3台目の愛車に選んだのは、色・形・走りすべてがピッタリだったルノー カングー(初代)
2022/04/20
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
復興応援活動で出会ったカングー
須賀信平さんがルノー カングーという車を初めて体験したのは2011年。東日本大震災が発生した年の夏のことだった。
被災地の復興応援のため東京から友人の車で宮城県気仙沼市に赴いた須賀さんは、石巻市に住む友人Aさんと気仙沼市で落ち合った。その際に、Aさんが所有する初代ルノー カングーの最初期モデルに乗せてもらったのだ。
「Aさんが持っていたのは初期の1.4Lエンジンを積んだカングーでしたが、『すごくいい車だな』と、かなりの感銘を受けたことをよく覚えています」
カングーに対して大いに感銘を受けた須賀さんだったが、しかし東京で日常使いする車は、プジョー 504という1980年式のフランス製セダンであり続けた。今はかなりの高齢となったお母様が若い頃から愛して運転していた個体を譲り受け、買い物などの送迎などに活用していたのだ。
「そんなプジョー 504もさすがに年季が入ってきたせいで、昨年ぐらいから修理工場に入りがちになってしまい、しかもなかなか直らないんですよ。それで、母が計2台も乗り継いだ504に思い入れはあったのですが、“別の車”も考え始めたんです」
プジョー 504の他に初代マツダ ロードスターも所有している須賀さんだったが、さすがに2座式のオープンカーに、高齢のお母様や家族を乗せることはできない。
そんなとき――具体的には昨年夏――石巻のカングー乗り・Aさんと電話で話している最中に「そういえば東京で今、須賀さんが11年前に気に入った『初代カングー』のMTが2台、売りに出てるよ」と、Aさんが教えてくれた。
カラーにグレードそしてMT。すべてがピタリときて増車を即決
2台のうち1台を都内のフランス車専門店までさっそく見に行ってみると――素晴らしい中古車だった。
走行距離は11万kmを超えていたが、ボディカラーは素敵な「マリンブルー」。そしてグレードは、日本ではかなりめずらしい「ジラフォン」だった。
初代ルノー カングーの「ジラフォン」とは、カングーのベーシックグレードである「オーセンティック(黒い樹脂製バンパーを採用する商用車的グレード)」の荷室後端に、長尺物を立てて搭載できる「開閉ルーフ」を装備したグレード。
ちなみに、ジラフォンとはフランス語で「子供のキリン」のこと。実際にジラフォン=子キリンを乗せることはないだろうが、「この車はキリンだって首を出して乗れるんですよ」という意味合いで付けられたグレード名だ。
「本国仕様の開閉ルーフ部分はアクリル製なんですが、試験的に88台だけ輸入された日本仕様のジラフォンは、そこがガラス製のルーフなんですよ。それがいいと思ったし、マリンブルーっていう色も素晴らしい、まさにフレンチブルー。そして私の欲しかったMTでもあり、さらに試乗させてもらったら調子もすこぶるよろしい……ってことで、その場で買うことを決めてしまいました(笑)」
納車整備を経て都内の須賀さん宅に納車されたマリンブルーの初代ルノー カングー ジラフォンは、試乗時に確信したとおりの素晴らしい1台だった。
半年で1万5000km以上。ふと遠回りして帰りたくなってしまう
スペース効率が高く、なおかつ珍しい「ジラフォン」は、後端サンルーフで室内も明るい。
62歳で始めたカヤック。50歳で始め、今も「ツールド三陸」や「ツールド東北」などの自転車イベントで使っている50年前のPeugeot製ロードバイク。そして今も月1回のペースで東日本大震災に関わる復興応援活動を行うため、東北の沿岸地域までともに行く仲間たち――等々を、比較的小ぶりな車である初代カングーは、平気な顔をしてすべてのみ込んでくれる。
だがそれでいて、“走り”もすこぶる気持ちいい。
「とにかくこの車で走るのが楽しくて仕方なくてね。2021年の8月に買ってから半年で、もう1万5000km以上走っちゃいましたよ(笑)」
もちろん、須賀さんのもう1台の愛車である初代ユーノス ロードスターのような走りはできない。だが、どこかロードスターに通じる部分もある「小気味よい走り」を、この四角いフランス車は披露してくれるのだ。
「60歳で一度定年退職となりましたが、そのまま再雇用となって65歳まで働けるんです。でも昨年、64歳になったのを機に完全に退職しました。会社員として約40年、かなり真剣に頑張ってきましたが、これからは自分と家族のために生きよう――と思いましてね」
60歳を過ぎてから「日本語教師」の資格を取った。先日はその関係で知己を得たバングラデシュからの留学生を、京都府北部の福知山までカングーに乗って訪ねに行った。
そして「せっかくここまで来たのだから」ということで、宮津市の「天橋立」や、車関係の友人が住まう滋賀県の彦根市と東北の復興応援活動の仲間がいる大津市も回った。
「で、彦根から名神高速と東名高速で東京まで帰ろうと思ったのですが、ふと『雪が見たいな』と思い、スタッドレスタイヤを履いていたので、かなりの遠回りになりましたが、北陸道から上信越道、中央道経由で雪道のドライブを楽しんで帰ってきましたよ」
そんな行動を「思い立ったが吉日」というニュアンスでできるのは、須賀さんが会社人間であることを辞めたことで「時間ができたから」というのはもちろんある。
だがそれに加えて、マリンブルーのカングー ジラフォンに乗っている時間が「楽しくて楽しくてたまらないから」という根底の事実がない限り、なかなかできることではない。
64歳。人生の”断捨離”の気配は一切なし
高齢となったお母様、プジョー 504という美しいセダンを都合2回も購入したおしゃれな須賀さんのお母様は、昨年夏に初めてカングー ジラフォンを見たときには「宅配業者さんの車みたいで、恥ずかしくて乗れない……」と言ったそうだ。
だが、そんなお母様も今では、初代ルノー カングーという車が根源的に備えている「面白さ」「かわいさ」のようなものを理解してくれているという。
「今年1月に母が骨折しちゃいましてね。その関係で車椅子も載せなくちゃならないんですが、カングーだったら余裕で積載できます。また東北の復興応援活動は、これからも継続していきますよ。私が主宰していた東北応援活動に参加した大学生たちも社会人となりました。彼らと東北を再訪し、応援活動で知り合った方々を訪ねて、お茶っこ(東北地方の言葉でお茶のこと)したりしながら、被災地の方々との絆を大切にして、東北の変化を見続けていきますよ」
そんな須賀さん自身もすでに64歳。いわゆる「人生の断捨離」のようなことを少しずつ始めてみても、決しておかしくはない年頃だろう。
だが、須賀さんの日々に“断捨離”の気配は一切ない。
会社員時代から「やってみたい」と思っていたことと、「これから始めてみたい」と思うことは山ほどあり、そして、それらの夢をアシストしてくれる初代ルノー カングー ジラフォンという“最高の相棒”が、常に須賀さんの傍らにいるからだ。
須賀信平さんのマイカーレビュー
ルノー カングー(初代)
●グレード/ジラフォン (Authentique)
●年間走行距離/購入後約6ヵ月ですが1万5000kmほど走りました
●マイカーの好きなところ/マリーンブルーのボディカラー、信頼性(マニュアルミッション、手動ウインドウへの改造、リア観音開きドアへの鍵の設置)
●マイカーの愛すべきダメなところ/見栄えしなくて質実剛健なところ!?
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/小さなお子さんのいるご家族。この車は、家族の楽しい思い出をたくさんつくってくれるでしょう。
インタビュアー
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。