マセラティ▲日本初となったフォーミュラカーによる公道レース、フォーミュラE「東京E-Prix」は大いに盛り上がりをみせた。その記念すべきレースを制したのはマセラティ。電気自動車の印象が薄い同ブランドだが、フォーミュラEで得た知見は市販車にフィードバックされつつある

マセラティにおけるフォーミュラEと市販BEVの関係

2024年3月30日、日本初開催となるABB FIAフォーミュラE世界選手権2023/2024年シーズン10第5戦「東京E-Prix」の決勝レースが行われた。

開催場所は東京・有明にある東京ビッグサイトの東ホールエリアを囲むように作られた全長2.585km、20のコーナーからなる左回りのコース。29日の練習走行日は春の嵐にみまわれ大荒れの天候となったが、翌日の予選&決勝日(1日でまとめて予選と決勝が見られるスケジュールのコンパクトさがフォーミュラEのメリットでもある)は快晴に恵まれ、約2万人の観衆が訪れた。

東京都としては史上初の公道を使ったレースとなった今大会。そのグリッドには11チーム、22台のマシンが並んだ。自動車メーカーとして参戦しているのは、ジャガー、ポルシェ、DSオートモビル、マセラティ、そして日本のメーカーとして唯一の参戦となる日産自動車。

公式予選では、そのニッサン・フォーミュラEチームのオリバー・ローランド選手がポールポジションを獲得。ホームレースだけに日産の応援スタンドも大いに盛り上がった。

決勝レース前には、フォーミュラEの東京への誘致を陣頭指揮した小池百合子東京都知事と、政府として目標を掲げている2050年のカーボンニュートラル活動への一環ということもあり、岸田文雄首相がサプライズ登場した。

決勝レースは、ポールポジションのオリバー・ローランド選手と2位につけたマセラティMSGレーシングのマキシミリアン・ギュンター選手がデッドヒートを繰り広げ、最終的にマセラティのギュンター選手が勝利。ニッサンのローランド選手は惜しくも2位となった。
 

マセラティ▲東京の有明エリアに作られた特設コースで開催されたフォーミュラE。コースのすべてが公道というわけではなかったが、来年の開催に期待したい盛り上がりをみせた
マセラティ▲勝利したのはマセラティのマキシミリアン・ギュンター選手。最終周までニッサンのオリバー・ローランド選手と激しく争った

実は決勝レースの前日、マセラティのレース活動を統括するマセラティ・コルセの責任者、ジョバンニ・スグロ氏にインタビューすることができたので、その模様を少しお届けする。

マセラティがフォーミュラEへの参戦を開始したのは、昨シーズンのこと。今シリーズで2年目を迎えている。そしてマセラティとしては久しぶりのファクトリーレースということになる。マセラティ・コルセとはレース活動およびカスタマーレーシングを統括する部門だが、まずどのようなビジネスを行っているのか尋ねてみた。

「マセラティ・コルセには大きく2つの役割があります。ひとつはプライベートチームやレースに情熱をかたむけるカスタマー向けにレースで競争力を発揮するハイレベルなサーキット専用車を開発、生産することです。昨年スーパースポーツカーのMC20をベースに、GT2規定のマセラティGT2を開発し、GT2ヨーロピアンシリーズに参戦しています。GTレースにはMC12から続くマセラティのDNAがあります。また現在、62台のみ限定生産するサーキット専用車の『MCXtrema』を開発中です」
 

マセラティ▲マセラティのスポーツ部門、マセラティ・コルセの責任者であるジョバンニ・トンマーソ・スグロ氏
マセラティ▲マセラティのスーパースポーツカーであるMC20をベースにしたレーシングカーがマセラティ GT2。3L V6ツインターボエンジンを搭載し、最高出力は621psを発生する
マセラティ▲サーキット専用車として開発を進めているMCXtrema。生産されるのは限定62台のみとしている

「そしてもうひとつが、ファクトリーレース活動としてフォーミュラEに参戦してマセラティブランドの価値を高めることです。マセラティはブランド初の電気自動車、グラントゥーリズモ フォルゴーレを発表しましたが、我々も電動化の未来へと向かっています。フォーミュラEは、サーキットから公道への技術のフィードバックや、ブランドとして電気自動車へのコミットメントをメッセージするのに素晴らしいプラットフォームです」

世の多くの自動車メーカーがそうであるように、マセラティもICE(内燃エンジン)とBEV(電気自動車)の両方の開発を同時並行で進めている。今後はさらに電動化が進んでいくことは間違いないだろう。これまでマセラティを特徴づけていたエンジン音というものが失われていく中で、ブランドをどう表現していくのか。

「よく聞かれることですね。マセラティに乗ると、様々な要素が組み合わさっていることがわかると思います。優れたエンジニアリング、美しいデザイン、そして高いパフォーマンス、そのすべてを備えている。マセラティはラグジュアリーブランドなのです。エンジン音であろうと、モーター音であろうと、サウンドがどうであれマセラティで得られる体験は、他の誰にも真似できないユニークなものです」

「常に一貫して、メイド・イン・イタリーの独自性にこだわり続けています。そして、私たちは近い将来、最もラグジュアリーなイタリア製の電気自動車を生産することになると思います。それは、世界中の多くのユーザーにとって非常に魅力的なものであり、決して忘れることのできない経験を与えるものになるはずです」
 

マセラティ▲マセラティというとエンジン車の印象が強いが、電気自動車の開発にも余念はない。写真はグラントゥーリズモのBEVであるグラントゥーリズモ ファルゴーレ

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マセラティ グラントゥーリズモ × 全国
マセラティ▲人気モデルであるグレカーレにもBEVをラインナップ。日本への導入が待ち遠しいモデルだ

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マセラティ グレカーレ × 全国
マセラティ▲レースで得たノウハウを市販車にフィードバックするのは、自動車開発では当たり前のこと。フォーミュラEで得たノウハウを詰め込んだマセラティ製BEVに期待したい

なお、このインタビュー時にスグロ氏は、チームとギュンター選手の好調ぶりにも言及しており、道幅の狭い東京のコースでは予選がうまくいけば勝てるチャンスもあると話していた。そして最終ラップまで繰り広げられた激しいバトルによるギュンター選手の劇的な勝利は、フォーミュラEで初めてレースを見たという人をも感動させるものだった。

「東京E-Prix」は3年契約といわれており、今大会の成功をうけて来年はさらに席数や観客数も増えることになるはずだ。エンジン音がないレースなんてつまらないと思い込んでいる人は、ぜひ現地での生観戦をオススメしたい。
 

文/藤野太一 写真/Maserati SpA ABB FIA Formula E World Championship