F邸 フェラーリ

光溢れる白いエントランスとフェラーリが集うガレージ

希少なフェラーリが何台も置かれていた白いガレージは、美しさと実用性を兼ね備えた空間。木造住宅とは思えないほど開放的であり、訪れた人を非日常的な世界へと誘い込む。

色と素材にこだわることで落ち着きのある空間を創造

居心地のよさは、寺島さんが「江戸カラー」と表現する天然色で構築された空間がもたらす。

「作られた色ではなく、自然の色なのです。日本独自の繊細な色合い、たとえば江戸紫や漆など、日本は昔から色の文化は発達していました」

と、寺島さん。たとえばリビングルームの自然色を生かしたフロアは、経年変化とともに味のある色合いへと変化する。キッチンシンクの天板には、ジンバブエから運んだ“ベルファースト”と呼ばれる一枚の天然石を採用。それにマホガニーが組み合わされることで、アイランドタイプのシンクが、リビングルームの中で重厚感と深みのある存在感を放つ。吟味した本物の素材を用い、それらは年月を経るにしたがって住む人の色に染められていく。それがさらなる居心地のよさを生み、愛着が深まっていくのだろう。

「30~50年後の変化を考慮して設計しなければならないんです」

細部を拝見すると、寺島さんの言葉ひとつひとつが素直に共感できる。

さて、施主はこの邸宅を建てるにあたり、土地の選択から始めた。その条件は、(1)富士スピードウェイをホームコースとしているため、東名高速道路までのアクセスがよいこと、(2)サーキット専用車は大型の積載車で運ぶため、道路の幅員が広いこと、というふたつ。

周辺は東京でも屈指の高級住宅街。F40は出し入れするだけでも近所迷惑なのでは…?

「F40で出かけたときは、いったん自宅前をゆっくり通過しながらリモコンでガレージのシャッターを開け、周辺をひと回りして戻り、アタマから素早く入れるんです」

と、F40ならではの「儀式」が欠かせない。また、ガレージにはリフトが設けられており、ご自身でメンテナンスもされるのかと思いきや、「サーキット用のクルマは車高が低く、専用の積載車でもギリギリです。そこでクルマをリフトに載せ、積載車のレベルに合わせて積むんです」

とのこと。趣味にはとことんこだわる施主らしいアイテムだ。F40のためにも積載車のためにも、ガレージは入口も含めて広い空間が求められるということも頷ける。

改めてガレージを見渡すと、これだけ広いにも関わらず、柱がない。「ガレージは、9m×11mというスペースです。木造3階建ての場合は、2台分のスペースでも柱が必要となりますが、ここの場合は徹底した構造計算によるSE構法とすることでこのような空間を実現しました」

と、寺島さん。“シンプルモダン”をコンセプトとする1階が、クールでありながら温かみを感じさせるのは、木造建築がもたらすもの。無機質で殺風景になりがちなガレージが美術館の一画のように感じたのも、このあたりに理由があるのかもしれない。もちろん、それぞれ個性をもつ複数のフェラーリが、彩りに花を添えていることはいうまでもない。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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2階中央に設けられた本格的な茶室。ガレージの真上にあり、エントランスからその部屋を覗くこともできるが、モダンな作りのなかに違和感なく収まっている

3階のリビングに隣接した中間階。リビングとガラスで仕切られているのが特徴的。そこにはグランドピアノが置かれている

F邸
建築家・寺島 茂
テラジマアーキテクツ tel.0120-20-5431
http://www.terajima.co.jp/

所在地:東京都世田谷区 
主要用途:専用住宅 
家族構成:夫婦+子供2人
構造:SE-GOフレーム構法(重量木骨ラーメン構造)
規模:地上3階建 
敷地面積:203.04㎡ 延床面積:314.83㎡
設計・監理:テラジマアーキテクツ/寺島 茂