フェルディナント・ヤマグチ▲最後にオートモビルカウンシルに訪れたのはコロナ禍前だったので数年ぶりの会場入り。どんなクルマが見られるか楽しみです


みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。

時事放談では、新たなスタイルでクラシックカーの魅力を紹介しているオートモビルカウンシルの実行委員会代表・関雅文さんに、興味深いイベントをスタートさせたきっかけや、イベントの意義などを伺いました。

自分で乗るクルマは比較的新しいモデルを選びがちですが、関さんの話を聞いてビンテージモデルの奥深い世界に対しても、ムクムクと興味が湧いてまいりました。

そこで今回は私がオートモビルカウンシルの会場をユルッと探訪。気になったクルマを3台紹介いたします。

1960年代の珍しいメルセデス・ベンツのバス。これはかわいい!

メルセデス・ベンツ 319バス▲1963年式のメルセデス・ベンツ 319バス。1650万円というプライスタグが付いています

まず目にとまったのは、会場のほぼ中央に展示されていたメルセデス・ベンツのバスです。これは1963年式の319バスというモデル。一般的にメルセデス・ベンツは高級ブランドというイメージだと思いますが、実はバン、バス、大型トラックなども製造するフルラインナップメーカーです。

しかし、こんなに昔からマイクロバスを製造していたのは知りませんでした。

今回はビンテージメルセデスのスペシャルショップとして有名なシルバースターさんのご厚意で、運転席に座らせていただくことができました。

フェルディナント・ヤマグチ▲神戸にあるシルバースターの岸本代表。オールドメルセデス一筋で整備をされてきた方です

フェルディナント・ヤマグチ(以下、フェル) このクルマはバスなので座席が多いですよね。やっぱり運転するには大型免許が必要になりますか?

シルバースター・岸本さん(以下、岸本) 本来は2ナンバー登録(普通乗合車)なのですが、座席を外したうえで構造変更して3ナンバー登録できるようにしていますので、普通免許で大丈夫です。

フェル 失礼な話ですが、普通のクルマとして街中を走ることができるのですね。

岸本 大丈夫ですよ。

フェル こんなに珍しいクルマが簡単に出てくるものなのでしょうか。

岸本 このクルマは国内にあったものです。うちのお客さまが乗っていたのですが、その方が小学生の時に、このバスを社用車として使っていた会社が近所にあったそうです。それを見て「大人になったら絶対にこのバスを手に入れよう」と思っていたのだとか。

フェル 乗ろうと思っても、そう簡単に買えるものでもありませんよね。

岸本 その方が40代の時にたまたま中古車屋さんに並んでいるのを見つけたそうです。その時はまだ2ナンバー登録の車だったのでわざわざ大型免許を取得したとのことでした。

フェル よほど強い思い入れがあったのでしょうね。

岸本 その方は5年ほど乗られたのですが、やはり維持が大変でずっと倉庫にしまわれていたそうです。

メルセデス・ベンツ 319バス▲小さなテールランプがかわいいですね。ボディカラーも味があってとても良い

フェル 維持に苦労されたということは、途中でエンジンをオリジナルのものから載せ替えていたりしたのですか?

岸本 いえ、これはオリジナルのエンジンが載っています。その方は別のクルマで弊社とお付き合いがあったので、「これ、直せたりする?」と写真を見せてもらって。その時、私も初めて見たので、がぜん興味が湧いて「すぐに取りに行きます」となりました。

フェル なるほど。おもしろい逸話ですね。

岸本 保管していた倉庫が乾燥していたので、いい状態で残っていたのが幸運でした。

フェル とはいえ、整備はかなり苦労されたのではないですか?

岸本 オールドメルセデスを専門でやっているので部品などはすべて把握できました。半年くらいかけて整備したのが10年以上前の話ですね。最近、前オーナーがご高齢になられて手放すということになりました。私もこのクルマには思い入れがあるので、でしたら私が買い戻しますとお伝えして、今回展示しています。

フェル 今、価格はどのくらいですか?

