フェラーリのために作った、専用ガレージのある家【EDGE HOUSE】
2021/10/31
18歳から始めた"フェラーリ貯金"で手に入れた黄色いF355。そんな大切な愛車を収めるガレージハウスを建てるため、施主は5年にわたって、建築家と言葉を交わし続けた。建築家から提案されたのは、F355専用のガレージを備えた戸建てだが、最も重視されたのは家族の暮らしやすさだった。
リビングからはリアビュー、和室からはサイドビューを望む
前後のフードを大きく開けたフェラーリ365BB。18歳の時、地元でその姿に目を奪われたのが、施主のOさんがフェラーリ貯金を始めたきっかけだった。「それまでフェラーリというと"赤いF1マシン"くらいしか知識がなかったので『何だ、この車は!?』と慌てて本屋へ駆け込みました」とOさん。手に入れた清水草一氏の著書で、ようやくそれが365BBであることを知ったのだという。
この日から生活費を切り詰め、25歳の時に現在の愛車、F355を手に入れた。「清水さんの著書によく登場する横浜のお店で買いました。契約した帰りの新幹線の中で聴いていたラジオから、サッカーワールドカップで日本がゴールしたと、アナウンサーの絶叫が響いていたことを覚えています」その後結婚し、家を建てることを考えたOさん。ハウスメーカーや工務店を回った結果、依頼したのは建築家の花田順さんだった。
お互い車が好きで話が合うこともさることながら、「生活動線をしっかり考えてくれた」という理由が最も大きいという。「やはり家は人間がメイン。デザインが良いだけでなく、奥さんが料理しやすいとか、そういうことが大事だと思っていました」。
そんな奥さま思いのOさんは、家を建てるまで、花田さんと5年以上もやりとりを交わした。その間、花田さんはこんなリビングはどうかとか、具体的なプランの話は一切しなかった。「多くの施主は家に対して並々ならぬ思いをお持ちです。それを言葉で説明するのは難しい」と花田さん。だから言葉にならぬ思いを、何気ない会話の中から集めて積み重ね、施主にとっての理想像を探るのが花田さんのやり方だ。施主と5年以上のお付き合いになることはよくあるという。
機が熟したのは2017年頃。あなたが求めていたのはこういう家でしょ? というように花田さんは初めてプランを提案した。それはF355と、生活用の車のガレージを分けたプラン。花田さんは、Oさんの奥さまに対しては「F355をオブジェとして見れば相当高価です。これを飾らないのはもったいない」と伝えた。
するとF355を購入するまでの経緯や、夫が自分のために間取りを重視していることを察していた奥さまも快諾したという。F355用のガレージを奥さまは「フィギュアケース」と呼ぶ。リビングや和室から愛車をのぞけるが、室内と直接出入りできるようにしなかった理由を花田さんは「わざわざ玄関から出て、扉を両手で開けることがフェラーリに乗る所作になる、という思いからです」。
念願の愛車と家を手に入れ、1度は燃え尽き症候群になったというOさんだが、つい最近「1度で良いから新車のフェラーリを買ってみたい」という新たな目標を見つけたという。奥さまの了解も得て、Oさんは人生2度目のフェラーリ貯金に挑んでいる。
■所在地:秋田県南秋田郡
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:625.0㎡(約189.06坪)
■建築面積:238.56㎡(約72.16坪)
■延床面積:246.81㎡(約40.2坪)
■設計:花田 順+花田直子(花田設計事務所)
■TEL:018-823-2417
※カーセンサーEDGE 2021年12月号(2021年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています