本橋菜子選手

日本における女子バスケットボールの最高峰であるWリーグ(バスケットボール女子日本リーグ)で闘う、東京都唯一のクラブチーム「東京羽田ヴィッキーズ」。

そのヴィッキーズとプロ契約を結んでいる本橋菜子選手と車との物語。

最初の車は祖母の形見

C3エアクロスSUV

彼女が、チームの司令塔(ポイントガード)として獅子奮迅の活躍をしているのも、そして日本代表として2021年の東京2020オリンピックで銀メダルを獲得したのも、ひとえに本橋選手自身の才能と努力、そして周囲の人々の支えによるものであることは間違いない。

だが、「車」も――微力ではあるのかもしれないが――本橋菜子というアスリートの“支え”になっている可能性はある。
 

C3エアクロスSUV

祖母が遺した日産 マーチに乗っていた。

88歳で亡くなった祖母だったが、87歳で病気が発覚するまでは本当にお元気で、マーチを自分で運転し、どこへでも出かけていった。本橋選手の送迎も買って出てくれ、時には「菜子が初めて使用する練習会場」の下見をしに行ってくれることもあったという。

だが、そんな祖母も残念ながら亡くなり、実家には彼女が愛用していた日産 マーチが――早々に処分してしまうのも忍びないという理由から――残された。

「でも……何でもそうですが、車というのも使っていないとすぐに傷んでいくものですから、祖母のマーチもどんどん状態が悪くなっていきました。で、いろいろな人が『そろそろ潮時かもしれないね』と、つまり祖母のマーチを廃棄することを検討しはじめたのですが――」

本橋選手は「それなら私が乗る!」と宣言した。

車というものに特別な興味はなく、それまでは東京羽田ヴィッキーズの練習会場へも自転車で通っていた。だが、ちょうどその頃から若干遠い体育館が練習会場になることも増えていたため、「車があれば便利だろうな」とは思っていた。

そんなタイミングで「おばあちゃんのマーチをそろそろ処分する」となったとき、本橋選手の心の中に「ならば自分が譲り受けたい」という気持ちが湧き上がったのは、ある種の必然というか当然のことだったのかもしれない。

「おばあちゃんも喜んでくれると思いましたし、実際、母もすごく喜んでくれました。おばあちゃんのマーチに乗ると決めて、本当に良かったと思っています」
 

C3エアクロスSUV

車はオフを支える存在

そして「良かったこと」は、プロバスケットボール選手としての本橋菜子の身にも訪れた。

「試合では上手くいかないことも多いですし、そのたびに落ち込んだりもします。でも車を運転して練習に行ったり、オフの日にちょっと遠出をしてみたりすれば――バスケから心を離すことで“リフレッシュ”できるんですよね。気持ちを切り替えるための装置になるといいますか」

祖母の日産 マーチを譲り受けたから――というのはさすがにこじつけが過ぎるだろうが、いずれにせよ古びたマーチを運転するようになった2018年、本橋菜子選手はクラブチーム所属の選手としてはWリーグ史上初めて日本代表に選出され、同年のFIBA女子バスケットボールW杯に出場。そして翌2019年のFIBA女子アジアカップでMVPとなり、ご存じのとおり2021年には「東京2020オリンピック」にて見事銀メダルを獲得した。

「で、オリンピック銀メダルの記念として、こちらのシトロエンをプレゼントしていただいたんです」
 

C3エアクロスSUV

東京羽田ヴィッキーズのオフィシャルパートナーである大田区の自動車販売会社、東邦自動車が「おらが町の選手」のオリンピックにおける大活躍をねぎらう意味合いで、進呈してくれたのだ。

「実は『もしもマーチに代えて車を買うならアレがいいかな?』と思っていた車もあったんです。でもオフィシャルパートナーの方に『例えばコレなんかいかがですか?』というニュアンスでシトロエン C3エアクロスのカタログを見せていただいた瞬間、ビビビときてしまいまして(笑)、『これでお願いします!』と申し上げちゃいました」

色、フォルム。そしてかわいいが、決して「可愛いすぎる」という感じはない顔つき。まったく存在を知らなかったシトロエン C3エアクロスという車だったが、そのすべてが本橋選手にとって“ドンピシャ”だった。

「以来、祖母のマーチに代わってこのコを使わせてもらっています。最初は、マーチよりもボディが大きいのでちょっと不安だったのですが、ものすごく運転しやすかったので、今はもうぜんぜん平気ですね。そしてシートがとってもイイんですよ。私は腰痛持ちなんですが、この車だと、長い時間運転していても大丈夫なんです」
 

C3エアクロスSUV

相変わらず、試合結果などによっては落ち込むこともある。大学へ進学した際や、社会人になる際に思った「もうバスケットボールは辞めたい」という感情におそわれることはないが、それでも、キツい瞬間は今でもある。

「でも、オフの日にこのシトロエンを運転してお出かけすれば、気持ちをバチッと切り替えることができます。車を運転すること自体もそうですが、『応援してくれる人たちがいる』ということも……本当に大きいんです。今年(22-23 Wリーグ レギュラーシーズン)は残念ながらプレーオフに進出することができませんでしたが、来季こそはベスト8圏内に入れるよう、チームに貢献していきたいですね」

C3エアクロスSUV

シトロエンがやって来たことで、「おばあちゃんのマーチ」は廃車になった。

だが、もしも天国というものがあるのだとしたら、そしてもしも車にも感情があると仮定したならば――おばあちゃんもマーチも、さらなる進化を遂げながら前へと進んだ“菜子”のことを、誇りに思っているに違いない。
 

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伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。

文/伊達軍曹 写真/三浦孝明
撮影協力/大田区総合体育館