ニュルブルクリンク▲スポーツカーの聖地、自動車開発の聖地ともいわれるドイツのニュルブルクリンク。全長20km以上にもなる北コースは、荒れた路面や過酷な気象条件などから世界有数の難コースといわれ、多くの自動車メーカーが走行テストを行い、タイムアタックを繰り広げている

ドイツの片田舎に世界中の自動車メーカーが集まる理由

ニュルブルクリンクとはドイツ北西部の田舎町ニュルブルクにあるリンク(=サーキット)のこと。1927年に第1次大戦に敗れたドイツが、国策としてモータースポーツや自動車開発の促進、周辺地域の経済活性化のために建設したものだ。

コースは約5.1kmの「グランプリコース(南コース)」と、コーナー数170以上、高低差は約300m、全長約20.8kmという「ノルドシュライフェ(Nordschleife 北コース)」の2つによって構成されている。ちなみにニュルブルクリンク24時間レースは、この2つを組み合わせた約25kmの特設コースを使って競われる。

南コースは道幅が広くフラットで路面状況もいい一般的なサーキット。一方で北コースは、道幅が狭くエスケープゾーンはほとんどなく、路面はアスファルトだけでなくコンクリートまで使われており、ほとんどがブラインドコーナー。天候の変化が大きいエリアにあって雨や霧も多く、時に雹が降ることもある。その過酷さからついた異名は“グリーンヘル(緑の地獄)”。

この世界有数の難コースを攻略することができれば、優れた車であることの証明になる。ポルシェをはじめとするドイツメーカーが自動車開発を進めるにあたって、この地でラップタイムを計測するようになるのは必然だった。1980年代になると日本のメーカーも開発に利用し始め、マツダ RX-7や日産 GT-Rなどがここで走行テストを繰り返すようになる。近年は、トヨタがCMにニュルブルクリンクでの走行シーンを使うようになり、日本国内での知名度も上がった。
 

ニュルブルクリンク▲ニュルブルクリンクは緑豊かな森の中にあり、北コースはその難易度から“グリーンヘル(緑の地獄)”とも呼ばれる

世界中のメーカーがニュルブルクリンクをひとつの開発目標と位置づけるようになり、ラップタイム争いはどんどん激化していく。そうした中で2015年に冷静さを取り戻すような出来事が起きた。ニュルブルクリンク24時間レースの前哨戦にてGT3マシンがフェンスを飛び込え、観客を巻き込む死亡事故が起きたのだ。

ニュルブルクリンクの名物としてマシンが大きく宙に浮くいわゆるジャンピングスポットがあるが、そこでアクセルを踏みすぎたのが原因だった。年々高性能化するマシンの速さを危ぶむ声がある中での大事故をうけ、その年の24時間レースでは該当区間では速度制限が設けられた。レース後は自動車メーカーがここでのタイムを公表することを禁じる措置が取られた。

こうしてニュルブルクリンクでのタイムアタック戦争は終焉を迎えたかと思いきや、ドイツメーカーがそれを許すはずはない。事故の翌2016年にはジャンピングスポットを抑制するよう路面改修し、フェンスやガードレールの増設を実施。こうしてレースでの速度制限は解除され、ふたたびラップタイムは公表されることとなった。

すると、よりアクセル全開走行区間が増えたコースではラップタイム競争がさらに激化。2017年にランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテが6分52秒01という市販車最速タイムをたたき出したかと思いきや、ポルシェが911 GT2 RSで6分47秒30と記録を更新してみせた。
 

ウラカン ペルフォルマンテ▲ジュネーブモーターショーでの発表に先駆け、2017年3月に行われたニュルブルクリンク・北コースでの走行テストで6分52秒01を記録したウラカン ペルフォルマンテ

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ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ × 全国
911 GT2 RS▲ウラカン ペルフォマンテの記録を更新したのはポルシェ 911 GT2 RS。2017年9月に当時の市販車最速にして歴代911の最速タイムとなる6分47秒30を記録。なお現在の911最速タイムは、スポーツカー部門で1位となる純正オプションのマンタイパフォーマンスキットを装着した911 GT2 RSの6分43秒30

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ポルシェ 911(991型) GT2 RS × 全国

実はこれまでニュルブルクリンクには公式測定値というものがなく、メーカーが独自の方法で計測を行うのが通例となっていた。以前はスタート・ゴール地点なども異なり20.6kmで計測されることが多かったようだ。しかし、2019年にようやくニュルブルクリンクの公式ルールが制定され、それに基づく北コース(20.832km)の公式測定が行われるようになった。正式なスタート/ゴールラインが決められ、公証人が立ち会いのもと、公式計時機器を用い、助走からのフライングスタートによってタイムが計測される。

現在の記録はコンパクトカー、ミッドレンジカー、エグゼクティブカー、SUV/オフロードビークル/ピックアップ、スポーツカー、スーパースポーツカー、モディファイドビークル、プロトタイプ、電気自動車(市販車)の9つのカテゴリーに分類されている。

市販車最速はスーパースポーツカーのメルセデスAMG ONE(6分35秒183)。スポーツカーの上位にはポルシェ GT3 RSやGT3、718ケイマンGT4 RSなどが顔を揃える。
 

AMG ONE▲AMG ONEは、ブランド設立50周年を記念して275台限定で生産されたハイパーカーで、1.6LのV6エンジンと電動ターボ、さらに4つのモーターを組み合わせたパワートレインを搭載した最高出力1000馬力オーバーというモンスターマシン。2022年11月に6分35秒183を記録して市販車における最速モデルとなった
メルセデスAMG GT▲スポーツカー部門の第1位は前述した911 GT2 RSのマンタイパフォーマンスキット装着車。第2位は写真のメルセデス・ベンツのメルセデスAMG GTのブラックシリーズでタイムは6分48秒047と続く。第3位はポルシェ 911 GT3 RS、第4位はポルシェ 911 GT3のマンタイパフォーマンスキット装着車と、スポーツカー部門ではポルシェが圧倒的な強さをみせる

長年、FFモデル最速の座をかけて、バトルを繰り広げてきたルノー メガーヌR.S.とホンダ シビックタイプRでは、メガーヌがもつ7分45秒39という記録を、今年3月シビックタイプRが7分44秒881で塗り替えた。メガーヌR.S.は現行モデルで生産終了となり、次期型メガーヌはEVとしてすでに本国で発表されていることから、このFF最速対決はいったん終止符を打つことになるだろう。

ちなみに2023年5月現在、電気自動車カテゴリーでは、ポルシェ タイカンターボSの7分33秒35が最速タイムとなっている。たとえ電気自動車の時代になろうとも、自動車メーカーのニュルブルクリンクへの挑戦は終わることはなさそうだ。

メガーヌ▲ハイパーカー、スポーツカー以上の盛り上がりをみせたFF最速バトル。スタートラインとフィニッシュラインを同一としたニュルブルクリンク公式のFF最速タイムは、ルノーのメガーヌR.S. トロフィーRが記録した7分45秒39だったが……

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ルノー メガーヌR.S. × 全国
シビックタイプR▲今年4月にホンダ シビックタイプRが、メガーヌR.S. トロフィーRの記録である7分45秒39を上回る7分44秒881をマークしてFF最速の座を奪った

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ホンダ シビックタイプR × 全国
文/藤野太一、写真/アウトモビリ ランボルギーニ、ポルシェジャパン、ホンダ、メルセデス・ベンツ日本、ルノー・ジャポン、NURBURGRING