今年はマセラティ三昧!? 世界最大規模の自動車の祭典「モントレーカーウイーク」
カテゴリー: トレンド
タグ: マセラティ / MC20 / EDGEが効いている / 越湖信一
2024/09/07

メモリアルイヤーを飾った珠玉の新旧マセラティたち
アメリカ西海岸で開催された今年のモントレーカーウイークは、まさにマセラティ三昧であった。それもそのはず、今年はマセラティ創立110周年のメモリアルイヤーなのだ。マセラティにとって北米は歴代最重要マーケット。1957年にデビューを飾った大型GTである3500GTの北米における大ヒットが、重要なマイルストーンであったのだ。だから、マセラティにとってこの世界最大規模となる自動車の祭典に力が入るのも当然なのだ。

さて、今回最大のトピックはGT2ストラダーレのワールドプレミアだ。GT2ストラダーレは、フラッグシップのMC20とFIA GT2を戦うコンペティションモデルであるGT2(サーキット専用)の中間に位置するモデルだ。つまり、“快適にツーリングを楽しみつつ、サーキットでも高い戦闘力を持つ”というマセラティの重要なDNAを継承するモデルである。先代グラントゥーリズモ MCストラダーレを思い出していただきたい。ロールケージの組まれた硬派な2シーターモデルでありながら、日常使用も可能というマルチパーパス・モデルであった。
GT2ストラダーレのスタイリングはなかなかアグレッシブだ。“シャークノーズ”と呼ばれたシャープなイメージのフロントグリルとバンパー、大型リアディフューザー、GT2譲りの新形状ボンネットに注目したい。フロントフェンダー上部にはエアアウトレットが設けられ、リアフェンダーのエアインテークも大型化され、空力特性の最適化とエンジンクーリングに抜かりはない。リアエンドは大型のCFRP製スポイラー、さらにはGT2モデルにインスパイアされたアジャスタブル・リアウイングによる空力チューニングで、280km/hにおけるダウンフォースはMC20の3倍を超えるとされている。
キャビン内もアルカンターラとマット仕上げで統一化されており、CFRPセンターモノコックも意図的に露出させ、レーシーなイメージを高めている。センターコンソールは軽量化のために小型化され、サベルトとのコラボレーションによるCFRP製ダブルシェルシートが採用される。
パフォーマンスの点でも相当に硬派だ。ネットゥーノ・エンジンは最高出力640psへとパワーアップ。マセラティとして、“サーキット以外でも使用可能な最もパワフルなICE搭載モデル”であるという。足回りはGT2に準ずるもので、ブレーキシステムはブレンボとのコラボレーションで専用に開発されている。
今回展示された個体は基本的にプロダクションモデルと同等で、デリバリーも2025年前半とされている。激戦区であるハイパフォーマンスカーマーケットに少なからぬインパクトを与えることになるであろう。


ローンチ会場となった「ザ・クエイル・ア・モータースポーツ・ギャザリング」には、昨年の同イベントでワールドプレミアを飾ったサーキット専用限定モデル、MCXtrema(エムシー エクストレーマ)、MC12をほうふつさせるリヴァリーをまとったMC20イコーナと称す限定モデル(世界限定20台)も並んだ。
MCXtremaは限定62台のハイパフォーマンスモデルであり、V6ネットゥーノ・エンジンは新しいターボチャージャーの採用で740ps にパワーアップされている。6速シーケンシャルギアボックス、カーボンセラミックブレーキシステムが装着され、レース用にチューニングされたサスペンション、スリックタイヤ、そしてFIA 公認の安全装備などが備えられているもの。
今回展示された個体は顧客へのデリバリー第1号車だ。この幸運なオーナーは生粋のマセラティスタであり、歴代マセラティをコレクションするエンスージアストだ。このオーナー、ガブリエーレに第1号車を渡すべく、コークスクリューで有名なラグナセカ・スピードウェイにてマセラティ・コルセが土曜日にスタンドを構えた。MC12で世界を制覇したMC20の開発ドライバーであるアンドレア・ベルトリーニにより第1号車のシェイクダウンが行われた。インパクトあるスタイルとカラーリングを備えるMCXtremaの熱い走りは、北米のレースマニアたちにマセラティの存在感を大きくアピールしたのは間違いない。


一方、高級別荘地が並ぶペブルビーチ内陸にあるデルモンテ・フォレストのヴィラには、限られた顧客だけが訪問を許される「マセラティ・ハウス」がカーウイークの期間中オープンした。
エントランスではMC12が出迎えてくれ、アンドレア・ベルトリーニやマセラティ・コルセのトップであるジョバンニ・スグロらとの会話も弾む。ハウス内ではモデナ料理や、マセラティ各モデルのネーミングのカクテルなどを楽しむことができる。グラントゥーリズモ、グランカブリオ、グレカーレのフォルゴーレ(BEV)、MC20 トリブート・モデナなどが並べられただけでなく、ペブルビーチを現行モデルでテストドライブという楽しいプログラムも用意されていた。

モントレーカーウイーク最終日は、そのハイライトたるペブルビーチ コンクールデレガンスが開催された。この世界最高峰のクラシックカー・コンクールデレガンスには、ブランド創立110周年を記念して27台もの珠玉のクラシック・マセラティが集結した。加えてニューモデルやコンセプトカー発表のカテゴリーである“コンセプト・ローン”ではGT2ストラダーレが引き続き展示された。
「マセラティ・ロードカー」カテゴリーではフルアやザガート製のA6G系、そしてレアなピニンファリーナボディのA6G 2000から、スカリオーネによる3500GTベルトーネなど希少な少量生産モデルが並んだ。「マセラティ・レースカー」カテゴリーでは1938年式8CTFを皮切りにA6GCSから450S、そしてTipo61バードケージと、まさにヒストリーブックのような素敵なラインナップであった。そして、最後は「フルアボディのマセラティ」カテゴリーだ。A6GCSフルアスパイダーから、ミストラルなどが並んだ他、非常にレアなフルア製メキシコ(ワンオフモデル)も見ることができた。ウイナーは、ロードカーが A6G/54 2000ザガートスパイダー、レースカーが300S、そしてフルアボディがA6G 2000フルアスパイダーであった。他にも素晴らしい名車の数々を見ることができるので、オフィシャルサイトでじっくりと楽しんでいただきたい。


今回、記した以外にもコンコルソイタリアーノ、いくつかのメジャーオークションをはじめ、多くのコンテンツが8月9~18日のモントレーカーウイーク中に開催された。そして、そのどこでもびっくりするほど多くのマセラティに出合う。北米の自動車文化の奥深さを実感する瞬間だ。
次なるマセラティ創立記念のメモリアルイヤーは120周年の2034年だろうか。マセラティは2030年の完全電動化を宣言しているが、果たしてどうなっているのであろうか?






自動車ジャーナリスト
越湖信一
年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。