ランボルギーニ ウルスSE▲2024年5月に日本でお披露目された、ウルス初のPHEV(プラグインハイブリッド)モデルとなる「ウルスSE」

スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きにとって興味深いエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。今回は、ほぼすべてのスーパーカーブランドからも出そろったSUVモデル、中でもランボルギーニ ウルスの躍進ぶりに注目。新たなウルスSEの開発担当であるステファノ・コサルター氏に、他ブランドとは異なる独自の方向性について聞いた。
 

SUVブームのスーパーカーブランドがカテゴリーにこだわる理由

スーパーカー界においてもSUVブームは根強い。すでにモデナ地区の主要メーカーをはじめとして、SUVのラインナップはほぼ出そろったといってもよいであろう。特に「4ドアモデルはフェラーリではない」と長年主張してきたマラネッロまでもがついにマーケットへ送り込んできたのだから。

もっとも、各ブランドは「いやいやうちは“スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル”ではないので誤解することはないように! 」とアナウンスするのも忘れてはいない。だから私達も注意して“4ドア4シーター”やら、“ラグジュアリー スーパーSUV”などと書いているワケだ。

なぜ彼らがカテゴリーにこだわるのか? それはブランドとして希少性、特化した動力性能などをうたうにあたってSUVの多目的とか実用性といったキーワードはもろ刃の剣となるからである。これら究極のスーパーカーは実用性が高く、使い勝手が良かったとしても、それは殊更アピールしないのがお約束。だから、あえて車高を低くしたり、スペース効率の悪いレイアウトを採用したり、リアドアハンドルを隠したりする。

フェラーリ プロサングエのローンチにおいては「フェラーリ家のピエロ・フェラーリが誰よりもSUV(おっと4ドア4シーター)を欲したのです」と理論武装し、ウルスでは「わが社にはLMシリーズというSUV(おっとラグジュアリー スーパーSUV)のDNAが存在した由緒あるブランドです」と、それぞれその正当性の証しとした。その点、マセラティにはそもそもクアトロポルテという4ドアのアイコンがすでに存在していたからハナシは簡単であったが。

中でも、ランボルギーニ ウルスの躍進ぶりはなかなかのものである。ランボルギーニ自体が年間販売台数で過去最高の1万112台を記録した中で、ウルスはその6割となる6087台を売ったというからその存在感は大きい。筆者は先日、アッセンブリーラインの取材を行ったが、ウルスだけでコンスタントに日産30台をクリアしていると彼らは胸を張っていた。たしかに専用アッセンブリーラインも、この6年間で大きくアップデートされている。手作業とロボットが効率的に組み合わされており、フォルクスワーゲン グループとしての効率的なコンポーネント供給も、品質向上に大きく寄与していると考えられる。
 

ランボルギーニ ウルスSE▲床下に25.9kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。エクステリアはバンパーやグリル、ボンネットなどのデザインを変更している

さて、今回注目するのは発表されたばかりのランボルギーニ ウルスSE。2018年に登場したウルスだが、同社のサステナビリティへの対応プランである“コル・タウリ”に従ってついにPHEV化された。システム総合最高出力800ps/最大トルク950N・mというウルスファミリー最高のパフォーマンスを誇り、EVモードでも60kmの走行距離を可能とする。25.9kWhというバッテリー容量はBEVのフィアット 500eに等しいレベル。さらに環境への配慮という点で、CO2削減に関しても80%という大幅な削減を達成したという。

スタイリングもアップデートされた。レヴエルトからの新たなモチーフが各所に導入されるとともに、ディテールがシンプルかつ落ち着いたものとなっている。リアハッチのリスタイリングも同様である。これはなかなか良い。
 

ステファノ・コサルター▲ウルスSEの開発担当である、ステファノ・コサルター氏

今回はウルスSEの開発担当である、ステファノ・コサルターから話を聞いた。ちなみに彼は2004年のガヤルドを皮切りにアヴェンタドール、ウルスのプロジェクトマネージャーも務めた開発セクションの重鎮である。

