【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】カーセンサー中古車購入実態調査2020について(後編)
カテゴリー: トレンド
タグ: クルマを選び始めた人向け / 購入手続き / 時事放談 / 選び方 / フェルディナント・ヤマグチ / 編集部 西村泰宏
2021/08/20
みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。
リクルート自動車総研が行った「カーセンサー中古車購入実態調査2020」の若者のクルマに対する意識について、驚愕の調査結果が出ています。要するに世間で言われている「若者のクルマ離れ」なるものは間違いであるということです。
自分で起業してソコソコもうけている私の息子は、カネも免許も持っているのにクルマを持とうとしません。それどころか、「レンタカーやカーシェアリングがあるのになんで高いお金を出してクルマを買うの。意味がわからん」と言い出す始末。物の本質がわからないバカ息子です。完全に教育を誤りました。
いわゆる“若者のクルマ離れ”を象徴するような話ですが、カーセンサーの調査によると若者の中古車購入割合は増加傾向にあるというのです。
自動車メーカーも自動車媒体も半ば諦めた口調で「若者はクルマに興味がないから……」と話しますが、データが本当なら話は変わってきます。
早速データを見ながら、西村編集長と話をしていきましょう。
若者は全然クルマから離れてなんかいないよ!
前編、中編と話をしてきた「カーセンサー中古車購入実態調査2020」ですが、最後は「若者のクルマ離れは本当か?」というテーマでお話をしていただきたいと思います。
これまで話をしてきた中で、もっとも興味深いテーマです。若者のクルマ離れというのはもう何十年も言われ続けていて、自動車メーカーもそれを前提に新型車を開発している節があるくらいです。もし間違っているのなら、自動車業界に激震が走りますよ。
お話に入る前にまずは、以下のデータを見てもらってもいいですか?
少子高齢化による逆ピラミッドで20代の人口は1460万人と他の世代に比べてかなり少ないのですが、我々の調査では延べで購入している中古車の台数が58.1万台と、他の世代よりかなり高いんですよ。
あらまあ、本当だ!
だから、僕らカーセンサーの人間が見ている景色は「若者は全然クルマから離れてなんかいないよ!」なんです。
中古車においてはね。
新車を絶対的なものというふうに捉えると「若者はクルマ離れしているよね」と語られてしまいますが、人口が減っている中でこれだけの台数を若い人が買っていることを考えると、中古車マーケットでは若者がエースですよ。
表の右側にある「1万人あたり購入台数」を見るととんでもないことになっていますね。
そうなんです。20代は60代の1.5倍以上クルマを買っています。これのどこがクルマ離れなのかと。
これはすごいデータですよ。全国比と比較すると1.28倍も!
メーカーの方とお話しすると、いかにディーラーに来店される方の平均年齢が上がっているかという話になります。例えば、トヨタ カローラは新車購入者の平均年齢が70歳近いという話もありますよね。
真面目な話、免許の返納も考える年齢ですよ。
ディーラーに来店して新車を買う。これまで当たり前だった視点だけ見ると、“若者のクルマ離れ”が常態化しています。でも、別の視点で見てみると、彼らは決してクルマから離れていないことがわかります。
ちなみに、昨年のデータと比較するとどんな感じですか?
実はほとんどの世代が昨年よりも購入台数が減っています。その中で唯一20代だけが昨年より伸びているんです。
本当ですか!! 若者にはコロナ禍なんて関係ない?
もちろんその中には、もともとクルマを持っていた年配の方はコロナ禍でクルマ購入を見送ったとか、若者よりも重症化しやすいから外に出るのをためらったとか、様々な要因が絡んでいると考えます。
逆に20代は今まで電車で遊びに行けたのが難しくなったので、クルマで遊びに行くようになったというのもあるかもしれないということか。
もちろん、それもあると思います。ただ、僕が自信を持って言えるのは、「若者はちっともクルマから離れたりしていませんよ」ということです。
実は20代のほうがクルマにお金をかけていた!?
本企画の第1回目は近畿大学の学生に話を聞きました。彼らも決してクルマに興味がないというわけではなかった。むしろ、なんだかんだで楽しんでいました。
メカ的な知識を持っているわけではありませんが、普通に中古車と付き合っていましたよね。
その付き合い方は大きく2つあって、ひとつはクルマを使ってどこに行くか。クルマでサッカーに行くのか、キャンプに行くのか、サーフィンに行くのか。クルマが人生を楽しむための“手段”と考えている人ですね。もうひとつはドライブ自体、クルマそのものを楽しむという人。
クルマが“目的”の人ですね。
最近流行りの車中泊を楽しむ人は、クルマ自体を楽しむ人に入れてもいいのかな。
いいと思いますよ。
コロナ禍ではある種の“危機意識”でクルマを買っている人が多かったと思います。公共交通機関に乗るのが怖い、大勢でクルマに乗るのが怖いという話ですね。20代にはそのような傾向はなかったのですか?
