車中泊でカメラ旅をともにする2シリーズクーペ
2021/12/25
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
欲しかった「自分の車」
大学生の身分でビーエム(BMW)に乗っている――と聞けば、多くの人は「あ、親御さんに買ってもらったわけですね」と思うのかもしれない。
だが、東京都に住まう理工学部の大学生、河合航世さんの2014年式BMW 220iは、正真正銘「河合さんが買った、河合さんの車」だ。アルバイトで稼いだお金で、毎月4万円のローンを返済している。
「とはいえ、信販会社や銀行などでローンを組んだわけではなく、“おばあちゃんローン”なんです。まだ学生なのでとりあえず祖母にいったんお金を出してもらい、僕から祖母に毎月4万円ずつ返すという形にしています」
世の中には「肉親ならではの甘え」みたいなものは確実にあり、ましてや「おばあちゃん」から見れば、かわいい孫のことである。仮に河合さんが返済を怠ったり停止したとしても、おそらくお祖母さまは何も言わないのではないかと、筆者としては勝手に推測する。
だが――。
「祖母への返済を怠ったことはこれまで1回もありませんし、今後も怠るつもりはありません。信販会社に借りようが祖母に借りようが、『絶対に返さなければいけない』というのは同じことですし。……そしてそもそも、僕は“僕自身の車”が欲しかったんです。誰かに買ってもらった何かではなく、自分のお金で、自分で手をかけながら乗る――みたいな、そんな車が欲しかったんです」
愛車との出会いはアルバイト先
子供の頃から車が好きだった。中学生の頃には漫画『頭文字D』に熱中し、18歳になって免許を取ったら頭文字Dに登場するような車――いわゆるAE86のトレノやマツダのFD(RX-7)、初代ホンダ NSXなどの「リトラクタブルヘッドライトの国産スポーツ」に乗りたいと思っていた。
だが、いざ河合さんが運転免許を取得できるぐらいの年齢になると、それら「国産リトラクタブルヘッドライターズ」の相場は、かなりの水準まで高騰してしまっていた。
「どうしたものか……」と悩んでいた河合さんに、車と同じく少年時代から大好きな対象だった「カメラ」の仲間が、「往年の国産スポーツもいいけど、ドイツ車もいいよ!」と河合さんに“布教”してきた。
「どれどれ……」とばかりに何台かのドイツ車について調べてみると、なるほど確かに良さそうだ。『頭文字D』に登場してもおかしくないような「比較的小ぶりでスポーティなFR車」もあった。
「そして、どうせなら勤務先で買わせていただきたいと思い、BMWに決めたんです。」
お伝えするのが遅くなったが、河合さんが学業のかたわらアルバイトをしている先は某BMW正規ディーラーの中古車部門だ。そこで週に何日か、物件写真の撮影をしたり、物件スペックの入力などをしている。「どうせ働くなら、大好きな車に関わる仕事がしたい」ということで、なんとか潜り込ませてもらったバイト先であるという。
当初は先代BMW 1シリーズのMスポーツを買うつもりだった。だが、それが一般顧客に売れてしまったため、しばらくして入庫してきた「2シリーズクーペ」に決めた。走行距離は6.1万kmとそこそこ延びていたが、その分だけ価格は手頃だった。
車中泊もできちゃう撮影に欠かせない相棒
「おばあちゃんローン」ではあるものの、実質的には河合さん自身のお金で手に入れた(というか返済を続けている)2014年式BMW 220i。それは今、なぜか「車中泊」のために使われることも多い。
「もちろん普通に“楽しむため”に乗ることも多いですし、アルバイト先への通勤手段としてや、スポンサー(笑)である祖母をあちこちにお連れするためにも使っています。しかし、車と同様に打ち込んでいる『風景写真の撮影』のために2シリーズで遠方まで行き、前乗りした撮影地で車中泊しちゃうことも多いんですよね」
「サーファーや釣り人などもそうだが、どうせ超早朝から現地で活動を開始するのであれば、前の日の夜には現地入りしてしまい、車の中で仮眠をとり、そして日の出とともに活動をスタートさせる――という人は多い。
河合さんも同様に2シリーズで車中泊を行うことで、未明から日の出頃にかけての美しい光を逃さないようにしているのだ。
「もちろんお金がないから車中泊をしてるって理由もありますが(笑)、風景写真を撮りたくなる場所ってたいてい山奥の方で、近くに宿がない場合も多い。そのため、なんだかんだで車中泊の方が便利なんですよね」
そしてBMW 2シリーズクーペという、『頭文字D』に拓海の好敵手が乗る車として登場しても決して不思議ではないFRのスポーティクーペは、意外にも「車中泊向きの車」でもあった。
購入翌月には友人2人と計3人で東京から名古屋、岡山、広島、福岡、長崎、熊本、そして大分へと向かうグランドツーリングを敢行したが、道中はすべて「2シリーズクーペが宿」だった。
「2シリーズクーペはこう見えて後席も荷室もすごく広いので、後部座席を倒して、荷室に常に積んでいる車中泊用のマットを敷けば、男3人でも割と普通に寝られるんですよ」
BMW AGが言うところの「駆けぬける歓び」も、当然ながら大好きだ。だが、気のおけない友人やカメラ仲間を乗せてのんびりと走り、そして夜に星を見上げ、朝には太陽の光を浴びる――という時間も、このうえなく愛している。
「車で過ごす時間って不思議というか、他の何にも似てないですよね。風景写真を撮りに行く際の時間も素敵だし、毎朝エンジンをかけ、祖母を送っていく時間も、実は大好きなんです。そして自分ひとりで乗っている時間も好きだし、車仲間で集まって楽しいひとときを過ごした後、別れて1人きりになったときの寂しさすらも……なんか、いいんですよ」
購入時は、リセールバリューが極端に落ちる走行10万kmを迎える前までには、このBMW 220iを売却するつもりでいた。
だが今は、本当に修理不能となるその瞬間までは、乗り続けるつもりだ。
河合航世さんのマイカーレビュー
BMW 2シリーズクーペ(現行型)
●走行距離/75,000km
●マイカーの好きなところ/クーペならではのスタイルの良さと4人乗れるところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/燃料タンクが少ない
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/2ドアクーペに乗りたいが人も荷物も載せたい人
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。