Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲5000台以上の車両が展示・販売されるイタリア・ボローニャの一大クラシックカーイベント「Auto e moto d'epoca Fiera Bologna」。スポンサー含め、新車がほぼ皆無という潔さだ。今年も希少なパーツやクラシックカーを求める人々が世界中から集まった

スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きにとって興味深いエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。今回はイタリアの一大クラシックカーイベントを取材。自動車メーカーがクラシックカー市場を盛り上げることで“未来の顧客を獲得する”という文化の一端に触れた。
 

展示車両は5000台以上! 世界中からファンが集う一大イベント

ボローニャの巨大なフィエラ(見本市展示場)がクラシックカーで溢れた。「Auto e moto d'epoca Fiera Bologna」と称した大イベントが、10月24~27日にかけて大規模な展示場すべてを占有して開催されたのだ。14のパビリオンに23万5000平方mの展示スペースという広大さだ。

このイベントは歴史あるパドヴァのクラシックカーイベントに由来するもので、昨年より利便性が高いボローニャへと移った。これまでのパドヴァ開催のショーも、稀少なパーツやクラシックカーを求めて、世界中からファンを集めていたのだが、このボローニャになってさらに集客力を高めている。

開場する午前9時、駐車場へ向かう車、入場を待つ人々、それぞれの長蛇の列に筆者は圧倒された。これは黄金期のモーターショーさながらの風景ではないか。「ここはわくわくしてニューモデルを見に来たボローニャ・モーターショーの会場でもあったから、こうやって入場を待つのも何か懐かしい感じがするんだ」とある年齢層にとっては、今はなきモーターショーへのノスタルジーもあるようだ。
 

Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲車両だけでなく、パーツやグッズなども大量に販売される

会場は車やバイク、パーツなど4つのカテゴリーに分かれるが、まあその内容の濃さには驚く。わからない人が見れば“ゴミの山”のようなパーツにマニアが群がっているし、クラシックカー販売スタンドでは熱心に商談が行われる。展示車両は5000台を超える。イタリア各地で開催されるクラシックカーイベント常連業者に加えて、ヨーロッパ各国からの参加があるのもここボローニャの特徴。そして重要なことは、ニューモデルの存在感が限りなくゼロという点だ。この手のクラシックカーイベントでは、スポンサーとして各メーカーが現行車種を並べる場合が多いが、ここボローニャではそれを排している。クラシックカーイベントとして極めて潔いのだ。

そして連日のように特別なショーが行われる。筆者も会場へ入り、アポイントへ向かって疾走しているとき、ぶつかったのがマエストロ、ジョルジェット・ジウジアーロだった。「何をそんなに急いでいる」とマエストロ(笑)。実ははもっと急いでいるのはマエストロの方であった。50周年を迎える、ゴルフの8世代にわたる展示に関するトークショーの会場へと急いでいたのだった。
 

Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲トークショーに参加するため来場していた“マエストロ”ジョルジェット・ジウジアーロ

MT車(マニュアルモデル)がトレンドに

もちろん、スーパーカーには熱い視線が注がれる。「L'Arte del V12(V12の芸術)」という特設スタンドにはマセラティ MC12やブガッティ EB110などが並び、開発担当者たちが熱弁をふるっていた。ランボルギーニのスタンドではランボルギーニ ミウラのレストレーション中の個体が展示され、なかなか見ることのできないベアシャシーを観察することもできた。さらに幻のマセラティ アルフィエーリ(コンセプトモデル)が2014年のデビュー時以来、久方ぶりに一般公開されたのも、興味深い。
 

Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲マセラティ100周年を記念したコンセプトモデル「アルフィエリ」
Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲ランボルギーのスタンドにはレストレーション中のミウラが展示されていた

このところ少しブームに陰りが見えていたクラシックカーの売買であるが、会場内では大手販売業者が大規模なスタンドを構える。当地の「Ruote da Sogno」は大きなパビリオン一棟の大半を占有し、なんと140台もの展示を行った。概して、販売は好調であり、いわゆるヤングタイマーと称される1990年代以降のフェラーリ、マセラティ、ランボルギーニなどに熱い視線が集まる。結構なプライスにも関わらず売却済みのステッカーが貼られていたし、何よりレアな仕様の個体だったりする。

そんなトレンドのひとつが“Cambio Manuale”、つまりMT(マニュアルシフト)人気だ。2000年初頭より、多くのスポーツカーのMT仕様が消え始め、現在ではほとんどが2ペダルだ。ところが、自らの意志で車をコントロールすることのできるMTへの憧れが、その魅力を知る“旧世代”だけでなく、若い世代にも強くなっているのだ。そんなCambio Manualeファンの動向によっても、マーケットの需要は左右される。例えば、フェラーリのラインナップではこれまであまり動きがなかった550マラネロが、最近では大人気だ。後継モデルの575Mマラネロはほとんどが2ペダルのF1仕様となったのに対して、550マラネロはすべてMTであるからだ。
 

Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲140台もの展示を行った地元の「Ruote da Sogno」

イタリアには自動車文化が根付いているから……、という紋切り型の結びとしたくない。

しかし、このイベントを見てもわかるように関連業界が一体となってクラシックカー・マーケットを盛り上げている。ブランドの歴史にスポットライトを当て発信を続けていくことが、未来の顧客を生み出し、ひいてはニューモデルのセールスに繋がることを彼らは昔から身をもって理解しているのだ。
 

Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲2024年に125周年を迎えたフィアットも、往年の名車を展示した
Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲様々なオーナーズクラブも参加。こちらはアルファロメオ アルファスッドのスタンド
Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲屋外にもクラシックカーが並べられていた
Auto e moto d'epoca Fiera Bologna▲「L'Arte del V12(V12の芸術)」の特設スタンドには、マセラティ MC12ベルシオネ コルセ(写真)をはじめ数多くの12気筒モデルが展示された
文=越湖信一、写真=越湖信一
越湖信一

自動車ジャーナリスト

越湖信一

年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。