▲毎年恒例、イッキ乗り試乗会。雪の降り積もる北海道千歳市で行われた ▲毎年恒例、イッキ乗り試乗会。雪の降り積もる北海道千歳市で行われた

今年も開催! 雪上試乗会

年次改良されたスバルのAWDの性能を試す試乗会が北海道で開催された。昨年と同様のコースであるが、今年は雪が多く、様々なモデルの持ち味を確かめられるということで、いっそう楽しみに参加した。

歴史を知るほど感慨深い、スバルのAWD性能

思い起こせばスバルという自動車メーカーが存続しているのは、雪上を走り回るモデルを造ったからこそといってもよい。試乗の感想に入る前に、その歴史を少しだけ振り返っておきたい。

スバルが四輪駆動を本格的に開発し始めたのは1971年。これは、フルタイム4WDの先駆者と言われるアウディ クワトロが世の中に出る前の話だ。キッカケは東北電力からの要請だったという。

当時は、AWDという昨今のスマートな呼び名と違って、“どんな道でも走破する四輪駆動”というワイルドなイメージが根強い時代だった。四輪駆動=ジープやランクルのような「極限のタフさ」が主流。そんな四輪駆動車で冬の雪深い林道を走り回っていた東北電力は、燃費と乗り心地の悪さでドライバーが疲れてしまうことが悩みの種だった。そこで求められたのが「小型で乗り心地と燃費の良い」四輪駆動車であった。

要望を受けたのは、宮城スバル。本社には、市場の動向など未知数な部分が多いからという理由で受けてもらえなかったそうだ。しかし、宮城スバルは、何とか自分たちだけで試作車を造った。メーカーと比べると設備が不十分な修理工場にも関わらず、無理難題を可能にしたのだ。彼らは、リアデフとドライブシャフトを日産 ブルーバードのコンポーネントで組み付けて完成させた。そうして試行錯誤を重ねた結果、素晴らしい性能になった。今見ても、稠密なメカニズムの車だ。そして、これが今のAWDの原点である。

スバル最初の四輪駆動車がバンなのは、こういった背景があったからだ。だからこそワゴン系のハッチバックモデルに力を入れる理由は分からないでもない。

その後、フルタイム4WDの発売に至ったのが1986年。こうして、スポーティなAWDと、少々の積雪であれば難なく走破可能なモデルをすみ分けて作りだし、今日に至っているのだ。

中でも傑作は、アメリカで初めに発売したレガシィ アウトバックであろう。最低地上高が高くラフな走行にも耐えた。アウディのオールロードクワトロは間違いなくこれを模しただろう。

▲技術者たちの努力と熱意があってこその今。無理難題を可能にした宮城スバルには、感謝しなければならない ▲技術者たちの努力と熱意があってこその今。無理難題を可能にした宮城スバルには、感謝しなければならない

最新の四駆性能は、いかに?

さて、このような歴史を踏まえつつ、現行のAWD性能を見ていこう。現在では、走破性が高いモデルとしてレガシィ アウトバックとフォレスターがある。どちらも同じように感じるかもしれないが、雪深い悪路ではそれぞれのキャラクターによる性能の違いが明確だった。

まずレガシィ アウトバックは、レガシィとは比べ物にならない走破性だ。最低地上高の高さが優位である。背が高いので見晴らしも良い。どこでも難なくクリアする。ラフロードでも優位であるがグランドワゴンとしての一般道で不安のないセッティングのせいか、ストロークには制限がある。また、ブレーキをコントロールしながら滑った路面に動力を与える、装置は細かく制御されていた。『ブブッブブッ』というブレーキ制御音で、路面の状況をドライバーに教える役割があるという。

▲レガシィ アウトバック Limited ▲レガシィ アウトバック Limited

フォレスターの走破性にも目を見張るモノがある。制御は、アウトバック以上に細やかな印象だ。ストロークもたっぷりあり、トラクションを積極的に捉えようとする。乗り心地もとても良い。また、見切りも良いので悪路では一層運転しやすく感じるだろう。

最も気に入った1台は、6MTのフォレスター 2.0iL。極めてコンベンショナルな仕様だった。グリルもマットな装飾で細かな電子制御に頼ることなく事業用の4WDというツウ好みの印象だ。

▲フォレスター X-BREAK ▲フォレスター X-BREAK
▲フォレスター 2.0iL ▲フォレスター 2.0iL

雪道のハンドリングコースでは、インプレッサスポーツ2.0、WRX STI、エクシーガクロスオーバー7なども乗り比べてみた。

エクシーガクロスオーバー7は世代的には最も年季の入った成熟したモデルであるが、乗り心地とパッケージングが良い。ハンドリングも扱いやすくスバルAWDの基本を知ることができるモデルだ。

▲エクシーガクロスオーバー7 2.5i ▲エクシーガクロスオーバー7 2.5i

WRXはとても楽しくドライブできる。フェイント(曲がる方向と逆にハンドルを切り、戻る力を利用したドライビングスキル)とアクセルワークでコーナリングを楽しめた。性能を信じてアクセルでコントロールするとスイッと吸い込まれるようにコーナリングをクリアできるのだ。ラリーが得意なスバルらしいスポーティなセッティングだ。

▲WRX S4 ▲WRX S4

インプレッサスポーツは、しなやかな動きで路面とのトラクションが良い。唐突な動きもなく安心感を与える。新世代プラットフォームは、しっかりとした骨格できちんとサスペンションを動かしていることが、滑りやすい路面状況でもはっきりと分かった。雪道の凸凹とした硬い振動もあってキャビンに伝わりやすいが、そのあたりもマナー良く抑えられており、新しさを感じた。

▲インプレッサスポーツ 2.0i-S ▲インプレッサスポーツ 2.0i-S

4WD一筋、スバルの45年は、ノウハウの宝庫である。車種に合わせたセッティングの豊かさを乗り手に教えてくれる。小手先の技術ではない。

スバルが、“劣化によって商品の現存が難しくなっても、技術は残る”という典型的なエンジニアリング主体の会社であることがよくわかる雪上試乗会であった。

text/松本英雄
photo/編集長 中兼雅之