▲モデルライフの後半となったV40。今回は市街地での試乗を行った ▲モデルライフの後半となったV40。今回は市街地での試乗を行った

成熟したモデル後半の車に試乗する

ボルボ V40に試乗する機会に恵まれた。登場から数年たって、そろそろフルモデルチェンジしてもおかしくないV40だが、あらためて乗ってみて発見があった。我々は出たばかりの車の記事を書く機会は多いけれど、登場からしばらく経過した車となると途端にその機会が減る。けれどもユーザーは新車を選ぶ際、出たばかりのモデルから選ぶとは限らない。登場して評判が高いことを知ってから興味をもつこともあるだろうし、モデル後半になっていい条件を引き出せるから選ぶというケースもあるだろう。またメーカー/インポーターが予告なく仕様を変更するのもよくある話だ。特に輸入車はモデルの最初と最後では印象がかなり違うことも多い(たいていは良くなっている)。

つまりモデルライフの後半に差し掛かった車のインプレッション記事も意味があるはずだというわけだ。またその車が中古車となって流通する頃にユーザーの参考になればという理由から、そのモデルのマイナーチェンジや仕様変更の変遷についてもできる範囲でまとめて、簡単なクロニクルとしても役立たせたい。探した経験のある方ならわかっていただけると思うが、一世代前、二世代前のモデルの情報はなかなか入手しにくいもの。

複雑な変遷をたどり2度目のV40という名前が与えられた

さてボルボ V40。この車名が用いられるのは2回目のことだ。最初は1995年に登場したステーションワゴンの車名として。当時ボルボは三菱自動車と組んでオランダにネッドカーという合弁企業を設立していて、V40はそこで三菱 カリスマなどと一緒に生産された。同じプラットフォームを用いたセダンをS40と呼んだ。2004年にモデルチェンジ。セダンは引き続きS40と呼ばれたが、ワゴンは数字が10増えてV50となった。この頃からボルボはS40、V50、S60、V70、S80といった具合にワゴンに“セダン+10”の車名を付けるようになった。すでにボルボと三菱自動車の合弁は解消されていて、S40/V50はボルボ同様にフォードグループだったマツダと技術やコンセプトを部分的に共有する車となった。

そして12年、S40/V50はモデルチェンジして5ドアハッチバックに一本化された。このモデルの車名としてV40が復活したのだ。ボルボは10年にフォードグループを抜け、中国の吉利ホールディングス傘下となったが、V40は引き続きフォード時代のプラットフォームを用いて開発された。翌13年はじめに日本導入された。同年末にマツダ・アクセラが独自のスカイアクティブシャシーを用いた新型(現行型)へとモデルチェンジしたため、V40とアクセラは同じ年に登場しながらも、ひと世代の差があるということになる。

▲S40/V50が5ドアハッチバックに一本化されてV40の車名が復活した ▲S40/V50が5ドアハッチバックに一本化されてV40の車名が復活した

現行V40は世界的にヒットして、ボルボの世界販売台数向上に貢献した。日本仕様は当初いずれもガソリンエンジンで、1.6リッター直4ターボ(T4)と2リッター直5ターボ(T5)が搭載された。T4には6速デュアルクラッチ・トランスミッション、T5にはトルコン型6速ATが組み合わせられた。翌14年に早くも小さな仕様変更があり、足回りがダイナミックシャシーからツーリングシャシーとなった。具体的には前後ともスプリングレートを落とし、フロントスタビライザーもソフトなセッティングに。登場当初に多かった乗り心地が硬いという評価を受けての変更だったが、実際乗り心地がよくなったと感じたのを覚えている。同じ目的でタイヤも細いタイプに変更となり、副産物として最小回転半径が5.7mから5.2mへと小さくなった。

15年にもマイナーチェンジがあり、ディーゼルの2リッター直4ターボ(D4)が追加された。8速ATとの組み合わせ。このエンジンの燃料噴射装置はデンソー製で、ATがアイシン製、加えてカーナビが三菱電機製と、実はV40は日本のサプライヤーがてんこ盛りの車なのだ。翌16年にT4はなくなり、代わりに1.5リッター直4ターボのT3が6速ATとの組み合わせで設定された。ヘッドランプが新世代ボルボに採用されるトールハンマータイプになったのもこのタイミングだ。またベースグレード、SE、Rデザインだったグレード構成が、キネティック、モメンタム、インスクリプション、Rデザインに変更となった。そして、RデザインのエンジンはT5という呼称のまま、2.5リッター直5ターボから2リッター直4ターボに切り替わり、ATは6速から8速となっていった。

