【功労車のボヤき】かつてのパイクカーや今どきのミニバンにはない際立つ個性! あぁ、それなのに……。クライスラー PTクルーザー
カテゴリー: クルマ
タグ: クライスラー / PTクルーザーカブリオ / PTクルーザー / EDGEが効いている / 功労車のボヤき / 夢野忠則 / c!
2021/08/29
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、レトロな見た目が特徴的な、クライスラー PTクルーザーが物申す!!
街中を走れば、人が手を挙げる!
オレの名は、PTクルーザー……。
デビューして20年が過ぎたが、どうやら最近、オレの人気が高まっているらしい。
その証拠に、街中を走っていると人が立ち止まって手を挙げてくる……。
って、JPN TAXI(ジャパンタクシー)と間違えてるだけかぁ~い!
トホホ……。
2000年にアメリカでデビューしたオレは、翌年には日本でも販売され、古き良き50年代を思い出させるレトロな風貌と、アメ車にしては小ぶりなサイズで注目されたもんさ。
好調な売れ行きの勢いに乗って、ターボ搭載のGTやカブリオも登場。カスタムベースとしても人気を集めた。なんと、全世界で130万台以上も売れたんだぜ(2010年生産終了)。
なのに、一時期はあんなに見かけたオレの仲間たちとも、今じゃほとんど道ですれ違うことはない。たまに、オッ! と振り返れば濃紺のJPN TAXI……。
って、自分で間違えてどうする……。
1930年代の名車を現代風にアレンジ
当時、なぜオレらがウケたのか?
話は80年代後半、日本のバブル景気とともに登場したパイクカーにまでさかのぼる。ちなみにパイクカーとは、外観や内装がレトロモダンなスタイルに仕上げられた、デザイン優先のお洒落でカワイイ車たちのこと。
1987年に、日産から初代マーチをベースにしたBe-1が登場すると、そのユニークなスタイリングがウケて予約が殺到。続けてパオ、フィガロと、同様のコンセプトをもつ個性的な車が続々と登場し、パイクカーブームが起こったのさ。
日本のパイクカーはバブル崩壊とともに姿を消していったけど、今度は世界の名だたる自動車メーカーが、こぞって“どこか懐かしい新型車”を登場させたんだ。
ビートル、ミニ、フィアット 500……。見た目はレトロっぽいけど、メカニズムは最新という「昔の名前で出ています」的な車が大人気。そんなリバイバルブームの中で登場したのが、オレだったわけさ。とはいえ、コトはそんなにカンタンじゃなかった。
クライスラーには難題があったんだ。
リバイバルさせようにも、ビートルやミニのような「復活させれば人気を集めるに違いない車」が見当たらない。ならばいっそ、と、クライスラーは1930年代の名車「エアフロー」のデザインを現代風にアレンジ。そして誕生したのがオレ、PTクルーザーなのさ。
30年代のスタイリングをモチーフにしたおかげで、他メーカーのどの車にも似ていない、よりクラシカルで個性的なアメ車が出来上がったってわけ。
丸っぽくてカワイイ車が増えていた中で、この“ちょい悪”な顔つきも、当時の流行にはまったのかもしれないな。
その名のとおりの小さなクルーザー
オレたちが売れた理由は、個性的な見た目だけじゃないんだぜ。
パイクカー的に見えながら、じつは5ドアハッチバックの実用的な車でもあった……って、過去形で話してる自分が情けないけど。
まず、着座位置が高いから視界がよくて運転がしやすい。リアシートだって広くて居住性がいい。
しかも、様々なシートアレンジ(組み合わせは26通り!)でミニバンのように便利に使える。新しいビートルやミニよりも、はるかに使い勝手はよかった。
実用的で、個性的。さらに、新車時価格が230万円から(初代ベーシックグレード)とくれば、売れないわけがないだろう? 本革シートのリミテッドも人気だったな。
もちろん、スポーツセダンのようなキビキビとした走りは期待しないでいただきたい。身なりは小さくても、生まれはアメリカ。アメ車らしい低回転域の太いトルクを体感しながら、のんびりとクルージングを楽しむ……。
そう、まさにオレは、その名のとおりの小さなクルーザーなのだ。
際立つ個性が、今こそストリートで輝きを放つ!
そんなオレたちも、今じゃカーセンサーEDGEnetでヒットするのはカブリオと合わせて、わずか70台……(2021年8月現在)。
ニュービートルやニューミニは中古車になっても人気だし、パオやらフィガロといった当時の国産パイクカーにいたっては、なんとプレミア価格がつくほどの大人気らしいじゃないか。
実用性を考えれば、ミニにだってパオにだって負けないはずだ。
あぁ、それなのに…… いったい、なぜ?
いくら名車をモチーフにしたとはいえ、1930年代までさかのぼったのは飛びすぎだったか。デザインが個性的すぎたぶん、たぶん飽きられるのが早かったのかもしれない。
自慢の実用性も、最強のライバルである国産ミニバンには及ばず…… パイクカー的でありミニバン的ではあるけれど、そのどっちつかずの中途半端さが原因なのか?
もしも、もう少しだけ顔つきを柔らかくして、さらに実用性を高めていたら、今でも街中で人が手を挙げてくれたことだろう……。
って、結局、JPN TAXIかぁ~い!
いやいや、そんなことはない。
今すぐ、カーセンサーEDGEnetで検索してみてもらいたい。
このスタイリング、この顔つき、この装備にして、この中古車価格!
かつてのパイクカーにはない、今どきのミニバンにもない、PTクルーザーの際立つ個性は今こそストリートで輝きを放つはずさ。
ゆったりとクルージングを楽しみながら、開け放った窓から道行く人に手を振れば、みんな思わず立ち止まるに違いない。
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クライスラー PTクルーザー(初代)×全国▼検索条件
クライスラー PTクルーザーカブリオ(初代)×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。