20年憧れ続けたランドローバー ディフェンダーとの出会いは“偶然”だった。北海道⇔神奈川の往復も満足させてくれるタフな相棒
2023/10/02
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
20年越しで手に入れた憧れの1台
北海道出身の亀谷さんが、20代からずっと恋焦がれていた車がこのランドローバー ディフェンダー。「先輩が北海道の雪の中を滑らせながら乗り回していたのが、カッコ良くてね」と、その無骨なフォルム、音、挙動などすべてに一目ぼれだったそう。
そして、それから20数年たって、ようやく手に入れることができた溺愛の1台だ。
丸目のクラシックな顔、アルミ合金のフラットなカクカクしたボディ。そして、スポット溶接やリベットが多用された接合部など、無骨な雰囲気を醸し出す唯一無二の存在感が魅力。英国では軍用車に採用さていたこともある名車でもある。
その出合いも偶然。4年前にいつもお世話になっている川崎の自動車整備工場から「あったよ!」と連絡があり、見に行って即決したという。ワンオーナーで、しかも超レアなオートマ仕様。新車時にディーラーでマニュアルから換装されていたそうだ。
もし、個人的に後から変えるとなると、工費に100万円以上かかるため購入時の価格はもっと高くなっていたはず。そんな希少な車は、ギアチェンジでガクンとなったりせずフィーリング良好。走行距離も少なく、連絡をくれた工場の人も「こんな車ないよ」と驚くほどの好状態だったという。
大自然を満喫! 北海道と神奈川の往復でも余裕のタフなやつ
納車後に「Feldon Shelter」のルーフテントを装着して、奥さまと2人で北海道へ。「テントを使ってみたかったし、1回コイツで北海道に行きたいって思っていたんだよね」と、その理由は、最初に出合ったときの雪原を走る姿にあった。
「やっぱり雪の中を走りたい! 関東の雪じゃなくて、北海道のさらっさらの雪の中をさ!」と、数年前に道内のあっちこっちにテントを張りながら10日ほど移動。白銀のオフロードを満喫したという。
「雪の中を滑りに行けたのは、まだ1回しかないけれどね。新品のブリザック、いいヤツ履いたのに(笑)。でも、今は嫁と2人で、購入するキャンプ場を探していて。今度、ハスカップ畑を買おうと思ってさ。そこならキャンプもできるし、春夏秋冬泊まりたいじゃん。太陽が昇ってくるところとか見ながら」と想像する顔の目尻はニンマリ下がっていた。
自由気ままでひょうひょうとした人柄の亀谷さんだが、普段は横浜や鎌倉の浄明寺でBarやCafeなどを経営し、多忙な日を過ごす毎日。そんな中、年に1回以上はディフェンダーとともに大洗―苫小牧のフェリーを利用して、地元の北海道と拠点の神奈川をはるばる往復しているそう。
その理由は、経営しているお店に北海道で仕入れた食材を運ぶためと、今後、経営予定のキャンプ場探しのため。冬の帰路はディフェンダーに雪化粧が施され、車内はもちろんルーフの上までビールケースやジビエなど北海道の食材が満載される。
「北海道も年に1回以上は行くし、何千kmも走る。ニセコに寄って旭川に帰って、札幌、余市って道内を走り回るからね。年間だと結構走っていると思うよ。冬は視界が真っ白になって、道路も見えなくなるからめっちゃ疲れるけど、やっぱり運転は楽しいね」
車と映画、そして偶然の再会
苦労して運送してきた、北海道の食材を使ったカレーやピザ、ビールが楽しめるのが、鎌倉の浄明寺にある「INTO THE WILD」。
ネーミングの由来は、映画「INTO THE WILD」からでもあるが、もともとアラスカが好きで将来的に「INTO THE WILD CAMP GROUND」というキャンプ場を作る構想が以前からあったから。さらに将来的には、2階をキャンプ場のサテライトショップとして整備して、キャンプ道具などを販売する構想があるとか。
「コロナ禍で暇だったから、鎌倉の店が先にオープンしたんだよね。あの映画は景色が綺麗で。いつか映画のようにバスも欲しいよね。キッチンカーに改造するのは大変そうだけどさ」
最初の鎌倉とのつながりは、30代で上京して、キッチンカーで鎌倉野菜のスープカレー店を渋谷で始めたとき。
