老舗純喫茶『チェリー』を、オーナーとともに裏方から支える三菱 コルト
2022/01/02
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
老舗喫茶店を裏方で支える小さな働き者
「昭和40年代ごろまで、この辺りは映画館や喫茶店がたくさんあってね」そう目を細めて昔を懐かしむのは、蒲田駅近くにある喫茶店「チェリー」のオーナー、指田宏明さん。
戦前から蒲田で酒屋を営んでいた家柄に生まれ、昭和35年にチェリーを開業。それから現在まで、約60年にわたり、移り変わる街の姿を見つめてきた。
かつて蒲田に無数にあった喫茶店の中で、今日まで営業を続けているのはチェリーだけだという。名物は、分厚いパンケーキと巨大なプリンアラモード。店内にはシャンデリアがぶら下がり、壁にはロートレックの絵画。いわゆる純喫茶である。
指田さんはすでに一線は退いたものの、82歳になる現在でもお客さんからオーダーを取ったり、コーヒーを入れたりとお店の「顔」として毎日お店に出ている。
そして、車の運転は現役バリバリだ。週1~2回の頻度で愛車、三菱 コルトのステアリングを握り、スーパーやひいきの八百屋などへ食材の買い出しに出かける。
いまは基本的に近距離の移動のみなので、15年ほど前に新車で購入したコルトの走行距離は、まだ3万㎞にも満たない。のんびりと着実にオドメーターは距離を刻んでいる。
「古い車なので乗り替えを考えることもあるんだけど、いつも面倒を見てくれているメカニックの人は、まだまだ大丈夫っていうのでね。あと、妻が気に入っているので乗り替えられないんですよ。私はこれじゃないと運転できないってね(笑)」
コルトのコンパクトな車体は、蒲田周辺の入り組んだ道でも取り回しやすく、ハッチバックらしくラゲージスペースも広々。これまで大きなトラブルは一度もなく、いつも忠実に役割を果たしてくれた。
指田さんは、車種に強いこだわりをもつタイプではない。だが、1台をこんなに長く愛用することになった。その大きな理由は、コルトの優れた実用性にあった。
常連客のセールスマンから車を購入、時折ゴルフもコルトと楽しむ
チェリーがオープンしたのは、高度経済成長期の真っ只中である。庶民にとって、まだまだ自家用車は高根の花だった時代だ。指田さんは、商売で使うこともあって早くから車を所有していたという。
最初に手に入れた愛車は、たしか日産のバンだったと述懐する。その当時、チェリーのような純喫茶でランチ営業を行っているところは珍しく、周辺の会社に勤めるサラリーマンたちで、お店は大いに繁盛したそうな。
「お客さんの中には、近所の自動車ディーラーのセールスや、整備工場でメカニックをやられている方もいらっしゃいました」
そうした常連客との縁で、車を買うこともあったという。現在のコルト、そしてその前に乗っていたトヨタ クラウンは、常連客だったディーラーのセールスから購入したものだ。
ちなみに指田さんは、車についてあれこれ聞きまくる我々取材スタッフを、途中まで車のセールスと勘違いしていたらしい(笑)。こちらの伝達不足といえばそれまでだが、これまでも同じような状況が度々あったのだろうと、容易に想像できる出来事だった。
車に運転したいがためだけに出かけるほどの車好きではないが、指田さんの暮らしには常に車の姿があった。クラウンに乗っているときは、頻繁にゴルフ場へも行っていたという。
「友達もみんな年を取ったからね。一緒にゴルフを楽しめる友人は少なくなってしまったけど、今でもたまにゴルフバッグを積んで出かけることがありますよ」
バブル経済の崩壊以後は、経営の厳しい時期もあったそうだが、最近は昭和レトロブームも手伝って、老若男女問わずたくさんのお客さんで賑わっているチェリー。今日も朝8時半から夜8時まで、指田さんとコルトは、老舗の看板を裏方からしっかり支えている。
ライター
佐藤旅宇
オートバイ専門誌『MOTO NAVI』 、自転車専門誌『BICYCLE NAVI』の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。様々なジャンルの広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はスズキ ジムニー(81年式)とスズキ グランドエスクードの他、バイク2台とたくさんの自転車。