V40の新グレードは299万円からの廉価版

とまぁ、なかなか複雑な変遷を経てきたV40だが、導入から4年目の16年でも日本国内で7006台(クロスカントリー含む)を販売するなど、好調を維持している。そして次期型の噂もちらほら聞こえてくるようになった17年2月、T2キネティックという新グレードが設定された。トピックはなんといっても299万円という低価格だ。従来最も安かったT3キネティックよりも40万円安。言ってしまえば廉価版で、価格を抑えるため数々の機能や装備が省かれている。

まずエンジンはT3と同じ1.5リッター直4ターボだが、最高出力が30psダウンの122ps/5000rpm、最大トルクが3.1kgmダウンの22.4kgm/1600-3500rpmと、ブースト控えめの低いスペックに変更されている。トランスミッションはT3と同じ6速AT。外観はヘッドランプのデザインが前述のトールハンマータイプではなく、マイチェン前のヘッドランプのデザインとなっている。インテリアはクロームパーツが少なく、シートも単一素材のテキスタイルになるなど、全体的に質素。シックともいえる。

▲デザインはマイナーチェンジ前のデザインとなっており、ハロゲンライトが採用されている ▲ヘッドライトのデザインはマイナーチェンジ前のデザインがそのまま継承されており、ハロゲンライトが採用されている
▲クロームパーツなどの装飾が少なく、全体的にシックなイメージのインテリア ▲クロームパーツなどの装飾が少なく、全体的にシックなイメージのインテリア

廉価版でもボルボの安全機能はしっかり搭載されている

試乗開始。早速気づいたのが、キーをポケットに入れたままエンジンオン/オフ、ロック/アンロックができるキーレスドライブが備わらないということ。リモコンキーのボタンを押してアンロックし、所定の位置に差し込んで始動した。多くのボルボには、パワーステアリングのアシストの強さを選べる機能が備わっている。ボルボに乗る際にはいつもアシストを強に設定するので、今回も探したのだが、この機能も省かれていた。

一般道を走らせてみる。T3よりもパワーが控えめなのは、街中での運転でも感じ取ることができるレベルだ。近頃はスポーティな性格の車でなくともパワフルな車が多いので、T2エンジンのV40を運転し始めて数分は穏やかだなぁと感じたが、T3の場合よりもほんの少しアクセルペダルを深く踏めばよいだけのこと。30分もたてばそれが自分の感覚となってなんの不満もなくなった。車両重量1480kgに対し最大トルク22.4kgmといえば十分な数値だし、幅広い範囲で最大トルクを発揮するので実用的だ。

いろいろ省かれているといっても、V40の、というかボルボの購入動機の上位にくるであろう安全装備は上位モデルと同様の内容が備わっている。歩行者エアバッグ、歩行者・サイクリスト検知機能付追突回避・軽減フルオートブレーキ・システム、全車速追従機能付ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、BLIS(ブラインドスポット・インフォメーション・システム)などの先進安全・運転支援技術を含む「インテリセーフ」が標準装備。当然エアバッグの数が少ないといったこともない。

299万円というスーパーマーケット的手法のプライシングを見ればわかるように、T2キネティックはまずV40に興味をもってもらい、ディーラーへ足を運んでもらうためのグレードなのだろう。来店していろいろとセールスパーソンの話を聞き、総合的にはT3の方がお得だなとか、いざ試乗してみるとD4の方が魅力的だなという話の流れになれば、ディーラーとしては万々歳なわけだ。価格の高いモデルを売った方が利幅が大きいわけだから。けれど、特別パワフルじゃなくてもいいし、豪華じゃなくてもいいが、安全装備だけは充実させたいという人にとってはT2キネティックは賢い選択だと思う。だって299万円で同程度の安全装備が備わる車は周りを見回してもない(はず)。

▲今回の試乗車にはアイドリングストップをオン/オフするスイッチが新設されていた。エアコンを途切れさせたくないときにこれがあると便利 ▲今回の試乗車にはアイドリングストップをオン/オフするスイッチが新設されていた。エアコンを途切れさせたくないときにこれがあると便利

【SPECIFICATIONS】

■グレード:T2 Kinetic ■乗車定員:5名
■エンジン種類:直4DOHCターボ ■総排気量:1497cc
■最高出力:90(122)/5000 [ kW(ps)/rpm]
■最大トルク:220(22.4)/1600-3500[N・m(kgm)/rpm]
■駆動方式:2WD(FF) ■トランスミッション:6AT
■全長×全幅×全高:4370×1800×1440(mm) ■ホイールベース:2645mm
■車両重量:1480kg
■JC08モード燃費:17.1(㎞/L)
■ガソリン種類/容量:ハイオク/62(L)
■車両価格:299万円(税込)

 

text/塩見 智
photo/篠原晃一