「私たちにとって、この車のテーマは非常に明確です。なによりランボルギーニはスポーツカーメーカーですから最高のパフォーマンスを追求しました。それは単にスペックだけでなく、レーストラックにおける“エモーショナルな走り”にもこだわっています。それがなければランボルギーニではありませんから」と、最初からなかなか飛ばすステファノだ。

そしてそれと同時に車全体をさらにフレキシブルに操ることができるように仕上げたという。つまりゼロから2500rpmという加速時のファーストトルクがモーターによってとても強力になるから、デイリーユースの快適性も増す。フラッグシップのレヴエルトとはシステム構成は異なるが、電動化に関するソフトウエア開発のノウハウの多くをこのウルスSEとも共用しているという。

「エンジンも新しいターボチャージャーの導入など多くの点で改良が加えられましたが、新たなセンターディフェレンシャルを採用したドライブトレインの刷新に注目して頂きたい。また、これはどんなに似たようなハードウェアを導入しようとも、そのソフトウエア制御がしっかりしていなければ全く用を足しません。ウラカンやレヴエルトで培った多くの経験をもとに、私たちはより洗練されたトルクベクタリングシステムを導入しました」と、ウルスSEはサーキット走行でも十分にその本領を発揮するという自信を彼は語った。

ウルスがランボルギーニの年間販売台数の60%を占めるという現状が、ブランドの希少性を損なわないか、という筆者の質問に関しても、彼は自信をもった答えを用意してくれた。

「問題なのは市場のニーズとのバランスなのです。ですから私たちは“バックオーダー(受注残)”の状況を日々確認しています。さらにもうひとつはウルスのもつマーケットの多様性です。ウルスには『テッラ=オフロード』と『サッビア=砂漠』というドライブモードがあるのをご存じでしょう。オフロードはもちろん、砂漠においてこの車ほど本格的な走行テストを行って細かなチューニングを行ったモデルはないと自負しています。つまり、ファッションとしてだけでなく、本質的な広いニーズにも応えている点がライバルとは大きく違っているのです」

筆者が某ライバルメーカーのモデルをほのめかしたところ、ますます彼は熱く語ってくれたのだった。

結論として、ウルスSEがランボルギーニならではのラグジュアリー スーパーSUVとして独自の方向性をしっかりと目指していることがよく理解できた。PHEV化によってとんでもなくパワフルかつ、極上のドライビングプレジャーを体験できることは間違いないようだ。さらにラゲージスペースは全く(アンダーフロアのトレイなどはわずかに減少)影響を受けないし、環境にも優しい。ウルスSEの登場は、このカテゴリーのアベレージレベルを大きく持ち上げることになるようだ。
 

ランボルギーニ ウルスSE▲新型スポイラーなどによってリアのダウンフォースはSの35%増しを達成。リアゲートもガヤルドから着想を得たという一体型デザインに変更された
ランボルギーニ ウルスSE▲インテリアにはレヴエルトにも採用された最新ブランドデザインを取り入れている
ランボルギーニ ウルスSE▲最高出力620ps/最大トルク800N・mの4L V8ツインターボエンジンに、8速ATに組み込まれた192ps/483N・mのモーターを組み合わせることで、システム総合800ps/950N・mを発生する

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ランボルギーニ ウルス× 全国
フェラーリ プロサングエ▲2022年に登場した、フェラーリ初の“4ドア・4シーターモデル”となるプロサングエ。最高出力725ps/最大トルク716N・mを発揮する6.5L V12自然吸気エンジンを搭載する
マセラティ レヴァンテ▲2016年に登場したマセラティ初のSUV「レヴァンテ」。ギブリのプラットフォームをベースに開発、マイルドハイブリッドモデルやハイパフォーマンスモデルのトロフェオなどがラインナップされてきた

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マセラティ レヴァンテ× 全国
文=越湖信一、写真=アウトモビリ・ランボルギーニ・ジャパン、フェラーリ・ジャパン、マセラティ ジャパン
越湖信一

自動車ジャーナリスト

越湖信一

年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。