岸本 1650万円になります。

メルセデス・ベンツ 319バス▲日本仕様に変更されているというインパネまわり。愛らしいデザインです

フェル とはいえ、面白そうだから買ってみようと気軽に言える値段ではありませんね。もともとはスクールバスだったのですか?

岸本 おそらく日本に輸入された後にインフラとして使われていたものだと思います。乗り合いバスですね。役割を終えたら廃車にされていたので、ほとんど現存していないのでしょう。この個体も運行管理上だと思うのですが、日本製のメーターに交換されています。

フェル おもしろい。歴史のあるクルマだと、人と同じように様々な物語があるのですね。

進駐軍の将校が乗っていたというジャガーを発見!

ジャガー XK120▲すごい逸話があるクルマが展示されていると会場で囁かれていたジャガー XK120

先ほどのメルセデス・ベンツもおもしろい話がありましたが、会場にすごい逸話をもったクルマが展示されていると耳にしました。なんでも歴代オーナーにすごい方が名を連ねているとか。

フェル 1952年式のジャガー XK120 レーシングロードスターと書いてある。

オートダイレクト・角田さん(以下、角田) はじめまして。これは推測の話になってしまうのですが、進駐軍の将校が日本に持ってきた個体といわれています。

フェル その頃はまだジャガーのディーラーなんて日本になかったですよね。

角田 ありません。将校はイギリスから日本に直で持ってきたと思われます。

ジャガー XK120▲1962年発行のCAR GRAPHICにこのクルマを紹介する記事が載っています(雑誌は復刻版)

フェル イギリスから個人で直輸入したというのもすごい話ですね。

角田 ジャガーなのに左ハンドルになっているのは、アメリカ軍向けのクルマだったからではないか。そう思われます。

フェル 当時、そのような形でクルマを入れられたのは、ごく限られた人だけでしょう。相当な立場の人だったことが推測できますね。

角田 さらにそれが巡って、この雑誌に紹介されているように10年後には慶應大学の学生が乗られていたということがわかっています。

フェル 慶應の学生は当時からすごい人がいたのですね。まったくけしからん(笑)。今はとてもきれいな状態で展示されていますが、かなりレストアされているのですか?

角田 これはミッレミリアに出ることを前提にフルレストアしています。レストア時はオリジナルの状態を忠実に守りながらやることも多いですが、これは現代流にアップデートすることをコンセプトにしました。

フェル 具体的にはどのようにアップデートしたのですか?

ジャガー XK120▲足回りは少しローダウンしてレーシーな雰囲気を出しているそうです

角田 例えば、フロントまわり。もともとはバンパーモールがあったのですがあえて外してレーシーな雰囲気にしました。

フェル リアのフューエルキャップなどもいい雰囲気です。

角田 フロントのウインドウシールドも普通はボディにリベット留めされていますが、これは台座を溶接してそこに取り付けています。シートも新しいものに張り替えています。シートの横にあるポンプはランバーサポートになります。

ジャガー XK120▲ウインドウシールド下に台座を作り、実用性が高められています
ジャガー XK120▲シートから生えているポンプを操作すると、腰回りが膨らみサポート性を高めてくれます

フェル 今の状態で全然問題なく走れますか?

角田 快適に乗れますよ。ボディも傷んだ部分は作り直しています。幌はレストアを機に全部外してしまいました。

フェル 雨の日は乗らないでねと。

角田 一応、助手席にはトノカバーを付けられるようにしています。

フェル かなりストイックですね。勉強になりました。ありがとうございます。

20年以上前に乗っていたモデルと再開。中古車相場の上昇に驚く!

フォルクスワーゲン ゴルフ

これまでの2台はかなりビンテージなモデルで、価格も1000万円を大きく超えるものでした。最後はもう少し安いモデルを見てみることに。

普通の人も手に入れられるモデルが展示されているのもオートモビルカウンシルの醍醐味ですから。

フェル 実は昔、私もフォルクスワーゲン ゴルフクラシックラインに乗っていたことがあるんですよ。たしか当時は中古車車を80万円で手に入れたと記憶しています。それを考えるとものすごく値段が上がりましたね。

スピニングガレージ・田中さん(以下、田中) こんにちは。フェルさんがクラシックラインに乗られていたのはいつごろなんですか?

フェル コラムニストになる前ですから20年以上前になりますね。当時、走行距離2000km程度のものを見つけたんですよ。お店から「前オーナーは漫画家さんで、締め切りに追われていたから買ったはいいけれど全然乗れなかったらしい」と聞いたのを覚えています。

田中 それは一生持っていなければいけなかったやつですね(笑)。

フェル この値段を見ると手放したことを後悔しますね。確かニュービートルに目がくらんで乗り替えたのかな。でも、今クラシックラインで359.8万円という値段が付くということは、走行距離がかなり少ないんじゃないかな。

田中 これは13万kmくらい走っています。

フェル え! そんなに走っているのにこれくらいの価格なのですか。

フォルクスワーゲン ゴルフ▲ゴルフIIの専門店として有名なスピニングガレージの田中社長と

田中 このクルマはオートモビルカウンシルに出展するために全塗装、幌の張替え、シートの張り替え、ホイールリフレッシュ、その他の整備を行っています。

フェル それはかなりお得な内容ですね。

田中 気合いを入れて手を入れたので、ぜひどなたか乗ってください(笑)。

フェル クラシックラインは久しぶりに対面しましたが、やっぱりかわいいデザインですね。今でも問い合わせは多いですか?

田中 そうですね。かなりお問い合わせをいただく車種になります。やっぱり存在感がありますよね。

フェル せっかくなので運転席に座らせていただいていいですか?

田中 もちろんです。座ってみてください。

フォルクスワーゲン ゴルフ▲「この直線的なインパネ、懐かしいな」。久しぶりに運転席に座り興奮気味

フェル そうそう、インパネとかこんな感じでしたよ。懐かしいな。スピニングガレージさんはゴルフII専門店でしたよね。

田中 はい。ずっとゴルフIIでやっています。

フェル そうなるとクラシックラインはイレギュラーなモデルになるのですか。

田中 ゴルフIIにはカブリオレの設定がありませんでした。ゴルフIIの時代もカブリオレはゴルフIのものが引き続き販売されていたんです。なので私たちはゴルフII専門店ですが、クラシックラインも扱っています。

フェル もう何年くらいやっているのですか。

田中 24年になりました。

フェル そんなに! その前はどこかのディーラーにいらしたのですか。

田中 いえ、全然違う仕事をしていました。ゴルフIIが好きでお店を始めて、24年たってしまった感じですね。整備士の資格もお店を始めてから取りに行ったんです。

フェル 田中さんがお店を始めた頃と今ではゴルフIIを取り巻く環境が大きく変わっていますよね。クルマの数もかなり減っていると思います。

田中 そうですね。状況は変わりました。でも今のところクルマの数はそこそこあるのでやっていけています。あとはお客さまの中でクルマが循環しているというのもあります。うちは1000人以上お客さまがいるので。

フェル ということは、ゴルフIIを売って、またIIを買うと言う人もいるのですか。

田中 いらっしゃいますよ。僕たちはゴルフIIの販売もしますが、ゴルフII専門の整備工場でもあると思っています。ゴルフIIが好きで、ゴルフIIに乗ってくれる人がいれば、僕らもゴルフIIだけでやっていけると思って頑張っています。

フェル 素晴らしい! 私が若い頃に乗っていたクルマにこんなに熱い気持ちで今でも向き合っている方がいるのを知ってうれしくなりました。ありがとうございます!

文/フェルディナント・ヤマグチ 編集/高橋満(BRIDGE MAN)
フェルディナント・ヤマグチ

コラムニスト

フェルディナント・ヤマグチ

カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。