▲車にまつわるあるあるって、どんな心理が働いているのか? 心理学者の晴香葉子先生に聞いていきます ▲車にまつわるあるあるって、どんな心理が働いているのか? 心理学者の晴香葉子先生に聞いていきます

マセラティの排気音はストラディバリウスと同じ周波数!?

車にとってエンジン音や排気音は、こだわりのポイント。「フェラーリサウンド」や「マセラティサウンド」と、ブランド名を冠して呼称されることも少なくありません。最近では、日本の高級車も様々な工夫を凝らしています。

500台限定で発売されたレクサスのフラッグシップスポーツカー『LFA』のエンジン音は、楽器メーカーであるヤマハのサウンド開発センターが手がけました。「ドライバーの繊細な運転操作に、敏感に反応するエンジン音を創出し、その良質なエンジン音を余すことなく効果的にドライバーへと伝えること」を目指したといいます。

排気音は金属加工メーカー、『三五』がマフラーを担当。海外の高級メーカーのスポーツカーの排気音を周波数として分析。そのどれにも当てはまらない音をLFAのエグゾーストノートとして設定したそうです。

また、エンジンの吸気音を意識的に室内に引き込み、加速時のエンジンサウンドを強調して響かせる「サウンドクリエーター」は、各自動車メーカーが採用。

例えば、『マツダ ロードスター』では、ドライバーのアクセル操作に対し周波数300~400Hzの領域でよりダイレクトに吸気音を演出しています。
 

▲楽器メーカーなどが工夫を凝らすほど、こだわられている『サウンド』 ▲楽器メーカーなどが工夫を凝らすほど、こだわられている『サウンド』

「そもそも人は、聞くとアルファ波が出る1/fゆらぎのある音、例えば波の音などを心地よく感じます」と語るのは心理学者の晴香葉子さん。

しかし、エンジン音を聞いて、そんなにリラックスできるものなのか? そう思っていると、驚きのデータを見つけました。

『マセラティ』のエンジン音は、バイオリンの名器『ストラディバリウス』との共通点があるとのこと。

実際に音を聞いた多くの被験者が共通した印象をもち、また、周波数分析においても同じようなスペクトルを描いたそうです。

さすがは『マセラティサウンド』。
 

祭りの音とエンジン音は同じ。非日常の興奮を高めてくれる

晴香さんは、「エンジン音がするからこそ走りの楽しさを感じられし、正常に作動している安心感を得ることもできます」と分析。

「奏でる音によっては、人の気持ちは高揚します。

例えば、お祭りに勇ましい音楽があったり、祈祷で特殊な声を発したりするのは、そういった理由からです。

高級車やスポーツカーのエンジン音や排気音も、非日常の高揚感を高めることを目的にしているのではないでしょうか」


エッジの立ったスポーツカーに印象的な原色が多いのも、そういった理由かもしれません。
 

ドライバーは自分でコントロールしているからこそエンジン音が心地よい

一方、エグゾーストノートやエンジン音は、助手席ウケが悪いこともあります。

ステレオタイプで恐縮ですが、『助手席の女子、うるさい車嫌い説』は昔からいわれています。

「ドライバーがエグゾーストノートやエンジン音を心地よく感じるのは、自分がコントロールしている音だから。

シフトチェンジやアクセルワークに応じて、エンジン音や排気音は変わりますよね。

一方、助手席や車外の人からすると、自分でコントロールできません。

人は自分がコントロールできない大きな音を雑音として感じます」


最近、ネット上で“新幹線に乗ったときに、ビジネスマンのパソコンのキーボードの音がうるさかった”という議論が盛りあがったのも、同じ理由なのだとか。

この議論で、“あいつらは、仕事して俺は格好いい、というのを周りにアピールしたいだけ”なんて指摘もありましたが、実はこれ、大音量の排気音にも通じるといいます。

「車に乗る目的が目立ちたかったり、反社会的だったりする人は、大きな排気音で自分を誇示しようとすることがあります」と晴香さん。

確かに、ヤン車(ヤンキー車)は独特の爆音を出しています。

晴香さんはそれに対して、「出す音=自己表現」と指摘します。

大きな音を出すことで、ヤンチャな自分や人と違う自分、社会に迎合しない自分などをアピールしているケースもあると言うのです。

また、好きな人にとってはたまらない音色も、そうでない人にとっては迷惑になることもあるそうです。

少し飛躍するかもしれませんが、大音量で奏でるロックは、その昔は不良の音楽と呼ばれていました。

なんだか、通じるものがあるのかもしれません。

エンジン音や排気音は、ドライブの楽しさをより高めてくれます。

しかし、自己顕示のために大きな音を出したら、それは迷惑以外のないものでもありません。

助手席に乗る人からも嫌われるので、気をつけましょう。
 

【プロフィール】晴香葉子:作家・心理学者。早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、様々な角度から情報を提供。執筆、講演、テレビ、雑誌などメディアでの心理解説、監修実績などの活動を続けている。著書は、『人生には、こうして奇跡が起きる』(青春出版社)、『2回目からは、スーツのボタンは外しなさい』(潮出版社)、『言葉って不思議だと思いませんか?』(彩雲出版)など30冊以上 【プロフィール】晴香葉子:作家・心理学者。早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、様々な角度から情報を提供。執筆、講演、テレビ、雑誌などメディアでの心理解説、監修実績などの活動を続けている。主な著書に、『人生には、こうして奇跡が起きる』(青春出版社)、『2回目からは、スーツのボタンは外しなさい』(潮出版社)、『言葉って不思議だと思いませんか?』(彩雲出版)など30冊以上
text/コージー林田
photo/すしぱく