フィアット パンダ▲今回のテーマである初代フィアット パンダ。生産期間は1980~1999年までと長い。空力や燃費性能を重んじる現代では再現できない、四角いデザインは巨匠ジョルジェット・ジウジアーロが手がけている。新車時価格はおよそ140万~210万円で、今の中古車相場は130万~140万円……。驚くべき事実である

自動車、中古車の世界で疑問に感じることを、自動車評論家の小沢コージが検証するこのコーナー。今回のテーマは異常な中古車相場を形成しているフィアット パンダの謎。フェラーリやポルシェなら話はわかるが、一般的な、いわゆる大衆車なのに相場は30年以上経っても新車と同じという……。この不思議な現象について調べてみた。
 

初代パンダの値段がバブル期以上になっている

「ハンパじゃないです。ちょっとおかしいですね。すでに中古車相場はバブルの時以上だと思いますよ」

そう言うのはイタリア、フランス系に強いコレツィオーネの成瀬社長。コロナや半導体不足から始まった輸入中古車の相場高騰だが、遂にベーシックコンパクトである初代フィアット パンダにまで広がっていたのだ。

「去年まで70万~80万円で売られていたパンダが、今130万~140万円はします。とにかく全般的に中古車が高い。バブルの頃はパンダの中でも人気が高い特定のグレードが値上がりしていましたが、今回はすべてのグレードです。そもそも物件そのものが全然ないですよね」

問題の根本には、コロナによる半導体不足、もしくはそれが原因で新車が生産停止になっていることにあるのだが、それ以外にも要因はあると成瀬さんは指摘する。

「今までさほど高くなかったヤングタイマーと呼ばれる車の相場が上がっています。ちょうど1980~90年代のモデルですね。このパンダもそうですし、アルファロメオのスパイダーヴェローチェなんかもそうです」

両車に共通するのは、今じゃ絶対に作れないある種のレトロな味わいだ。スパイダーヴェローチェの細いピラーやきゃしゃな作りはもちろん、パンダのようなシンプルなハッチバックもそう。そういえば昔、同じくラテン系中古車に強いエーゼットオート横浜の小玉武彦さんも、「今、パンダみたいな四角い車はもう作れないじゃないですか。そのデザインはアイコン化していて、ユニクロのCMにも使われていましたからね。ある種、ファッションアイテムになりつつあるんだと思います」と話してくれた。
 

フィアット パンダ▲初代パンダが今でも愛される理由のひとつがサイズ感。新型車がどんどん大きくなる中、パンダのサイズは全長3410×全幅1510×全高1490mmでホイールベースは2170mm、車重は770kgほどだ。街中で足として使うにはもってこいのサイズで、小回りも利く。それでいてちゃんと実用的……、優秀な車である
フィアット パンダ▲パワーステアリング、パワーウインドウ、エアコンと、現代に必要な最低限の装備を有するパンダ。逆に言うと、それ以外をいっさいもち合わせていないシンプルさがパンダの魅力でもある。このインテリアを「何もない」「ショボい」ではなく、「素敵」と感じる人が常に一定以上いるからこその人気なのだろう
 

古い車の楽しみ方が変わりつつあるのかもしれない。

成瀬社長も、同様の分析をしている。

「YouTubeの影響もありますよね。芸人さんが古い欧州コンパクトに乗っている動画を出したりしていますから。オピニオンリーダーが古いチンク(2代目フィアット 500)を買ってたりしていますし」

ちなみに、パンダの人気を左右するのは年式以上に程度だという。

「パンダの場合、中古車として流通しているのは90年代製が多いのですが、走行距離20万kmとかはザラです。もはや距離とかは関係ないんです。多くの方が気にされるのは車両のコンディションです。パンダという車は、エンジンまわりに関してはパーツもまだまだメーカーから出ますし、雨漏りなどの問題が出やすいダブルサンルーフや、消耗が気になるシートなんかも布を張り替えれば簡単にキレイに仕上がるんです。車をコロコロ乗り替えるというより、愛着がもてるものを長く乗る。そんな時代に入ったのかもしれませんね」

グレード的にはFFも4WDもともに人気だそうだが、購入するときに気をつけるべきはミッション。セレクタという無段階変速機モデルがあるが「ベルトがないので買う際には注意が必要です。やはりMTがオススメですね」とか。

この現象、きっかけはコロナや半導体かもしれないが、ひょっとするとかつてのヤングタイマーたちが、立派なクラシックカーとして認識され始めているのかもしれない。

フィアット パンダ▲シートもインテリアデザイン同様、とにかくシンプル。「薄い」「硬い」ではなく「これで十分」と思える点がパンダの武器。その作りはまさに実用性を突き詰めたものなのである。といっても、座ると意外と柔らかくて、気持ちが良かったりする。さすがシートに定評のあるラテン系の車だ
フィアット パンダ▲後部座席はもはやベンチみたいでむしろ潔い。後ろに人を乗せての長距離ドライブは厳しいが、たまに人を乗せるエマージェンシー用と割り切るなら問題はない。ようは使い方と合致するかどうかである。シートが薄い分、倒したときには荷室を広く使えるメリットもある
フィアット パンダ▲パンダは販売期間が長いため、エンジンの種類は複数ある。登場時は850~950ccのOHV、1980年代後半から769~999ccの4気筒SOHCエンジンとなり、中古車として流通している多くは後者となっている。駆動方式は2WD、4WDがあり、MTの他にCVTであるセレクトも設定されていた

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フィアット パンダ(初代)× 全国 × MT

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文/小沢コージ 写真/編集部