「朝サーフィンして、鎌倉で野菜を買って、渋谷でスープカレーを提供していたんだよ。“このスタイル、カッコいいから北海道のヤツらに言えるな”って思っていたけど、上京したてで都内の渋滞とか知らなかったんだよね。第三京浜を降りて目黒通りでチーンだよ(笑)。昼に間に合わなくて、サーフィンをしている場合じゃなかった」
その頃に、店の前は通り道としてよく利用していたので、以前の店のことも知っていたそう。当時キッチンカーで通っていた道を、10数年たった現在、そこに店を出しディフェンダーで通っている。食材を積んで、鎌倉の山間を駆け抜けるディフェンダーの姿は、すっかり地域に馴染んだ存在だ。
「サーフィンもやるから海岸線を走るのも気持ちいいけれど、海よりも山だよね」と、実は好きなロケーションは緑の中。フロントウインドウ下の換気用フラップを開いて、風を感じながら走るのも昔ながらのディフェンダーの持ち味だ。
「北海道って、山の中をガァ~ッて走っていると、急にパッと景色が開けるのがいいじゃん。それにエアコンはいらないし。でも先月、行ったら暑かった(笑)。こっちの富士山とか山中湖の方もいいけれどね」
ディーゼル特有の低いエンジン音が響くおかげで、後部座席とコミュニケーションが取りづらいのが少々難点。でも、そんな不便なところも許せる魅力がこの車にはいっぱいある。
「乗り心地はいいよね。1人のときも、嫁といるときも。助手席なら会話くらいはできるからさ。それに後部座席は視点が高いから見晴らしがすげぇいい。四角いフロントガラス越しからみる景色は最高。あと、燃費も良くて13Km/Lくらい走っているんじゃないかな? 最初、ぜんぜんメーターが減らないから、壊れていると思ったぐらいだよ」
ポジティブに向き合い、一生付き合う良き相棒
基本のんびりした自然の中を走るのが好きな亀谷さんだが、拠点の神奈川では高速に頼りがち。「スピードが出る車ではないから、違反で捕まることもないしね」と笑うが、実は過去に高速道路で4回トラブルに遭ったという。走行中にバーストを2回経験し、さらに燃料ポンプの配線故障とセルモーターの寿命……。
「そんなときは、だいたい下の方をぶっ叩けば直ったんだけど、どうもダメだった。でも、故障したらパーツが新しくなるから、どんどんグレードアップする。なんかいいよね(笑)。あと調べてみると、どうやら、もっと燃費を良くすることができるらしいんだよ。そこはちょっとパーツを換えることも考えているかな。でも、基本的に、どこもいじりたくないね。あれは一生だよ。色もいいし。高圧洗浄のせいで色が剥げてアルミがむき出しになったり、ナットもさびていいアジが出てきたよね。」
そうやって、ポジティブに向き合うのが亀谷さん流の車との付き合い方。
そして、もちろん移動手段でもあり、仲間や夫婦でワイワイ楽しんだり、1人で走らせリセットする場でもあり、個室のように考え事をしたり……。どんなときも一緒に過ごす相棒のような存在だ。きっと今シーズンも真っ白な北の大地には、荷物の重みによって刻まれた極太のタイヤ跡が延びるだろう。神奈川に向けて、低いディーゼル音を奏でながら。
亀谷康仁さんのマイカーレビュー
ランドローバー ディフェンダー(2代目)
●総走行距離/16万1125km
●年式/2003年
●マイカーの好きなところ/やっぱ顔。軍用っていうけどそれほど無骨でもない
●マイカーの愛すべきダメなところ/後部座席と会話があまりできない。ドア隙間から雨漏りしてちょうど膝あたりに当たるけど、それは眠気防止と思っている
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/自分にとって最後の1台と思って乗る人だよね
ライター
北村康行
ストリートファッション誌の編集者を経て、2007年に独立。雑誌やweb、企業の制作物など、ファッション、モノ、グルメ、アウトドア、インタビューなどジャンルにこだわらず様々なフィールドで活動中。思い出に残るworksは、秋葉原駅の大きな観光案内図。休日は愛車のPEUGEOT Pacific-18で、地元横浜をブラついている。