日産 ラルゴ

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

免許を取得してすぐ、思い出の車を愛車に

菅原恵那さんにとって車とはW30型ラルゴのことであり、ラルゴと過ごす時間が恵那さんのカーライフのすべてである。

96年式の日産 ラルゴを手に入れたのは2015年のこと。専用エアロパーツやボディストライプなどを標準装備した「ハイウェイスター」だ。ボディは遠目からでもひと目で分かるほどピカピカに磨き上げられている。20代半ばの女性が所有する車としてはかなり渋いチョイスだが……。

「昔、父が同じ型のラルゴに乗っていたんです。私が生まれたのを機に新車を購入したみたいで」

ミニバンが現代のように一般的ではなかった90年代当時、ラルゴはそれまでのセダンに代わる新しいファミリーカーとして人気を集めた。恵那さんの家庭でも幼稚園の送迎から家族旅行まで、ラルゴは様々なシーンで活躍したという。物心ついたときから一緒に過ごしていた恵那さんにとってラルゴは家族の一員であり、特別な存在だった。

しかし、車の寿命は人よりもずっとはかない。恵那さんが中学生になると同時に菅原家のファミリーカーは新車のC25型の日産 セレナへと入れ替わった。まだ幼い恵那さんの心中は、新しい車がやってくる喜びより、慣れ親しんだラルゴとお別れてしまう寂しさでいっぱいだったという。

日産 ラルゴ
日産 ラルゴ

そんな恵那さんが再びラルゴと巡り合ったのは、車の免許を取得してすぐのこと。通勤用に車が必要になり、ふと思い出のラルゴの中古車を探してみたのだ。すでに生産終了から約20年が経過していたが、運よく状態の良いハイウェイスターを見つけた。

「購入してすぐボディにガラスコーティングをかけたら見違えるぐらい綺麗になって感激したんです。古い車でも愛情をかければちゃんと応えてくれるんだと、もともと好きだったラルゴがさらに好きになりました」

ガソリンはシェルのハイオク。オイルは3000~5000㎞ごとに必ず交換。整備はディーラー。安全運転はもちろんのこと、走行中は耳をそばだててわずかな異音も聞き逃さない。自分で整備はできない代わりに可能な限りの気遣いをしていると恵那さん。

信号無視の車にぶつけられてしまうという大きな不運に見舞われこそしたものの、購入してからこれまで走行中にメカトラブルが発生したことは一度もないという。

日産 ラルゴ▲運転中は手が滑らないよう、必ずドライビンググローブを着用する。恵那さんのお母さんが家のラルゴを運転するときには、いつもそうしていたのに影響されたとのこと。シューズも、運転時にはペダルを操作しやすいスニーカーに履き替える

SNSでラルゴオーナーのネットワークを構築!

さらに、恵那さんはSNSを活用して全国のラルゴオーナーたちに声をかけ、独自のネットワークも築いている。じつは筆者も同型のラルゴを所有しているが、愛車の写真をSNSにアップしたらすぐさま恵那さんからコンタクトがあって、その行動力に驚いた。

ラルゴのような旧車は絶版となってしまったパーツも多く、先輩オーナーの知見に基づくリアルな情報は何よりも心強い。恵那さんの愛車には当時のものの貴重なカスタムパーツが多数取り付けられているが、これもオーナー同士の交流を通じて入手したものだ。

現在、恵那さんは自動車関連の会社に勤めている。ラルゴを維持するのに役立つかもしれないという思いから転職したのだという。まさに、ラルゴに人生を捧げていると言っても過言ではないだろう。

日産 ラルゴ▲恵那さんが立ち上げたオーナーズクラブのステッカー
日産 ラルゴ▲グリルはインパル製のメッキタイプのものを装着しているが、気分に応じて純正の前期タイプや後期タイプに交換することもある
日産 ラルゴ▲純正の14インチホイールからAME製の17インチアルミホイールにインチアップ。現在では入手困難なラルゴ用のものだ。隙間から除くキャリパーとキャリパーカバーは塗装屋さんに持ち込んで自分のイメージカラーであるピンクにペイントしてもらった。パールの入れ方にもこだわって調合したオリジナルカラーだという
日産 ラルゴ▲ラルゴの車体色を確認するためのカラーサンプル。当時、ディーラーにあったものと思われるが、いまではコレクターズアイテムである

喜怒哀楽をすべてともにする恋人

ラルゴの魅力はルックス、そして「音」だと恵那さんは言う。

「いまの車は全体的に静かじゃないですか。CVTだとそんなに回転数が上がることもないですし。ラルゴで加速すると『グワーン』ってエンジンの音がちゃんと聞こえる。運転している実感があって楽しいんです」

ラルゴは座席の直下にエンジンを搭載するキャブオーバー型のFR車。したがって、FFレイアウトを採用する現代のミニバンに比べると明らかに車内が騒々しい。乗員を快適に輸送するというミニバン本来の目的からすれば欠点かもしれないが、恵那さんのように愛情の対象としてならそれも美点だ。エンジン音や排気音は愛車が発する美声なのだ。

現在、ホイールやマフラー、サスペンションなどをカスタムしているが、元の純正部品もすべて大事に保管してある。それどころか、消耗して使えなくなった部品まですべてストックしているという。「この子の身体の一部なので捨てられない」と恵那さん。

週末はオフ会に出かけたり、一眼レフカメラで愛車の撮影をしたり、お気に入りの海岸でラルゴを止め、車内で昼寝をしたりして過ごすのが楽しみだという。

ラルゴを運転すればイライラした気分も落ち着く反面、ラルゴの調子が悪いと恵那さんの気分もどうしたって優れない。ラルゴは喜怒哀楽をすべてともにする恋人ですと恵那さんは笑った。

日産 ラルゴ▲かつてファミリーカーだったラルゴ「グランドスター」と、現在所有する「ハイウェイスター」の写真がプリントされたスマホケース
日産 ラルゴ▲恵那さんと筆者のラルゴを並べて記念撮影。近年は中古市場でも現存数が激減しているラルゴ。お互い大事に乗っていきたいものです
文/佐藤旅宇、写真/高柳 健

日産 ラルゴ

菅原恵那さんのマイカーレビュー

日産 ラルゴ(初代)

●年式/1996年式
●グレード/ハイウェイスター
●購入金額/約40万円
●年間走行距離/約10,000km
●マイカーの好きなところ/顔(ウインカーがほっぺに見える)、丸みを帯びたフォルム、エンジン音や排気音
●マイカーの愛すべきダメなところ/なし。強いて言えば純正ホイールがミニバンらしからぬ14インチ、4穴なところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/ミニバンでもスポーティな走りを求める人。マルチリンクサスでしっかり走ります

佐藤旅宇

ライター

佐藤旅宇

オートバイ専門誌『MOTO NAVI』 、自転車専門誌『BICYCLE NAVI』の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。様々なジャンルの広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はスズキ ジムニー(81年式)と日産 ラルゴの他、バイク2台とたくさんの自転車。