ここでもう一度最初に示したデータを見てもらえますか? 注目してほしいのは「中古車購入単価」です。
確認しました。30代が最も単価が高いですが、そこをピークに年齢を重ねるごとに単価は下がっていきますね。20代は40代とほぼ変わらない単価だ。
30代はお子さんが生まれてミニバンやSUVなど大きなクルマが必要になり、単価が上がっていることが推測できます。それを考えると20代の単価はかなり高いですよね。
本当ですね。50代、60代より20万円以上も単価が高い。これは相当な差ですよ。
これはデータから読み解いた僕の想像になりますが、50代、60代の方はいわゆる多くの人がイメージする中古車の買い方をしている人が多いと思います。
「中古車なら100万円くらいで買えるでしょう」という見方をしている人ですね。
でも、若い人たちは前編でお話しした、「中古車で程度のいいものを安く買う方がスマート」と考える層が増えているのではないかと思います。
取材で20代の人に会うと、高年式で走行距離も少ない現行型を中古車で買っている人が意外と多いんですよ。
そっちの方が新車よりワンランクもツーランクも上のクルマが手に入りますからね。
先ほどの表に世代別の「中古車市場規模」もまとめています。40代、50代、60代よりも20代の方が中古車の市場規模ははるかに大きいんですよ。
本当だ! 60代と比較すると倍近いじゃないですか。台数的にも値段的にも、全然クルマ離れしてない。中古車マーケットから見たら若者は完全に“お得意さま”ですよ。
もちろん、「お金がないから」「免許取り立てで運転テクニックがないから」という理由で安い中古車を買う人もいます。でも、クルマに限らずスマートな消費として中古の商品を手に取る人は確実に増えているはずです。
マンションでもリノベーション物件が流行ったりしていますもんね。
他に若者の数値が高い部分を見てみると、「家族や友人、恋人などにクルマを見せに行った」「クルマの写真を撮影してSNSにアップした」があります。彼らにとってクルマは自分の個性を表現する手段なのでしょう。
実は以前、日経ビジネスの企画でコンビニで買い物をしていたノートe-POWERオーナーに突撃取材したことがあります。そのクルマを選んだ理由を尋ねたら、「一番売れているから」と言われてそれ以上話を広げられなかったことを思い出しました。
若者は「みんなが買っているから安心」とは真逆の世界観でしょうね。
私が以前取材した人の中には、「中古車だと昔不人気で、今は街で全然見かけないカッコいいのが売っている」と話されている人もいました。不人気はネガティブなことではなく、人と絶対にかぶらない宝物という感覚でした。
すると、そういう人は買った後もカスタムしたりしてクルマにお金をかけるのですか? 話を聞いているとお金をかけるのではないかと感じますが。
そこは人により様々でしょうね。最近伸びているのが、お店があらかじめプチカスタムして販売している中古車です。
アースカラーにオールペンしたり、フェイスチェンジしたクルマとかですね。
個性を主張すると言っても、クルマは人が乗るものですから何もわからずにいじるのってやっぱり怖いじゃないですか。
洋服に手を加えるのとは感覚が違いますね。
だから自分でいじるというのはやはりハードルが高い。それもあり、機関系ではなく内外装があらかじめ他のクルマと違う感じに仕上がっているパッケージ商品に注目が集まっています。洋服で例えるなら、セレクトショップ別注のようなものですね。
20代をターゲットにしているお店はInstagramにたくさん広告を出していたりもします。
大津さんは現役の20代ですよね。周りには中古車を買っている友達がいますか?
ちらほらいますね。私の親世代なんかは中古車にネガティブなイメージを持っている人が多い印象ですが、私たちは「かわいいクルマが安く手に入るならそっちの方がいいな」って考えちゃいます。
年配の方になるほど、新車至上主義の人は多いでしょうね。
私の友達にどうしても赤いミラジーノが欲しいという子がいて、その子は一生懸命中古車を探していました。女の子だしカスタムはわからないけれど、内装にはすごくこだわっていて自分だけの空間をつくり上げています。
クルマのいじり方も昔とは変わってきていて、長い時間を過ごす車内をどう居心地よくするかというのを考える子たちが増えていると感じています。
インテリアのカスタムも昔からありますが、それとも違う感じですか?
例えば、僕やフェルさんだと愛車の写真を撮るというとクルマの外に出て全体を撮ると思うんですよ。
そうですね。自分のポルシェはもちろん、試乗したクルマも外観の写真を撮っています。
僕らはクルマのフォルムを見せたいのだと思います。だからカスタムも車高を下げるとか、エアロを付けるとか、ホイールを変えるとか、そういう感じのいじり方が主流でした。まさに“ドレスアップ”ですよね。
今の若い子は違うのですか?
今はドレスダウンとかチープアップという言葉もあるように、高級そうに見せるのではなく「俺が使い倒しているぜ!」感を出すのが流行っていますね。写真も外観ではなく、“自分の部屋”感のある車内を撮る子が増えているように感じます。
派手なものにするよりも、シンプルだとしても、自分の好みのモノで囲まれている素敵な空間をつくる感覚ですね。
ナチュラルな“映え”を出すんだ。
クルマの外で一生懸命写真を撮るのでなく、車内にいる仲間との写真をSNSのストーリーズにアップする感じで。
ストーリーズがまったく理解できないんですよ。なんで消えちゃうものをわざわざアップするんですか? 人に見てほしいのか、見てほしくないのか、どっちなのですか?
チラ見してほしいのかな。すぐ消えちゃうのが、載せるときにかえっていろいろ考えなくて気が楽なんだと思います。
その感覚、おっさんにはまったく理解できない……。でも私と感覚が違うとはいえ、若い人たちもクルマを楽しんでいるのはうれしいことです。これからもどんどん新しい文化を育てていってほしいですね。
(中古車購入実態調査編、これにて終了です。最後までお付き合いいただきありがとうございました!)
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。