▲今回の1台は本文中にあるアルピーヌである。年のせいか腰が引けてはいるものの、運動性能、楽しさは抜群で、アルファの特殊モデルを除けば、エリーゼ以来のライトウェイトスポーツの誕生である ▲今回の1台は本文中にあるアルピーヌである。年のせいか腰が引けてはいるものの、運動性能、楽しさは抜群で、アルファの特殊モデルを除けば、エリーゼ以来のライトウェイトスポーツの誕生である

EDGE12月号の特集は「SUVなんていらない」あれ? その前はSUV特集だったんじゃなかったっけ……

時代ははっきりとSUVに向いているし、だからといって運動性能を取り出すなら間違いなくSUVは分が悪いし、だから「どちらの意見もあり」だと僕は思う。

変な話、僕が今のテスラを購入するときだって、ちょっと待てば同スぺックのSUVのモデルXが買えたわけで、それをあえてモデルSにしたのは0→100km/h加速が3.2秒に対して3.0秒だったから、といってもうそではない。

ここまで高性能になるとほんの少しの数字が結構重要なポイントになってくるのだ……、少なくとも僕の場合は。

というよりもたとえそれが3.2秒であっても、そんなとてつもないパワーをもったSUV、足はついてこないでしょう、と考えた。

実際、その後モデルXに乗ったが足回りはかなりガチガチで、いわゆるSUV的なおおらかさはなかった。

もっともハイパワーのカイエンターボあたりになると同じエアサスでもずっとしなやかな足回りをもっていて、モデルXもSUVだからというエクスキューズはつけられないかもしれない。

とはいえカイエンは1秒近く遅いわけなのだが……。

我が家には現在ポルシェ 初代GT3、メルセデス C63AMG、レンジローバー イヴォーク、そしてテスラ モデルSがあるが、どれが一番気楽にキーを持てるかといえば、メルセデスとイヴォークかもしれない。

いかんせんテスラはボディが大きすぎてちょっと気が重いし、GT3はロードクリアランスや渋滞とかを考えるともっと気が重い。

ではどちらがどうかということになると、楽ちんに行きたいときはイヴォーク、立体駐車場の恐れがあるときはメルセデス、ということになるのだろうか。

さらに突き詰めていくと、峠道を走るようなルートであったり、走りを楽しむ可能性のある行程だったりするとメルセデスになるし、渋滞など予測不可能な行程であればイヴォークということになる。

テスラ以外は古いモデルたちばかりでACCの備えはないが、できればどちらにもACCが欲しいところだ。

実をいえばつい最近、ようやく新型アルピーヌに乗ることができた。これが僕の想像をずいぶん超える硬派な車でびっくりした。

ルノー スポールが関わる車は硬派であってもどこかユーザーフレンドリーな車が多い。

先代のメガーヌ R.S.にもあったサーキットに照準を合わせた275トロフィーRだって、硬くはあるもののどこかフレンドリーでキーを取る気楽さがあったのだが、アルピーヌは違った。

ロータス エリーゼを想像すればいいだろうか。

エリーゼをフランス的解釈で作り上げたのがアルピーヌだと思う。

エリーゼよりも乗り降りはしやすく、エリーゼよりは現実的で、エリーゼより内装も居心地よくできているが、走りに特化しているという部分では変わらない。

つまりよほど覚悟ができない限りキーを取る気になれない車だったのだ。

あれに比べれば硬派といわれた僕の初代GT3なんて生ぬるいもいいところ。街乗りだってもっとずっと気楽だ。だから試乗を終えたあと、しばらく考え込んでしまった。

エリーゼが欲しいと思ったこともある。いやセブンを本気で買おうと思ったことさえある。

走りに特化した車が嫌いになったわけではなさそうだ。アルピーヌは軽量なのが魅力。身軽でまるで裸足になったみたいな感覚がある。そう、この点がエリーゼと共通する。

そして特に絶望的な後方視界もエリーゼとの共通点かもしれない。

これ、何とかならなかったのかな、とも思うが、実際問題エンジンの搭載位置、エンジンの種類、そしてあのデザインの再現など複雑な縛りの中ではあれが限界だったのだろう。

無茶苦茶なことをいうようだが、GT3ならSUV化できる。

しかしアルピーヌ、エリーゼはできない。それはある意味物理的な限界でもあるということだ。

逆にそれは、走りに特化したこの手の車とオールラウンダーで楽ちんなSUVというぺアが理想であるということを意味しているのかもしれない。

ふと自分の車たちを見回してみると、どうも自分の性格が見え隠れするような気がする。中途半端というか、どうも割り切りができていない感じだ。

テスラを除けば、メルセデスの代わりにはup!あたりでいいし、ポルシェの代わりにはそれこそアルピーヌあたりだろう。

もっといえばイヴォークに買い替えてしまったが、買い替えずにディフェンダーに乗り続けていれば、もっとはっきりと意志の見えるラインナップになっただろう。

まあ、そうはいうものの、どの車にもなるべく均等に乗りたい、と思うとこうなってしまうのかもしれない。

さて「SUVなんていらない」の結論だが、アウディ オールロードクワトロやボルボ クロスカントリーあたりでお茶を濁すも良し、潔くスポーツカーで削ぎ落としたカーライフを送るのも良し。

けれど本気で運動性能を追い求めるのだったら、SUVは間違いなく不利だ、ということだけはいっておこう。

これはたとえカイエンであってもテスラ モデルXであっても、もちろんウルスであっても、レヴァンテであってもだ。

そりゃあ峠道を攻められはするだろうし、そこそこ速くも走れるだろうが、そこには物理的な限界もあるし精神的な限界もある。

ちょっとでも走りを純粋に楽しみたいなら「SUVなんていらない」である。
 

【プロフィール】松任谷正隆:1951年、東京都生まれ。音楽プロデューサー、作曲家、アレンジャーとして活動。音楽学校「マイカ・ミュージック・ラボラトリー」の校長も務める。一方でモータージャーナリストとしても日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、「CARGRAPHICTV」のキャスターと多彩に活躍中 【プロフィール】松任谷正隆:1951年、東京都生まれ。音楽プロデューサー、作曲家、アレンジャーとして活動。音楽学校「マイカ・ミュージック・ラボラトリー」の校長も務める。一方でモータージャーナリストとしても日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、「CARGRAPHICTV」のキャスターと多彩に活躍中
text/松任谷正隆
photo/ルノー

※カーセンサーEDGE 2018年12月号(2018年10月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています