トヨタ 86

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
 

チューニングの方向性は異なるが、目的はどちらも「ジムカーナで勝つ」こと

福田兄弟は、揃って86乗りだ。 兄の具史(ともみ)さんの愛車は、ブラックのエアロパーツが利いた白いボディ。赤いブレンボがのぞく白いBBS製の1ピースアルミ鍛造ホイールは、なんと20万円もかかったそうだ。

「白いホイールは汚れが目立つからか、なかなかないんですよね。命の次くらいに大事な車ですからね、いつもきれいに磨いてますよ」

磨きあげられたホイールには、D1グランプリでも有名なシバタイヤのRYDANZを履くことからも察せられるとおり、具史さんは1998年からジムカーナ競技に取り組み、2000年には栃木シリーズのトップにも立った腕前の持ち主。「タイヤがもったいないから練習はしないんですよ。天才肌なんでね」と冗談めかして笑う。
 

トヨタ 86▲こちらが兄の具史さんの86。2018年式の後期型だ
トヨタ 86▲お気に入りのパーツのひとつが、真っしろなBBS製アルミ鍛造ホイール

一方、弟の旨幸(むねゆき)さんのオレンジメタリックの86は一見ノーマルのように見える。しかしタイヤはストリート最強ともいわれるADOVAN NEOVAを履いているから、おやっと思って聞いてみると、やはりお兄さん同様にジムカーナ競技に取り組んでいるという。

「自分は走りだけしか求めてなくて、見た目はまったくこだわらないんで、ホイールもノーマルのまま、汚いまま。あんまり写真映えしなくてすみません(笑)」
 

トヨタ 86▲そしてこちらが弟の旨幸さんの86。2012年式の前期型だ

ぱっと見ではわからないが、じつはデフ、車高調、ブレーキ類のチューンアップの他、下回りからがっつり剛性強化が施されている。

「弟の車の方がよっぽどガッチガチに固めてるからね。ドアスタビライザーまで付けてるんだよ。こんなの本当に利くのかね(笑)」と、兄の具史さんがあきれたように教えてくれた。
 

トヨタ 86▲ドアを開けてみると、こんなところにも剛性アップパーツが!

旨幸さんも、「剛性上げすぎて乗り心地がめちゃくちゃ悪いです」と苦笑いで高剛性ならではのデメリットを白状する。

旨幸さんは病気の影響で右足が動かなくなって以降、乗れるのはAT車のみ。ディーラーでAT車のペダルに器具を取り付ける対応をしてもらい、左足でペダルワークをしている。このスタイルで2000年から兄の背を追ってジムカーナを始め、栃木シリーズの他に近県のシリーズにも参戦。出場回数では兄を凌ぐ熱心さで取り組んできた。

左足仕様のAT車は、アルテッツァ、MR-Sと乗り継ぎ、発表前に仮予約を入れて購入したのがこの86だ。

「最近はオートマでも結構走れる車が増えたから、それはラッキーだったかな。少し前に肩をケガしてしまってフルバケットのシートに乗り込めないのでノーマルにしてますけど、やっと肩が良くなったのでフルバケに戻したいですね。やっぱりジムカーナのときの腰の支えが欲しいので」

肩のケガとは、腹部の手術後に乗り込む際、体を支える腕の力を抜くタイミングが悪く、バケットの角に突き上げられて肩の腱を断裂させてしまったというものだ。そもそも右足で体重を支えることができないというのに、よくもまあ乗り降りしにくいフルバケに乗っていたものだと驚くが、「使い勝手を取るか、速く走るための機能性を取るか」の2択で迷うことはないという。
 

トヨタ 86▲今はノーマルシートを装着しているが、そろそろフルバケットシートに戻したいという

ストイックなまでの弟の隣で、兄の具史さんは、「足に障がいがあっても、好きな車で好きなことができるんですよ」と誇らしげだ。

旨幸さんの86のショックアブソーバーはもう4本目だそうで、そのうちの1セットは兄に貸してある。「そんなことができるのも同じ車だからこそ」と旨幸さんが言うと、「お前はそろそろおとなしい車に乗れば?」と兄が混ぜ返し、「兄貴はまずショック代くれよ」と弟が笑う。
 

トヨタ 86▲兄弟間でパーツを共有できることも同じ車種だからこそのメリット。そう声を揃えるが、ここだけの話、今のところは具史さんの方が借りが多いのだとか……

そんな軽口の応酬の中、旨幸さんがふと真顔で、お兄さんの具史さんを見やって言った。

「兄貴はずっと自分の目標の人。今後も一緒にジムカーナを続けてほしい」

すっと息をのんで弟の言葉を受け止め、まっすぐに弟を見つめ返した兄が、照れたように目を逸らし、まぶしそうに顔をしかめて太陽を見上げた。
 

トヨタ 86▲現在は離れて暮らしているため会う機会が少ないが、ジムカーナの競技場に行くとばったり顔を合わせることが多いという。「お互い年も年だから、安否確認みたいなもんだね(笑)」

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トヨタ 86(初代)×全国
文/竹井あきら、写真/篠原晃一
トヨタ 86

福田具史さんのマイカーレビュー

トヨタ 86(初代・後期)

●グレード/GTリミテッド(MT)
●購入価格/約360万円
●マイカーの好きなところ/走ってもいじっても楽しく、手が届く価格
●マイカーの愛すべきダメなところ/電子スロットル
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/走ったりいじったり、車を楽しみたい人
●他に検討した車は?/スバル BRZ

トヨタ 86

福田旨幸さんのマイカーレビュー

トヨタ 86(初代・前期)

●グレード/GT(AT)
●購入価格/新車価格で買いました
●マイカーの好きなところ/ATでもスポーツ走行が楽しめるところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/ムダにブレーキが鳴る。剛性を上げた分突き上げが強く、乗り心地がめちゃくちゃ悪い
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/比較的コントロールしやすいので、車が好きで楽しみたい人に
●他に検討した車は?/スバル BRZ

竹井あきら

ライター

竹井あきら

自動車専門誌『NAVI』編集記者を経て独立。雑誌や広告などの編集・執筆・企画を手がける。プジョー 306カブリオレを手放してからしばらく車を所有していなかったが、2021年春にプジョー 208 スタイルのMTを購入。近年は1馬力(乗馬)にも夢中。