒落なセレブが振り返る。
となりの黒塗りのメルセデスが、けげんそうな顔をして訊いた。
「なんなんだ? お前」
すると、そのセダンは言ったのさ。
「レクサスだよ、バカヤロー!」
それは、世界の高級セダン市場を席巻し続けてきたドイツ勢に向かって、日本車が初めて切ってみせたたんかだった。
驚くメルセデスの向こうでは、ビーエムの7シリーズが腰を抜かしていたっけ。
こんな車を作るのは無理だ!
当時、なぜ、彼らがそんなに驚いたのかって?
かつての日本車は「丈夫さが取りえの、経済的な大衆車」にすぎなかった。つまり、いくら日本車が売れようと欧米の高級車メーカーにとっては、自分たちのブランドを脅かすような存在ではなかったわけさ。
だからこそ、欧米の高級車に匹敵するプレミアム感や走行性能に加え、日本車ならではの品質の高さと信頼性を兼ね備えたレクサスの登場は、伝統と威厳の上に君臨してきた旧来の高級車メーカーに衝撃を与え、そして彼らを慌てさせたんだ。
聞いた話によると、ヨーロッパの某自動車メーカーはレクサスの秘密を探るために、実車を入手してバラバラに解体してみたらしい。
そして、ため息をつきながら、こう言ったそうな……。
「こんな車を作るのは無理だ!」
なんとも痛快な話じゃないか。
新たな高級セダンの時代の幕開け
1989年1月にアメリカで鮮烈なデビューを果たした「レクサス LS」は、同じ年の10月に「セルシオ」という名で国内でも販売が開始された。
平成の時代の始まりに登場した初代セルシオ、つまりオレたちは、トヨタの、いや日本の高級セダンを代表するフラッグシップモデルとして一世を風靡した。
当時の日本は、まさにバブルの真っ只中。
オレたちは、455万円からという破格の価格(クラウンが200万円台で買えた時代)だったにもかかわらず売れに売れた。多くのバックオーダーを抱え、最盛期には納車まで2年待ちなんて言われたものさ。
ちなみに、今のトヨタ車のフロントグリルに輝く楕円のマークを最初に装着したのはセルシオなんだぜ。新しい年号とともに、俺たちはトヨタの新たな時代の幕開けを象徴してたってわけさ。
ちなみにライターの夢野某は、自分の愛車プロボックスのフロントマスクが、初代セルシオのDNAを引き継いでいると信じ自慢しているらしい(誰も気づいてくれないけれど)。
「なんなんだ? お前」と訊かれたら言ってやれ
あれから30年以上の時が流れて……。
2代目(1994年~)、3代目(2000年~)と受け継がれたセルシオの名は、トヨタの高級車ブランド「レクサス」の国内展開の始まりによって消滅してしまった。
名前は消えたけど、どっこい中古車になってもセルシオの人気は衰えない。カーセンサーnetで検索してみると、なんと300台以上もヒットするじゃないか!
が、しかし……。
在庫のほとんどは2代目、3代目で、初代となるとたったの20台……。(2022年1月現在)
たしかに3代目はより洗練された感じだし、逆に2代目は今となってはチョイ悪な雰囲気が好き者のハートをくすぐるのだろう。
が、しかし……と改めて言いたい!
30年前に世界中を驚かせ、それまでの高級車の価値観を大きく変えてみせたのは、オレら初代セルシオなんだぞ。
世界の車史に名を刻むのが名車なら、オレにはその資格があるはずさ。今なら、その名車が100万円以下で手に入る。しつこいようだけど、世界を驚愕させた高級セダンが、だぜ。
しかも、昨今はオレみたいな車を『ネオクラ』っていうんだろう? これは2代目にも3代目にもない、80年代後半生まれのオレならではの魅力ってわけだ。
信号待ちで、となりの兄ちゃんから「なんなんだ? お前」と訊かれたら言ってやれ。
「初代セルシオだよ、バカヤロー!」(浅草キッド風に)
▼検索条件
トヨタ セルシオ(初代)×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。