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■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

ポルシェの礎となる初のグランツーリスモ

——今回の名車ですが、松本さんが取り上げたいリストの最上位のモデルにしました。取材に行けるエリアで良いコンディションのものがなくて、ずっと見に行けなかったモデルです。

松本 コンディションを条件にすると、ある程度車種は絞られるね。取り上げたいモデルって、早く撮影しておかないとどんどん中古車市場から消えていくからね。

——そうなんですよね。過去に撮影した車で、もう市場にまったく流通していないものとか、とんでもなく価値が上がってしまったものとかがありますからね……。

松本 で、車は何にしたの?

——ポルシェ 928にしました。この車両です。

松本 いいじゃない。程度も良いし。

——911っぽくないから当時は不人気だったそうですが、今こうして見るとカッコイイですよね。

松本 このデザインってかなり独特だと思うんだよね。さすがポルシェって感じで、個人的に好きだったなぁ。発売当時のボクはまだ小学生だったんだけど、1/24のプラモデルを買ってもらって組み立てて満足した後に、0~10mの競技用に改造して遊んでたよ(笑)。

——その当時からそんなことしてたんですね……。では、まず登場背景から教えてください。

 

ポルシェ 928 S4
ポルシェ 928 S4

松本 当時、ポルシェのメイン車種は911だったんだけど、厳しい排出ガス規制の中でビジネスをするのに、空冷6気筒の先行きは不安だったんだ。そこで、1960年代の後半から、ポルシェは様々なアプローチを考えていたんだ。その答えのひとつが、生粋のスポーツカーメーカーが作った初のグランツーリスモである、この928だったわけだね。

——かなり思い切ったプロジェクトだったんですよね?

松本 そうだね。多様化する未来に向けて、ポルシェが導き出した答えだったんだよ。見方によっては、現在のポルシェの礎と言ってもいいと思うんだ。パナメーラやタイカンのようなモデルは、928というモデルが存在したからこそ出来上がったと思うんだよ。

——なるほど。でも、そもそもなんですけど、911や928を作っている時代ってポルシェは4ドアモデルの予定はなかったんですかね?

松本 そんなことはないよ。昔の写真で見たんだけど、1960年代後半には911の後方を広くしたプロトタイプがあったからね。あれは4ドア化を睨んだものだったんじゃないかと思うね。それと、これは今だから話せる話なんだけど、日本のとある自動車メーカーのデザイナーたちとプライベートで話をしていて、僕が「928にも5ドアがあると良かったのにねぇ」なんて言っていたら、一人の欧州の若者が「子供の時に数回乗ったことあるよ」っていきなり話し出したんだよ。

——え? どこかの富豪のご子息とかですか?

松本 それがビックリ。ミドルネームで呼ばれていたからわからなかったんだけど、後から本人に確認したらポルシェ家の人だったんだよ。

——またまたすごいことを温めてましたね……。

松本 だからパナメーラーの構想自体はずっと前からあったということになるよね。

ポルシェ 928 S4

——なるほど。928についてもっと教えてください。例えば意識したベンチマークとかはあったんですかね?

松本 そりゃあったと思うよ。当時としては最新のオールアルミ合金によるV型8気筒SOHCで4.7Lのユニットをフロントに搭載するなど、北米市場を意識していた雰囲気が当時からプンプンしていたよ。そして1978年の「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したんだよ。スポーツカーとしては今でも珍しいんじゃないかな。

——928って当時、GTではなくスポーツカーというカテゴリーだったんですか?

松本 そう。それも驚きだよね。928ってデザインがとても変わっているでしょ? このデザインはトニー・ラピーヌというデザイナーなんだけど、ポルシェに移る前はゼネラルモーターズで活躍していた人でね。C2コルベットのデザインエンジニアも務めた人だったんだ。

——めちゃくちゃすごい人じゃないですか……。

松本 そのキャリアもポルシェにとっては魅力的だったのかもしれないね。なんたってアメリカの象徴的なスポーツカーのデザインからエンジニアまでと、守備範囲が広いデザイナーだったからね。しかも運転技術もテストドライバー並みで一流だったそうなんだよ。928で披露された伝説のサスペンション「ヴァイザッハアクスル」の開発やテストにも携ったに違いないね。

——いろいろ知ると928ってすごい車なんですねぇ。

松本 さらに言うと、このトニー・ラピーヌ氏はポルシェのル・マンカーである917/20、通称「ピンク・ピッグ」も手掛けているんだよ。2018年のル・マンに919RSRがピンク・ピッグのラッピングで出場していたんだけど覚えてる?

——覚えてます。そうか、あの元を作った人なんですね。

松本 それだけ芸術性があるデザイナーだったということだね。他にもポルシェ好きなら知っていると思うけど、タルガフローリオに出場した908のショートホイールベース仕様があってね。矢印を入れたガルフカラーが何ともカッコイイんだ。ほんと、この人が携ったレーシングカーは有名すぎて、ただただ驚くね。車のテストもできるデザイナーで、設計も可能なわけだから。

——これは間違いなく名車ですし、928って価値が上がるんだろうなぁ。

松本 飛び切りのエンジニアが手掛けてるんだから、価値がないわけないんだよ。歴史に残る作品を手掛けた人が作ったモデルは、ポルシェの付加価値を向上させたんじゃないかな。何かしらの際立ったヒストリーがあるモデルは、詳細を知れば知るほど本当の価値が理解できるものだからね。

ポルシェ 928 S4

フロントにV8エンジンを搭載した、2+2シーターのラグジュアリーGTモデル。RRではなくFRとされ、重量配分最適化のためトランスアクスルレイアウトが採用されている。18年間生産された長寿モデルで、V8エンジンも4.5L SOHCから4.7Lに、そして5L DOHC、最終的には5.4Lへと進化している。

 

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ポルシェ 928×全国
ポルシェ 928 S4
ポルシェ 928 S4

※カーセンサーEDGE 2021年12月号(2021年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