スズキ ジムニー

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

サインペインターにとって車は仕事道具のひとつ

ジムニーオーナーの新保さんの職業は「サインペインター」である。日本では馴染みが薄いが、店舗のショーウインドウや看板などに文字やロゴを手描きする仕事である。

PCとプリンターで描かれるのが当たり前になった現代だからこそ、こだわりのある一部の人たちには手描きならではの個性や味が重宝される。新保さんはこれまでカフェやアパレルショップの他、フードトラックや今回の撮影場所である指圧マッサージ店(指圧CAMP)など、様々な店舗でその腕をふるってきた。
 

スズキ ジムニー▲指圧マッサージ店の「指圧CAMP」の店構えは一見おしゃれなカフェやアパレルショップのよう

店舗まで出張してその場で描くことが多いが、時には看板を預かって自宅で作業することもある。サインペインターにとって車は必需品。仕事道具のひとつと言ってもいい。
 

新車だけどアナログなジムニーとの出合い

新保さんがスズキ ジムニーを手に入れたのは約1年半前のこと。

以前からジムニーに興味があり、一度知人から古いモデル(JA11型)を譲ってもらったこともあったが、そちらはすぐに壊れて手放してしまったという。そうした経験も踏まえて今回は新車で購入した。

もともとは「ミディアムグレー」の車体色を狙っていたが、納車まで長く待たされることから「ジャングルグリーン」をチョイスした。

「業務で使うならもっと荷室の大きな車の方が向いているのですが、自宅周辺の道が狭いのと、今どきの車にはないアナログ感に魅かれて購入しました」

ジムニーの荷室には、至るところに錆びが浮いた古いツールケースと、10年来の趣味というスケートボードが無造作に放り込まれていた。前者は戦前のものをネットオークションで落札し、筆などの仕事道具入れとして使っているそうだが、確かにジムニー以上にこれとマッチする現行の軽自動車はないと思う。
 

スズキ ジムニー▲仕事道具を積むことが多いので、後部座席は倒してマットを敷いて使うのが新保さんスタイル
スズキ ジムニー▲こだわりの道具はアメリカから取り寄せているモノも多い

じつはサインペイントは自動車カルチャーとの親和性も高い。とくにカスタムシーンでは、ボディにレタリングやピンストライプ(どちらもサインペイントの仲間)を描くのはポピュラーな手法だ。

もちろん新保さんも車好きであり、購入の際にはルノー カングーなどと随分悩んだようだ。
 

サインペイントとの出合い

新保さんがハンドペインターを志したきっかけは大学時代にキャンピングカーでアメリカ横断の旅をしたことだった。

ロサンゼルスからニューヨークへ向かう道すがらで多くの手描きの看板を目にし、すっかり感化されてしまったという。

そして新保さんは日本に戻るなり技術の習得に励んだ。もっとも日本ではサインペインターの知名度は低く、職業として確立しているわけでもないため、技術は動画サイトなどを参考に独学で学ぶしかなかったという。
 

スズキ ジムニー▲使い込まれながらも丁寧に収納されている筆は、新保さんの仕事に対する姿勢が表れているようだ

技術が上達するに伴って知人や友人からペイントを依頼されるようになる。しばらくは練習の一環としてほぼ無償で引き受けていたものの、サインペインティングはかなりお金のかかるアートだ。

ゴールドリーフ(金箔)で文字を装飾するサインペイント特有の技法はとくにコストが高く、場数を踏んで身に付けようと思ったら職業にするしかなかった。

スズキ ジムニー▲ペイントで使用する金箔は1枚ずつ紙に包まれている

サインペイントは、まず依頼主からデザインや記載情報などの要望を聞き取りし、それを自己流にアレンジしながら「1SHOT」という米国製のエナメル塗料などを使って描いていく。

つまり、新保さんは塗装職人でもありながらデザイナーでもあるのだ。手作業ならではの好ましい「粗さ」をあえて残して描くのが新保さんのスタイルだ。

スズキ ジムニー▲新保さんが金箔を使用してペイントした店舗名。ガラスのペイントは内側から逆文字で描くことが多いとのこと

依頼は首都圏からが多いが、時には福島や群馬といった遠方からの依頼もある。もちろん自宅のある神奈川からジムニーで自走して現地へ向かう。

「やっぱり長距離だと肉体的にはツラいです(笑)。でも、ジムニーって『遊び感』というか、楽しいイメージがあるじゃないですか。だから、仕事の移動でもワクワクした気分で運転できるのが良いですね」
 

スズキ ジムニー▲仕事の移動も気分を上げてくれるジムニーはお気に入り

サインペイントを本格的に始めてまだ4年半ほど。新保さんはまだまだ修行中ですと自戒しつつも、将来の目標について語ってくれた。

「自分のアトリエを構えて活動しつつ、若い子たちにも技術を継承したいと思っています。アメリカのように、サインペインターが多くの人々に職業として認知される土壌を日本にも築きたいです」
 

スズキ ジムニー▲相棒のような存在のジムニーは、新保さんの仕事も遊びも見守っているように感じる

好きなことにまい進していたらいつの間にか生業になっていましたと苦笑する新保さんに、頑固で一本気で遊び心のあるジムニーはとても似合っていた。
 

文/佐藤旅宇、写真/見城了

日産 ラルゴ

新保貴大さんのマイカーレビュー

スズキ ジムニー(現行型)

●年式/2021年式
●年間走行距離/約16,000km
●マイカーの好きなところ/小回りが利いて、おもちゃ感やアウトドア感があるところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/意外と荷物が入らない
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/アウトドア好きや細い道をよく使う人

佐藤旅宇

ライター

佐藤旅宇

オートバイ専門誌や自転車専門誌の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。乗り物系の広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はボルボ C30とカスタムした日産ラルゴの他、トライアンフ スクランブラー(バイク)や、たくさんの自転車。